File1-1「異世界間仲介管理院」
異世界間仲介管理院。
異世界間を移動する人・モノ・事象を管理・統制するために創設された専門機関である。
最果ての園アディヴにその活動拠点を置き、敷地面積はわずか三九.一五平方メートル。数多ある異世界の中で、最小の領土を誇っている。
領土こそ小さいものの、アディヴは行政を全般に担う異世界間仲介管理院の関連施設のほか、商業地区、生産地区、市街地区を抱えた立派な独立自治世界であった。
異世界間仲介管理院で働く管理官たちは日々、様々な世界を行き来するモノたちを厳正な審査の下、異世界へと送り出していた。
異世界間仲介管理院が創設された背景には、神々や世界を取り巻く環境事情の変化がある。
そもそも「神」がこの世に存在し続けるためには、生物の「信仰」の力を糧とする。慣習の違いこそあれ、その存在の根底原理はどの世界も同じだ。
「存在を認識され、想いを注がれ続けること」こそ、人間の言葉を借りるなら神々が「生きる」条件なのだ。
そのため、神々は多くの生物を産み出し、世界の均衡を保ち続けることに心血を注いでいた。
命を生み出し、育て、死んだら新たな命として再び世界へ戻す。
「輪廻転生」という循環システムを保つことで、神々の存在は維持され、数多の世界は神々の加護を受けて秩序を保ってきた。
しかし、近年になって、その均衡が崩れ出したのである。
中でも「人間」の世界観の変容、多様化した価値観によってそれまで固定化されてきた秩序では輪廻転生に支障が出始めたのである。
神々は慌てた。
多様な世界認識は新たな神々を産む。
一方で、未熟な信仰心では神々の存在を維持し続けることは難しい。
結果として、突発的な「信仰」は定着せず、新しく生まれた神々は瞬く間に水泡に帰してしまった。
そうかと言って、古参の神々が安泰かと言われると、それも断言できなかった。
「信仰」の継承が途絶える。より具体的に言えば、異端の名のもとに粛清されて潰えるなど、様々な理由で存在を保てずに消え失せた神々も多い。
「このままでは世界を維持できなくなる」
事態の深刻化を受け、神々は集い、打開策を講じた。
揉めに揉めた神々の会議。
結論が中々出ず、皆が徐々に苛立ちを募らせていった。
その中で、一柱の若い神がある提案を口にした。
「もうどうせならさ、本人が望んだ形で輪廻転生させてあげた方が真剣に取り組むかもよ?」
実際、本当にこんなニュアンスの言葉をその場で言い放ったらしい。
かの神の発言を咎める神はいなかった。
むしろ、会議に集った神々は俄かに活気づいた。
まさに、神々にとって目から鱗の提案だったからだ。
「なるほど、それならば魂を循環させやすくなる!!」
「さ、されど罪を犯したモノには相応の罰を与えなければならない。どうすべきか?」
「それこそ、受け入れた世界の神が枷を与えればよい。どのみち責め苦を味わうなら、本人が望んだ形にしてやれば奴らも文句は言うまい」
「魂の不足した世界にとっても、よい救済案となろう」
「うむ、これでみだりに異世界からの召喚で、各々が管轄する世界の魂を強奪されることも減るであろうな」
「正直、魂の取り合いは面倒くさいからなぁ……」
「ならば、それらを効率よく循環させ、かつ異世界間で起こるトラブルを解決するための専門機関が必要だ」
そうして、あれよあれよという間に創設されるに至ったのが、「異世界間仲介管理院」なのであった。
Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2020