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管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
四章 管理官アラタの異世界召喚仲介業務
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File10-15「アルファの願い」

〝前方、強力な魔力反応あります〟

 ノアの通信に、アラタたちは即座に散開した。巨大な火炎球が、アラタたちのいた虚空を通過する。

「ちっ、避けたか」

 短髪の女性が舌打ちする。明るい茶髪の女性は虚空に幾何学模様を出現させている。彼女の傍で浮いているのは、魔法を使うための法具だろうか。球体に無数の輪が巡っている。

「新手か!」

 呟いたツナギの横で、キエラが双銃を撃つ。飛び出した弾丸が短髪女性の額を貫く前に、見えない壁に弾かれた。

「私たちもおりますよ」

 白い翼を背に持つ桃色髪の女性が、柔らかな笑みを湛えている。その女性を守るように傍に佇んでいるのは――


「アルファ!」


 アラタの鋭い視線が、地平線(ホライゾンブルー)色の髪を遊ばせる青年に向いた。

 純白の槍を手にした青年は、じっとアラタを見据えている。思えば、白の装束を纏う集団と刃を交えるきっかけになったのも、彼だった。

「あなたは本当に、厄介な人です」

 憎悪すら滲ませた声音で、アルファは低く呻いた。

「……そして、本当の意味でカズヤの心境を理解できるのも、あなたしかいないのでしょう」

 アルファは一歩進み出ると、短髪の女性へ顔を向けた。

「タウ、そしてファイ。彼の相手は私が務めます。その他の方々をお願いしますね」

「わかりました」

「……はいはい」

 二人の女性はそう言ってアルファの傍から離れる。

「こちらも、相手の望む通りにしてやりましょう」

 アラタの視線を受け、ツナギも無言で引き下がった。

「目標は近い。そいつとの決着がついたら、先行しろ。我々もすぐに後を追う」

「はい。わかりました」

 ツナギはアラタに、ただそう告げただけだった。アラタは表情を和らげるとしっかりと頷く。

「ジツ管理官、キエラ管理官、私が前衛を勤める。オギナ、アキラ、援護を頼む」

 ツナギたちがファイとタウの誘導に従って離れていくのを見送り、アラタは魔導二輪から降りると炎の中から双剣を取り出す。

 アルファも穂先をアラタに据えると、次の瞬間、一気に距離を詰めてきた。アラタは双剣の剣身で受ける。激しい金属音とともに、火花が目の前で散った。

「〝切り裂け(ナヒウク)〟!」

 見開かれた孔雀石(マラカイトグリーン)色の瞳が、己の中であふれる感情を爆発させた。己が傷つくのも構わず、アラタへ衝撃波を放つ。

「管理官権限執行、魔法攻撃反射!」

 アラタが咄嗟に張った結界に、荒れ狂う衝撃波がぶつかる。それを見たアルファの表情が歪んだ。

「これはまた……あの時と同じ手段で防ぎますか」

「あの時は封印を解く前だったからな」

 初めて出会ったときとは違い、アラタの結界が砕かれることはなかった。

 黒い双眸と孔雀石色の瞳が真っ向から交錯する。

「今ならオメガの気持ちがよくわかりますよ。あなたを見ていると――虫唾が走る!」

 大きく離れるとアルファは右手を突き出す。

「〝爆ぜろ(ケネーカ)〟」

「〝業火(オーサロ)〟」

 アルファとアラタの炎が正面からぶつかる。アラタの放った炎が、アルファの炎を飲み込むと彼へと迫った。

「〝導け(スユリク)〟」

 アルファの全身が風を纏うと同時に、その姿が掻き消える。アラタは咄嗟に左手の剣を背後に突き出した。重い感触と、遅れて届く金属音。

「……その並外れた直感も、オメガがぼやいていましたね」

 悔しそうに顔を歪めるアルファに、アラタは目を細めた。

「なにぶん、何度も死んできたものでね。危機察知能力は高い方だと自負している」

「神々の嫌われ者らしい特技で何より」

 アルファも皮肉を言い放つとともに、目にも留まらぬ速さで槍の穂先を繰り出す。小細工は利かぬと攻撃方法を武術だけに絞ったらしい。アラタも双剣で穂先をいなしながら、アルファの隙を伺う。とはいえ、アルファとて長い時を勇者とともに魔王討伐に捧げた武人である。その連撃に綻びは見られなかった。

 綻びがないなら、こちらが崩す!

 アラタは姿勢を低めてアルファの槍を下から掬い上げた。

「何の!」

 すぐさま長い柄でアラタの繰り出した右手の剣を受け止めた。アラタは口元に笑みを浮かべると右手の剣の実態を解く。

「なっ!?」

 純粋な炎となった剣が、アルファの槍を焼く。アラタの伸ばした腕が、アルファの胸に触れた。


「〝どうか(ポサロ)安らかに(クミテロシ)〟」


 アラタの低い声が囁き、じっとアルファを見つめる。


「〝(ヤウリ)()解き(ホナ)放た(ケキハ)れん(フタ)ことを(オホソ)〟」


 アラタの炎が、目を見開くアルファを焼いた。その灼熱が身を焦がしながらも、アルファの表情はどこか安らぐように穏やかな様子だった。

「ああ……やはり憎らしい」

 アルファの声が震える。

「もう、終わっていいんですね……」

 先に逝きます、カズヤ。

 最後に呟かれた言葉は、炎の爆ぜる音にかき消されていった。

「……」

 灰燼に帰すアルファを見送った後、アラタは新型魔動二輪を駆って闇が深まる場所へと突っ込んでいった。アラタが纏った細かな火の粉が、虚空に軌跡を描く。それはまるで、拡がる闇の中に伸びる一縷の希望のようであった。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2022

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