File10-13「因縁の衝突」
「お前が『アラタ』?」
ゼータが楽しそうな笑みを浮かべてアラタを睨み据えた。対して、アラタは特に表情を変えなかった。その目はゼータを見据えながらも、その意思が警戒しているのは明らかにオメガだった。
轟音とともに大地が抉れる。裂けた大地を見下ろしながら、アラタたちは虚空で身を翻すとゼータとオメガから距離を取った。
「俺を無視してんじゃねぇよ」
拳を地面に振り下ろしたゼータが、全身に紅い空気を纏って威嚇する。アラタは着地すると同時に、炎の中から双剣を生み出す。
「『強者は拳で語るもの』なんて言葉が、ある異世界にはあるらしい」
アラタは目を細め、深紅に染まった双眸でゼータを手招く。
「会話するだけ無駄だと考えている……違うか?」
安い「挑発」でも、ゼータは笑って応じてきた。
「そういうの、嫌いじゃねぇな!」
拳とともに纏った赤い気を操って無数の刃を生み出してくる。
「管理官権限執行、流星矢!」
オギナが弦を引き絞り、光の矢を虚空に放つ。分裂した光の矢が雨のようにゼータに降り注いだ。しかしゼータの全身を闘気があっさりオギナの矢を弾いた。
「管理官権限執行、迷宮」
即座にアキラが右手を掲げる。
「っ!?」
アラタの目前まで迫ったゼータが、どういうわけかアキラの背後に出現する。彼女が得意とする空間干渉で、ゼータの進行方向を強制的に捻じ曲げたようだ。
「てめぇっ!」
「管理官権限執行、水弾!」
「管理官権限執行、御神渡!」
キエラが即座に双銃で水弾をゼータへと射ち、アキラの冷気を纏った氷がゼータの全身に纏わりつく。
「くそっ、舐めんなよ!」
ゼータも全身に炎を纏って氷の呪縛から逃げ出す。そこへ短剣を持ったジツが追撃した。
「あちらはゼータさんに任せるとして……」
ゼータとアキラたちの戦闘を横目に、オメガがアラタに向き直った。
アラタ、オギナ、ツナギがそれぞれの武器を構え、オメガを睨み据える。
「あなたはやり過ぎた」
ツナギの鋭い双眸が、オメガを批判する。
「楽に死ねると思うな」
「そのお言葉、そっくりそのままお返しします」
オメガも担いでいた大剣をアラタたちに向けると、表情を消した。
「神々の横暴を見聞きしてもなおそちら側につく。大罪を犯す者には死あるのみです」
言うや否や、オメガが地を蹴り、アラタたちへ一閃した。
「〝加圧〟」
圧力を乗せた斬撃がアラタたちを強襲する。
「管理官権限執行、守護結界!」
「〝防壁〟」
ツナギ、オギナが防壁を形成する上に、さらにアラタが防壁を展開する。
正面からオメガの斬撃を防壁で受け止めた。斬撃が大地を抉り、霧散する。
「まだまだですよ!」
オメガが大剣を振り上げて嗤う。
「〝怨嗟〟」
「管理官権限執行、特殊防壁」
魂を揺さぶるような金切り声の中、オギナが即座に結界を張った。耳から入り込む金切り声がすぐさま遠ざかる。そんな中を、ツナギとアラタが駆けた。
武器を手に迫る二人に、オメガが大剣を向ける。その刃が黒く染まった。
「〝魂の消滅〟」
「管理官権限執行、地柱槍!」
ツナギが地面に手を突き、オメガの足元から土の槍を生み出す。平衡を崩したオメガが大きく跳躍し、そこへアラタが追いすがる。
「〝救済の光〟」
院長を殺めた黒い刃が迫る中、アラタの真っ直ぐな目が笑みを浮かべるオメガを見据えていた。無数の光の剣が黒い刃に吸われ、砕けた。アラタは手にした双剣で、オメガの肩から胸にかけてその炎の刃を振り下ろしたのだった。
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