File10-11「出陣」
〝管理官各位へ通達、本艦は該当世界領域へ侵入。出撃する管理官はただちに第一開閉部へ急行せよ。繰り返す、管理官各位へ通達、本艦は――〟
〝装備部より全管理官へ、今回の戦闘において全ての管理官権限の即時使用を受け、新たな更新項目が追加された。各位、案内に従って順次作業を行うように――〟
〝転移方陣管理課より管理官各位へ通達。異世界ガラディアへ侵攻する人工魔王軍を捕捉。送信した座標軸を目安に各個撃破せよ〟
〝こちら召喚部のカルラです。管理官各位へ通達。異世界間連合における援軍要請が受理されました。冥界の主神カルトールさまを筆頭に、異世界アスラ、異世界リシェラノントの連合軍がこちらに向かっています。援軍と連携を図りつつ、人工魔王の掃討に当たってください〟
共鳴具から流れる通知が途切れることはなかった。
アラタとオギナは連れ立って魔導軍艦の第六エリアへと急行する。
集いの場を出港した異世界間仲介管理院所属の魔動軍艦は「道」を抜け、広大な世界領域へと飛び出していった。空間を繋ぎ合わせていた道から抜け出してすぐ、艦内は蜂の巣を突いたような慌ただしさに包まれた。
「いよいよって感じだね……」
「ああ……」
オギナの呟きに、アラタも言葉少なに頷く。
各艦の開閉部が開き、そこから幻獣や魔動二輪に跨った異世界間防衛軍の第一から第十部隊が出陣していく。管理官たちが決死の表情で己が向かう戦場を見据えていた。
第六エリアにたどり着くと、すでに皆が集まっていた。
「遅くなりました」
アラタがツナギに声をかける。彼女は無言で頷くと、皆を見回した。
「全員揃ったな。では、我々も戦場へ向かうぞ」
ツナギが背後を振り返る。
アラタを筆頭に、オギナ、ジツ、アキラ、キエラが同時に頷いた。
「オギナ、ジツ、今作戦の要はアキラの干渉術だ。彼女の護衛をよろしく頼む」
ツナギの視線を受け、オギナとジツが同時に頷いた。
「了解です」
「任せてください」
ツナギは次いで、アキラへ視線を向けた。アキラもまた、ツナギの目を真っ直ぐ見据えている。
「アキラ管理官、何かあれば必ず二人を頼るように……」
「ご心配は無用です、ツナギ管理官。確かに経験不足は否めませんが、私も長く管理官として務めてきました。自分自身を守る程度は心得ております」
きっぱりと告げるアキラに、ツナギは僅かに表情を曇らせた。しかしそれも一瞬で、すぐに厳しい表情へと変わる。
「その心意気は買うが、戦場では何が起きるか予測不能だ。念には念を入れる」
「……ご配慮、感謝します」
アキラはそっと目を閉じると静かに呟く。
「ツナギ管理官。アキラ管理官もまた、我らと同じ異世界間特殊事例対策部隊に配属されたのです。ナゴミ課長の判断を信じましょう」
やや張り詰めた空気の中、キエラが言葉を添えた。
ツナギは複雑そうな表情で黙り込む。
「出立する。魔動二輪を駆動させろ」
ツナギの命令に、皆が一斉に手を掲げた。それぞれの指にはめた指輪が輝く。
アラタたちは新型魔動二輪を召喚すると、軽く動作確認を行う。
今回の出陣に際し、アルトが急ピッチで調整をしてくれたものだ。
魔王の瘴気の中でも駆動できるよう、装甲は冥界産の鏡光石が使用されている。装備部部長のシアンの協力もあり、新型魔動二輪は装備を一新させてアラタたちに配布された。
「こちらツナギ、ノア管理官。ここから一番近い目標地点への転移と座標記録を送ってくれ」
ツナギが耳飾りに手をやると、アラタたちを後方より支援するノアが即座に返事を寄越した。
〝こちらノア。座標データは皆さんの共鳴具へ送信いたしました。開閉部付近に『道』の解放を行います。……道の正常解放を確認。いつでもどうぞ――翼の祝福に道を掴まんことを〟
ノアの声が僅かに震えた。
〝……どうか、無事に戻ってきてください〟
「ああ」
か細い声で囁かれたノアの言葉に、ツナギがしっかりとした声音で返事をした。
ツナギがアラタたちを振り返った。
「行くぞ。目指すは『魔神』と『白装束の集団』だ!」
応、と皆の声が唱和する。
アラタたちが跨る新型魔動二輪が開閉部より飛び出す。出現した道へ飛び込むと、アラタたちは光の中を直走ったのだった。
Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2022