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管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
四章 管理官アラタの異世界召喚仲介業務
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File10-8「消滅する世界」

 もろい……。

 それが、カズヤの第一声だった。

 侵攻を開始したカズヤが率いる白装束の集団と人工魔王の軍勢は、手始めに異世界間連合に所属する辺境世界の侵食から開始した。

 命乞いをする神、最後まで己の矜持を保って抵抗した神、カズヤたちを罵倒して散った神……実に神々は多様な反応を示してカズヤたちの軍勢の前に飲み込まれていった。

 中でもゼータとオメガの活躍は目を見張るものがあった。

 もともと戦闘欲求が高いゼータと、元・管理官という立場から神々への憎悪が強いオメガの二人である。ベータから調整を入れてもらった人工魔王を率いて積極的に前線を広げていっていた。

「快進撃は嬉しいですが……これ以上戦線が拡大すると兵力の分散を招きます」

 そう現状を危惧するのは慎重派なファイだ。もともと異世界アヴァリュラスにおいて、大陸の半数を収める帝国の皇女だった彼女だからこそ、戦略的な面で常に冷静な判断を下していた。ここにオミクロンやユプシロンがいれば、彼女の言葉を支持したことだろう。オメガはともかく、ゼータがファイの警告に耳を傾けることがないため、彼女の悩みの種は尽きないようだ。

 まぁ、結果さえ変わらなければどうでもいい……。

「あまりあいつらを責めてやるな。今までのこともあるから、な。ゼータのことはベータとタウが補佐することとし、ファイは全体の平衡(バランス)を見て確実に拠点を増やしてほしい」

 カズヤがそう指示を出せば、ファイも即座に頷く。カズヤの傍らでは、シータが変化する戦況を逐次報告し、アルファが不測の事態に備えて待機している形だ。

 カズヤは今回の侵攻では、後方に留まって動かない。

 拠点としている異世界リエイラに留まり、「千里眼」を通して戦況を絶えず傍観していた。カズヤの世界でも、大将は陣に座して采配を振るうのが常だ。勇者であった頃は常に最前線で戦っていたこともあって、何となく居心地が悪い。しかし、無闇に戦場へ出て消耗することもできない。

 動くとすれば……それは異世界間仲介管理院が動き出した時だ。

 カズヤは鋭い視線を虚空へ向ける。記憶の中に刻まれた黒く真っ直ぐな双眸が、自分を見つめ返してくる。

 アルファから聞いた限り、今もっとも我らが警戒すべきは「アラタ」と彼を擁立する異世界間仲介管理院である。アラタは「転生者」として数多の異世界を転々と生きてきた。勇者として戦場で生きてきたカズヤとはまた違い、幅広い境遇で育ってきた魂である。

 そういう奴が一番厄介なんだよな……。

 カズヤは眉間のしわを僅かに深めた。

 魔物や魔王との戦い方、神殺しの手法、戦における人選……そういった「戦場」における経験だけならカズヤはアラタに負ける気はしない。だが、それ以外の「経験(みち)」を戦場へ持ち出された場合、カズヤは適切な判断ができるか心許なかった。

 数多の異世界を渡り歩いた者だからこそ、知り得た知識が多いことも事実である。たいていの場合は、純粋な力のぶつかり合いである戦争では役立たないものだが、「例外」が常に起こり得るのが戦場である。

「……カズヤ、何をそんなに警戒しているの?」

 傍らでカズヤに戦況を報告していたシータが、こちらを気遣うように覗き込んできた。

「あの、元・転生者の管理官のこと?」

 シータは外見こそ幼い少女だが、実際はアルファ以上に他者の機微に聡い。カズヤはシータに小さく笑いかけると、その頭を右手で撫でた。

「似たような境遇だから、気になるだけだろう。出てこないなら、いずれ呑まれるだけ」

 カズヤは独り言のように囁いた。すると、シータが弾かれたように顔を上げる。

「タウから報告! 異世界間仲介管理院が動き出したみたい! いくつかの部隊に分かれて接近してる!」

「場所は?」

 アルファが即座にシータに尋ね返す。

「異世界グロナロス付近。グロナロスはすでに墜ちたけど……まだゼータたちがいるわ! あ、オメガがいきなり前線を離れた!? もう、何でこう皆自分勝手なの!」

「いや、それでいい」

 カズヤはニッと口元に笑みを浮かべた。

「アルファ、ファイを連れてオメガの戦線を引き継げ」

「わかりました」

 アルファが穏やかな微笑とともに、ファイとリエイラを飛び出した。

「いいの? ゼータたちやオメガを放っておいて」

「構わないさ。それにオメガは早々に潰れてもらった方がいいかもしれない」

 カズヤはそう言って、暗い笑みを浮かべる。

「加護を得るために仲間を殺すような奴だ。いずれ、俺の魂を飲み込もうとするだろうからな」

 シータが青い顔をして絶句している。

「カズヤ、そうと知っているならどうしてオメガを殺さなかったの!?」

 カズヤの腕を掴み、叫ぶシータ。その少女の顔に目を向けたカズヤは小さく笑った。

「オメガには、アラタ管理官をどうにかしてもらいたいからだよ」

 彼の加護に対する並々ならぬ執着の起点には、常にアラタがいた。だからこそ、彼はどんな手を使ってもアラタを超えようとしたのだろう。あるいは、己の魂に加護が刻まれていないことに対する劣等感が、魂に過分な加護を刻まれているアラタに対する嫉妬へと変わったのだろう。

 だからこそ、オメガはアラタの大切なものを奪うために、力をつけてきている。

「……やり方は褒められたものじゃないが、どうしても負けたくない相手ってのはいるだろう?」

 カズヤはそう呟いて、どこか少年のように笑った。

 皮肉にも、アヴァリュラスの永獄を出てカズヤが初めて見せた、少年らしい笑みだった。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2022

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