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管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
四章 管理官アラタの異世界召喚仲介業務
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File10-7「アラタの選択」

「私は、あなたを犠牲にするつもりはありません」

 こちらへ手を差し出すアルシが、アラタの言葉に目を見開いている。しかし、すぐにその表情が悲しみに歪んだ。

「この状況で貴官が私にかける慈悲はあまりにむごい仕打ちです」

「これ以上、私の周りの誰かが犠牲になることが嫌なだけです」

 アラタが目を閉じると、瞼の裏に焼き付いたのは苦しそうにこちらへ微笑みかけてきたマコトの顔だった。


 ――私は、貴官の可能性を……信じている。


「私は絶対に、あなたの期待を裏切りません」

 アラタは小さく呟くと、目を開け、真っ直ぐアルシを見据える。

「誰かを犠牲に強くなるのは、白装束(連中)と同じです。誰かがこれまで培ってきた記憶(能力)を横から奪い取り、それで得た勝利にあなたは喜べますか?」

「……貴官の言いたいことはわかります。しかし、現状、そのような呑気なことを言える状況ではないのです」

 世界は刻一刻と破滅に向かって進んでいる。白装束の集団が動き出すのも時間の問題だ。もはや猶予はなかった。

「アルシ院長のご指摘も最も……しかし、あなたは大切なことを一つ、忘れていますよ」

 アラタは怪訝そうに眉根を寄せるアルシに、そっと微笑みかけた。

「我々が管理官として、どれだけの時を世界秩序の維持に費やしてきたか。元・転生者であるからこそ、私はその『強み』を知っています」

 アラタは己の左胸に拳を当てる。戦闘時における管理官敬礼で、アルシに告げた。


「そこで、私は異世界間仲介管理院に所属する全ての管理官の協力を要請します」


 アラタの言葉に、アルシは僅かに目を見張った。

「我々に協力を……? アラタ管理官、一体、何を考えているのですか?」

 アラタは満面に笑みを浮かべ、己の腕にはめた腕輪型の共鳴具を掲げた。

「我々が送り出した『勇者』たちもまた、たった一人で魔王を討伐した人ばかりではありません」

 アラタの意図を察したアルシは、やがて穏やかな表情で頷いた。

「なるほど、スグルから聞いていた通りです。まったく……あなたはどこまでも、無茶苦茶な人です」

 アルシは呟いた後、その表情を引き締めた。目を閉じ、何かに耳を傾けているように沈黙する。

「どうやら、連中が本格的に動き出したようです」

 アルシは閉ざしていた双眸を開き、アラタを真っ直ぐ見据えた。

「スグルには私から伝達します。アラタ管理官はすぐにでも元の世界へ帰還してください」

 そうしてアルシは静かに笑った。

「さすがはミノルくんが目を付け、マコトくんが育てた人財です。いっそ、胸のすく思いですよ」

「皆に負担をかけます……ですが――」

 魂に加護を持たない者の中にも、優秀な人はいる。

 アラタのはっきりとした言葉に、アルシは嬉しそうに頷いた。

 目を閉じた一瞬の間に、アラタは青く輝く鉱石の部屋へと戻って来た。周囲には誰もいない。ふと腕にはめた腕輪型の共鳴具へ視線を向けると、通信が入っている。明滅を繰り返すそれに指を伸ばすと、虚空にスグルの顔が映し出された。


〝ああ、無事に戻ってきたのだね。アヴァリュラスの魔神、並びに白装束の集団が動き出した。今、異世界間連合の神々にも働きかけ、迎撃体勢を整えているところだ〟


「わかりました。すぐに現場に向かいます」

 スグルに向けて頷いたアラタに、スグルがどこか安堵したような表情でアラタを見据える。

〝それが、君の出した答えかね?〟

 唐突に、スグルが言った。彼の言わんとしていることを察したアラタは、無言で頷く。

〝そうか……〟

 スグルはため息とともにそっと目を閉じた。

〝感謝する、アラタ管理官。貴官と異世界間仲介管理院に所属するすべての管理官の健闘を願う〟

「必ずや、ご期待に添えるよう尽力いたします」

 アラタは通信を切ると、駆け出した。

 静寂に満ちた宮殿を飛び出し、集いの場に顔を合わせた仲間たちのもとへと合流した。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2022

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