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管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
一章 管理官アラタの異世界転生仲介業務
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File2-2「不可解な転生者」

 事務室に戻ったアラタは、どこか腑に落ちない表情で(デスク)に向かっていた。

 彼の前に広げられているのは、新しく担当することになった鈴木一良に関する経歴書だった。

 待魂園から戻ってくるなり、アラタは資料を睨みつけたまま唸っている。

「……んー」

「アラタ、どうかしたの? 深刻な顔して」

 遅れて戻ってきたオギナが、眉間に深いしわを寄せたアラタに問いかけてきた。

「また新しく担当になった転生者と、上手くいかなかった?」

「いや、今のところ、そんなことはない」

 アラタは何とも微妙だという表情で、オギナを振り返った。

「今回の転生者は良い人だ……とは、思う」

「……なんか引っかかる感じだね」

 オギナもアラタの机に寄り掛かると、難しい表情で呟く。

「経歴を洗っても、特におかしな点は見当たらない。本人も、幸せな人生だったって満足そうに笑っていた。昔話をしているときの言動も、心からそう思っている様子だった」

 アラタの言葉に、オギナが目を細める。

「それなのに……()()()()()()()()()。それが引っかかる?」

「ああ……」

 アラタは取り寄せた資料を睨んだまま、眉間のしわを深めた。

「異世界への転生を希望する者は、たいていがその世界の秩序体制では己の欲求が満たされない者がほとんどだ。だから神々は己が治める世界とは別の世界で、その魂が幸福を得られるよう送り出す」

 転生には二つのパターンがある。

 自分が生まれ育った世界での転生と、異世界への転生だ。

 前者は一般的な転生で、神々が介入するほどの致命的な心残りや未練のない魂が同一世界で生まれ変わるもの。

 対して、後者は同一世界では魂の救済が困難であると判断された場合の対処となる。

 すなわち、世界や文化、神々に対して強い「失望」を抱き、その世界で再び生まれ変わっても、魂が歪んでしまう可能性がある場合だ。

「その魂に執着した挙句、魔王を生み出しては元も子もないからね」

 オギナがため息をつきながら頷く。

 神々としては、自分が治める世界から魂を外部へ送り出すことなどしたくないというのが本音である。魂が減ればその分、その世界を治める神に対する「信仰」が減ってしまうためだ。

 しかし、魂に刻まれた歪みを無視し続け、同一世界での転生を続ければやがてその魂は「魔王」になってしまう。

 いつ爆発するかわからない爆弾を抱えるくらいなら、他所へやってそちらで上手く対処してもらおう。魔王化防止対策の一環という名目で、扱いづらい魂をお互いに押し付け合っているといった状況だ。

 これが、異世界転生の実態である。

 もちろん、それが良い結果をもたらす場合も多い。

 異世界の神々にとって、己の治める世界をより豊かにしてくれる可能性がある(じんざい)だ。異世界からもたらされた技術によって、その世界が発展途上にあった文化レベルが飛躍的に高まったという報告も数多ある。

 その一方で、失敗すれば最悪の場合(ケース)で滅亡する危険性(リスク)があるのだ。

 神々にとっては、一種の博打だろう。

 魂を受け入れる側の神々は常に危険(リスク)と利益を天秤にかけて判断を下していた。

「それで、その転生者の要望は?」

 オギナの言葉に、アラタはファイルに挟んだメモを見る。

「生前連れ添った妻と同じ世界への転生。彼はこのことに対して、もっとも強く念押ししてきた」

 アラタの言葉に、オギナが苦い表情のまま笑った。

「ねぇ、アラタ……すごい、的中率だね。君の担当した転生者、面倒事のにおいがするよ?」

「言うな……俺だってすごくそんな感じがしたんだ」

 沈痛な面持ちで項垂れるアラタに、オギナは軽く彼の背を叩いた。

「コーヒーでも飲んでいったん落ち着こうか」

 オギナはそう言ってその場を離れる。

 アラタは盛大なため息を吐き出す。乱暴に頭を掻きむしっていると、すぐに両手にマグカップを持ったオギナが戻ってきた。

「一応、課長に報告しておこうか。こういうことは場数を踏んでいそうな年長者に相談するのが一番だよ」

「そうだな」

 アラタは礼とともにオギナが差し出してくるマグカップを受け取った。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2020

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