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管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
三章 管理官アラタの異世界間事象管理業務
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File9-12「動乱の火種」

 デルタの妨害網を突破したアラタたちは魔導二輪を繰り、防壁片の漂う虚空を縫っていた。今までの静寂が嘘のように、人工魔王と思しき異形の魔物があちこちから湧いて出た。

「管理官権限執行、雷帝の怒り!」

 サテナが操る雷撃が、人工魔王たちを消し炭に変える。ツナギも飛び出すと、周囲に浮かんでいる防壁片を蹴り飛ばして、人工魔王たちを巻き添えに粉砕していく。

「三人は先へ進め!」

 ツナギの指示が飛び、カイが長杖を高々と掲げる。

「管理官権限執行、推進力増強」

 カイの補助を受け、アラタ、オギナ、サテナの三人はさらに速度を上げて人工魔王群を抜けていく。

「さて、隠れていないで出てきてもらおうか」

 アラタたちの背を見送り、ツナギの鋭い目がある一点を睨む。

「裏切りの代償は大きいですよ――元・防衛部部長ラセツ!」

 ツナギの呼びかけに応じるように、防壁片の影から全身を鎧で覆った巨躯が姿を現す。禿頭の勇士は、その厳めしい顔を変えることなく、かつての部下たちを見据えていた。

「ふんっ、私は元より管理官ではない。神々の犬に成り下がるなど、こちらから願い下げだ」

 彼はそう言って目を怒らせる。

「我が名はユプシロン! 〝動乱の火種〟なり!」

 ユプシロンは朗々と名乗り上げると、その手に巨大な戦斧を握りしめた。戦斧を高々と掲げ、周囲の人工魔王たちの士気を上げている。

「厳格……そう呼ばれたあなたらしい言い方だな」

 ツナギは両手を覆う鉄籠手を胸の前で打ち合わせた。

「おかげで心置きなく征伐できるというもの」

 ツナギの目が据わる。ユプシロンも眉間にしわを寄せて鼻で笑った。

「ふん、小娘がほざきおって」

 ツナギとユプシロンが正面からぶつかる。

「加護を使うまでもない。貴様らとは生きてきた時間(とき)が違う!」

 火花が無数に散り、ぶつかり合う度に、周囲の防壁片が飛ばされていく。人工魔王たちが巻き添えを食らわないように退避する。そこをカイが狙った。

「管理官権限執行、風神の悪戯、炎神の裁き!」

 風の渦に巻き込まれた人工魔王たちが、燃え盛る火炎の中に消えていく。

「管理官権限執行、能力向上、効果範囲拡大」

 カイは続けて己の長杖に強化を付与すると、その先端をぶつかり合うツナギとユプシロンへ向けた。

「管理官権限執行、炎槍追撃!」

 ツナギが拳を振り上げた瞬間を狙って、カイが魔法効果を付与した。ツナギの攻撃に合わせ、虚空に生まれた無数の火炎槍がユプシロンを強襲する。

「〝守護せよ(ニユチオー・ネエ)〟」

 見えない壁がユプシロンを包み込む。壁にぶつかった火炎槍がその形を変え、ユプシロンの防御壁を飲み込んでいく。

「管理官権限執行、雷帝の拳!」

 ツナギの拳を稲妻が覆い、炎に包まれたユプシロンへ振り下ろす。

 激しい爆発に、ツナギが大きく後退した。

 炎の中から飛び出たユプシロンも、全身を煤に汚しながらもさほどの衝撃(ダメージ)を受けたわけではなさそうだ。

「……咄嗟に防壁を解除して衝撃とともに飛び出たか」

 ツナギが舌打ちとともに構えを取る。

「見事……先ほどの発言は取り消そう」

 ユプシロンは手近の防壁片に着地すると、戦斧で足場を突いた。

「ツナギ管理官の迷いのない一撃。そして、その威力を最大限に生かす隙のない支援……カイ管理官、成長したな」

 ユプシロンはその顰め面をわずかに綻ばせた。カイが唇を引き結び、くしゃりと顔を歪める。

「おかげさまで。相棒がああいう性格なものですので……たいていのことには対応できるようになりましたよ」

「貴官らへ敬意を表し……我が魂に刻まれた加護(ちから)、そのすべてをもって戦おう!」

 ユプシロンの両目が黄金に輝く。

「〝獅子王(ニニコサ)(・モ・)威厳(ツクータ)〟」

 ユプシロンの全身を光の鎧が覆う。

 カイは長杖を手の中で回すと、即座に術式を展開した。

「管理官権限執行、風刃、氷槍、炎舞!」

 風と氷、炎の刃を同時に生み出し、ユプシロンへ向ける。ユプシロンはカイの魔法を、手にした戦斧を回転させることで防ぐ。

「管理官権限執行、金剛拳!」

 防御に徹したユプシロンへ、ツナギが打ち込む。

「〝鉄壁(ラインメナ)〟」

 即座にユプシロンの全身を覆った光の鎧が、盾となってツナギの拳を防ぐ。

「管理官権限執行、破砕!」

 ツナギの振り下ろした拳が黒い靄に包まれ、光の盾を砕く。

「くっ……〝強化(ナエンサロ)〟!」

 ユプシロンも光の鎧を防御壁に変えた。二人の魔法が正面からぶつかり合う。火花が散る中、ツナギは歯を食いしばって拳を押し込んだ。彼女の全身に、衝撃によって裂傷が刻まれていく。

「管理官権限執行、推進力増強!」

 虚空を蹴り、勢いをつけたツナギの拳がユプシロンの防御壁を砕いた。彼女の籠手に装着された刃が、ユプシロンの顔面に食い込んだ。

「終わりだ」

 ツナギの鋭い目元を、血の筋が伝った。

 ユプシロンの身体が虚空に舞い、漂う防壁片の上へと墜落する。

 ツナギが全身を血まみれにした状態で、ひゅうっと喉を鳴らした。

「ツナギ管理官!」

 すぐさま駆け付けたカイがツナギに治癒を施す。その間も、ツナギの視線は倒れたユプシロンを見下ろしていた。

「……見事、だ。ツナギ、管理官……」

 ユプシロンの全身に走った亀裂が広がり、やがて粉々に砕けて消えていった。ツナギは肩で息をつきながら、血だらけの拳を固く握りしめる。

「……あなたを信頼してついてきた、多くの管理官の無念を受けて逝け」

 虚空へと消え失せるユプシロンに向けて、ツナギの静かな声が厳かに告げたのだった。

「……先を急ごう」

 ツナギは自分に治療を施すカイをそっと促した。

「連中はその総力を持ってアラタ管理官の行く手をふさぐはず……急ぎ、加勢に向かう」

「はい、ツナギ管理官」

 ツナギの指示に、カイも即座に頷いたのだった。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2022

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