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管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
三章 管理官アラタの異世界間事象管理業務
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File9-11「永獄侵攻」

 新型魔導二輪を駆り、アラタたち異世界間特殊事例対策部隊はアディヴ近郊の世界領域まで進軍していた。途中、アディヴを襲撃した人工魔王との戦闘も想定されていたが、ここまで異形の影すら見当たらなかった。

「ここまで容易に侵入できるってなると、なんか肩透かしくらった気分だねぇ……」

 サテナも眉を顰め、どこか納得いかない様子で呟く。

「どうやらアヴァリュラス空間領域に戦力を集中させているようです。ノア管理官からの情報を共有します」

 キエラが共鳴具を通して、アラタたちにノアに問い合わせた内容を送った。

「ツナギ管理官、編成はどうする?」

 アリスが先頭を進むツナギに呼びかけた。ツナギは逡巡するように黙った後、一瞬だけアラタに視線を向けた。

「今回、アラタ管理官を主戦力とした編成でアヴァリュラス領域へ突入する」

「……え?」

 アラタは目を丸める。当の本人以外は、むしろ納得した様子で頷いた。

「それがいいね。いざって時に魔王の力を無力化できるの、キカル管理官しかいないし」

「アラタ管理官な。では、アラタ管理官を永獄へ送り出すために、我々はどのように動けば?」

 サテナにしっかり訂正を入れ、カイが指示を仰ぐ。

「アラタ管理官」

 ツナギの呼びかけに、アラタは即座に返事をした。

「貴官はアヴァリュラスの世界領域に突入後、速やかに防壁へと侵攻せよ。たとえアルファ、オメガの姿を見かけたとしても、防壁の防御を優先してほしい」

「……っ、承知しました」

 ツナギにあらかじめ釘を刺され、アラタは悔しそうに顔を歪めた。そんなアラタの様子に、ツナギが苦笑する。

「まぁ、まず白の集団か、裏切者の勇者のどちらかとは防壁の前で戦闘が起こるだろう。奴らの目的も、永獄に封じられた魔王なのだから」

 そこで、補佐としてオギナとサテナをつける。

 ツナギの言葉に、サテナがあからさまに嬉しそうな顔をした。

「やったね! 大暴れできる配置(ポジション)じゃん!」

「今からでもカイ管理官と交換しても私としては構わないんだが?」

 ツナギのひと睨みに、サテナはすぐに大人しくなった。カイがものすごく心配そうにサテナの背を見つめている。

「私とカイ管理官、アリス管理官とキエラ管理官でアラタ管理官たちへの応援が可能な空間領域内で敵方の戦力を削る。もしも連中が我々を防壁へ近づけないために攻勢へ出た場合は、我々四人がアラタ管理官の活路を切り開く。皆、それぞれの役目を確実に果たせ」

「了解」

 皆が一斉に頷くと、ぽっかりと穴の開いた空間が目前に迫ってきた。

 まず目を引くのは、空間の中央に浮いた方形の牢獄だった。いくつもの防壁に囲まれた牢獄は、その周辺を破損した無数の防壁片が取り巻いている。魔王によって破壊尽くされた世界は、防壁片以外のものが一切ない。混沌とした暗闇ばかりが広がる、荒れ果てた世界だった。

「……これが、この世で最悪の結末を迎えた世界の、なれの果て……」

 オギナがハンドルを握ったまま、表情を歪めた。

「敵勢反応を捕らえました! 前方、目視可能! 白の集団と思われます!」

 キエラの叫びと同時に、無数の光の軌跡がこちらに向かって虚空を流れてきた。

「散開、回避!」

 ツナギの命令に従い、皆が一斉に散った。

「管理官権限執行、守護結界」

 アラタは即座に結界を形成し、迫る光線から身を守る。

 キエラやオギナは武器を構えると、早撃ちですべての光線を打ち消していた。

「お返しだよ! 管理官権限執行、水神の嘆き!」

「管理官権限執行、氷神の憎悪!」

 長杖を手の中で回し、サテナが無数の水の槍を放つ。そんなサテナをカイが即座に補佐した。

 冷気を帯びた水が氷の槍へと変貌し、それが光線を放った人物へ迫る。

 すると、氷の槍に割り込む形で巨大な盾を装備した騎士が受けた。巨大な盾が凍り付き、受け止めた盾の端が僅かに欠ける。

「やぁ、久しぶりだね」

 腕を組んで傍観していた青年が口元に笑みを浮かべた。淡い緑髪に目元を覆う黒いレンズの眼鏡(バイザー)をかけた青年――デルタが立ちはだかっていた。

「デルタ……」

「やぁ、グロナロス以来だね」

 デルタが両腕を広げると、何もない空間から無数の騎士たちが現れる。

「あの時は遅れをとったけど、今度はそうはいかない。軍勢を操る俺の本領、ここで発揮させてもらおうか」

「ここは我々で相手をする。アラタ管理官、ツナギ管理官たちは先に行け」

 アリスが長杖を手に、キエラへ目配せをする。

 すぐさま、キエラが双銃を構えた。

「抜けられるもんなら抜けてみろよ!」

 デルタの命令に従い、全身を甲冑で固めた騎士たちが一斉にアラタたちへ襲い掛かる。

「ウルタ管理官、一気に駆け抜けるよ! 管理官権限執行、推進力増強!」

「アラタです!」

 アラタとオギナ、サテナは魔導二輪に推進力増強の効果付与を行うと、襲い掛かる騎士たちの間を縫って、前進する。

「防御陣形! 右翼、左翼より遊撃隊で押し込め!」

 デルタの指示が間髪入れずに飛んだ。

「管理官権限執行、効果範囲増大!」

「管理官権限執行、流星弾!」

 アリスの支援を受け、キエラの双銃から放たれた弾丸が襲い来る騎士たちの胸や頭部を貫いた。

 無数の光の粒子となって消えていく守護騎士に、デルタが驚きの声を上げる。

「加護なしのくせに、なんで……」

「お前、知らないのか?」

 デルタの様子に、アリスがどこか呆れ顔になる。

「アヴァリュラスの魔王となった勇者は神すらも飲み込み、その魂に莫大な加護を刻んだ。そんな化け物を神々が封じる際に、この領域ごと隔離したのは、魂に刻まれた加護の効果を弱めるためだ」

 アリスが長杖の先をデルタにつきつけ、その顔に不敵な笑みを浮かべる。

「つまり、この領域では『勇者』を除く、加護持ちの能力は普段の半分以下にまで下がる!」

「はっ!? ふざけんなよ!」

 激昂するデルタの横を、アラタたちがすり抜けていった。

「くっ、追え!」

 デルタが即座に騎士を召喚して差し向ける。それを、キエラの銃弾が悉く撃ち抜いた。

「お前の相手は私たちだ」

 アリスが長杖で肩を叩きながら、その双眸の鋭さを増す。

「我々の仲間を消し去った貴様らの罪、存分に償ってもらうぞ」

 アリスの通告とともに、彼女が掲げた長杖が魔法陣を描いた。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2022

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