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管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
三章 管理官アラタの異世界間事象管理業務
169/204

File9-2「混乱する戦場」

〝管理部権限管理課より、全管理官へ通達! アディヴ襲撃により、いつ通信が途切れるかわからない。知り得た情報をできる限りすべての管理官と共有する! 共鳴具から通信をこのまま受け取り続けてくれ!〟


 共鳴具から流れた男性管理官は硬い声音で告げた。

 それは「死」を覚悟しての言葉だった。

〝防衛部院内守備隊から転移方陣管理課へ! 待魂園付近、待魂園の職員が転生者の避難誘導を開始した! 転移方陣の起動を要請する!〟

〝転移方陣管理課より院内守備隊へ! 第一方陣はダメだ! 敵の攻撃によって破損、起動が難しい! 第三方陣へ誘導し、逐次避難を!〟

〝こちら装備部! 転移方陣管理課へ進言! 緊急時特例により魔動軍艦を起動させる! 転生者・召喚者・非戦闘員を第五方陣まで誘導せよ!〟

〝転移方陣管理課からアディヴ防衛に関わる全ての管理官へ通達! 市街地に近い場所にいる人々は第五方陣へ! 異世界間仲介管理院内に近い者は第二・第三・第四方陣へ誘導せよ!〟

〝こちら召喚部から管理官各位へ! 異世界の神々からの受入申請が通った! 第三方陣の周りの守備を固めたい! 近くにいる管理官は応援を――〟

 絶えず、共鳴具から仲間たちの声が飛び交う。混乱の中にあっても、必死に状況を伝え合う仲間たちの声を聞き、アラタはさらに天馬の腹を蹴った。速度がぐんっと上がる。

〝こちら防衛部異世界間防衛軍第一部隊隊長のヒューズだ! 現在外界にて活動中の全管理官に告げる! 第一~第六部隊は至急、アディヴへ急行しろ! 第七~第九部隊はそのまま勇者支援を続行! 第十部隊は部隊を半分に分け、外界側とアディヴ側の支援員をそれぞれ派遣せよ!〟

ヒューズの指示が共鳴具から飛び込んできた。

〝こ、こちら防衛部院内守備隊! 市街地の七ブロック、魔王により突破されました! 応援を、うわぁあああぁっ!〟

「アラタ管理官、飛ばし過ぎるな! 天馬が潰れるぞ!」

 仲間の悲鳴が共鳴具を突いて飛び出た瞬間、ツナギがアラタの背に叫んだ。

「このままでは全滅してしまいます!」

 光の道をひたすら進み、アラタは叫び返した。気持ちはひたすらに急いていた。

 こうしている間も、アディヴの地に残っている仲間たちの顔が浮かんでは消えていく。

 また、失ってたまるか……っ!

 ギリッと噛み締めた歯が軋む。

「ねぇ、カツギ管理官」

 アラタの隣まで天馬を走らせたサテナが、ひどく場違いなほど和やかな声で話しかけてきた。

「アラタです! 何ですか!」

 サテナは普段から他人の名前を間違える。それを差し引いてもサテナは悪い人ではないが、この時ばかりはアラタも笑って受け流すことができずに八つ当たりじみた返事を投げつけることとなった。

「君、さっきの『勇者』みたいになってるよ」

 サテナの静かな声が、アラタを冷静にさせた。それは今のアラタにはひどく屈辱的で、同時に衝撃だった。アラタの握っていた手綱が緩む。天馬が少しだけ速度を落とした。

「周りが見えてない。生き急いでいる感じだね。そんなに怖い? 仲間が死んじゃうんじゃないかって? それはここにいる皆が感じているものだよ」

 サテナがいつになく真剣な表情で道の先を見据えている。

「俺たち、最善を尽くしているよね? 俺たちはこれから『戦い』に行くんだ。なら、不意を突かれた仲間以上にある程度、万全の状態を維持しなきゃならない。ヘロヘロになって助けに来られても、俺だったらなんでそんな状態で来たよって呆れちゃうもん」

「……すみません」

 アラタが小さく呟いた。

「ま、アディヴにいる人々は全員、管理官になるための教育を養成学校で受けている。ある程度は、非常時での備えを心得ているはずだ」

 共鳴具から流れる仲間の悲鳴にも、サテナは動じなかった。

「しかし……これは――」

 耳を塞ぎたくなる。アラタは顔を歪めて目を閉じた。

「必死に戦っている仲間の最期に、耳を閉ざすな!」

 アリスの声が、俯いたアラタを叱った。

「最後まで耳を傾けろ! 彼らが命がけで残してくれる情報を無駄にするな!」

 アリス本人がひどく苦しそうな顔をしている。それでも気丈に振舞って前を向いていた。

「アリス管理官……」

 アラタは手綱を握り直すと、適度に天馬の腹を蹴りながら速度を維持する。

「第一方陣が破壊されたのは痛かったですね。おかげで避難路がだいぶ分散してしまいました」

 仲間からの情報を整理しながら、キエラが呟く。

「第一方陣は他の転移方陣以上に大規模な設備だ。標的にされることは想定内だろう」

 ツナギが苦々しく呟いた時だった。


〝皆さん、聞こえますか?〟


 不意に、アラタたちの共鳴具から異世界間特殊事例対策部隊の紋章が浮かび上がる。現状、同じ部隊で通信を寄越してくる人物は一人だけだった。

「ノア管理官! もうすぐそちらに着く! どうか持ちこたえてくれ!」

 アリスが共鳴具に叫んだ。

〝皆さんの位置は把握いたしました。これより第四方陣へ誘導します。そのまま、『道』を通ってアディヴ内へ急行願います〟

「了解した! 現在、もっとも助力が必要な場所はどこか?」

 ツナギの問いに、ノアがすぐさま答える。

〝現在、もっとも手薄な防衛網が第二方陣と中央塔です。第三方陣はカルラ部長を筆頭に召喚部の管理官たちが守備を固めています。第四方陣は第十部隊が無事に合流、サクラ隊長の指揮の下、持ち直しました。中央塔ではナゴミ課長とセツナ課長が奮闘していますが、なにぶん、敵方の攻勢も強く、人手が足りません。転生者の避難もまだ完了していませんので、第二方陣まで失うわけにはまいりません〟

〝こちらヒューズだ。第一部隊もまもなく到着する。中央塔・第二方陣は我々が請け負おう。アリス、サテナとカイとともに第二方陣の指揮を頼む。俺は中央塔で指示を出す〟

「わかった! ヒューズ、油断をするなよ!」

 アリスが力強く請け負った。

〝無論だ。そしてツナギ管理官、アラタ管理官、オギナ管理官、キエラ管理官は白装束の連中と勇者の討伐を頼む。司令塔さえ叩けば人工魔王の指揮系統も乱れるはずだ〟

〝人工魔王を操っている者を特定します。少しお時間をください〟

 ヒューズの指示にノアが即座に言った。

〝こちら防衛部のサクラです! ヒューズ総隊長、こちらにも応援をお願いいたします!〟

 不意にサクラの切羽詰まった声が割り込んだ。

〝増援か?〟


〝いいえ、裏切り者です! ラセツ部長が……敵方につきました!〟


「なっ!?」

 共鳴具を通し、アラタたちは驚愕のあまり二の句が継げなかった。

〝……そうか〟

 ヒューズの妙に冷静な声が続ける。

〝ツナギ管理官、すまんが中央塔での指揮を任せたい。俺は部下数名を連れ、裏切り者を討つ〟

「……承知した」

 ツナギがすぐさま頷く。

〝召喚部のカルラです! 急ぎ中央塔にも人を向かわせてください!〟

 カルラからも通信が入った。普段の余裕じみた態度は感じられない。

「うわー、もうしっちゃかめっちゃかだねー。今度は誰が裏切りました?」

 さすがのサテナも嫌気がさした顔で呟く。

〝転生部部長セイレン並びに、転生者監視課課長ライラ、そして防衛部部長ラセツは白装束の連中の仲間です! セイレンとその仲間――オメガが院長を襲撃したとジツ管理官から連絡が入りました! 現在、ジツ管理官が奮闘していますが、一人では抑えきれません! 院長も負傷しているとのこと……急いでください!〟

「オメガが、院長をっ!?」

 アラタの心臓が大きく跳ねた。サッと全身の血が沸騰する。

「アラタ管理官、キエラ管理官両名はすぐさま院長たち救出に向かってくれ! オギナ管理官、私の補佐を頼む!」

「はい!」

「了解です!」

「承知いたしました!」

 ツナギの指示に皆が頷いた時、光の道が途絶えた。アラタたちは黒い煙が立ち上る空へ飛び出す。アラタの目に映ったのは、紅蓮の炎に焼かれたアディヴの変わり果てた姿だった。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2022

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