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管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
一章 管理官アラタの異世界転生仲介業務
16/204

File1-15「一難去って……」

 アラタは転生者監視課から受け取った報告書を眺め、大きく息をついた。

「百香ちゃん、元気にやってそう?」

 アラタの表情を見て、向かいの(デスク)からオギナが顔を覗かせた。

「もう『百香』じゃない」

 アラタはそれだけ言うと、報告書をファイリングして席を立つ。

「あんなに入れ込んでいた割に、反応薄いね」

「誤解を招く表現するなよ」

 からかうオギナに、アラタは笑いながら軽く肩をすくめた。

「オギナ、色々助けてくれてありがとう」

 アラタは目を伏せ、オギナに感謝の言葉を述べる。

「まだ管理官として、転生者とどう向き合えばいいのか。自分の気持ちにもどう折り合いをつけていくのか。手探りの状態ではあるが、今回のことで一歩進めた気がするんだ」

「そっか」

 オギナは頬杖をつくと、満足そうに笑っている。

「今度、俺の食事にも付き合ってくれ。何かおごる」

「おっ、それじゃ今日の仕事終わりどう? 気になってる店があるんだ」

「じゃあ、寄ってみるか」

 オギナと仕事終わりの予定を決めると、アラタは事務室を後にした。

 公園を横切り、雑木林のトンネルを抜ける。

 待魂園の門をくぐると、新しく担当となった転生者の部屋を訪問した。

「どうぞ」

「失礼します」

 アラタが部屋に入ると、真面目そうな性格が伺える三十代後半の男性が佇んでいた。

 彼はしっかりと身だしなみを整え、アラタを丁寧に部屋へ迎え入れてくれた。

「初めまして、私は管理官のアラタと申します。短い間ではございますが、新たな人生を充実したものとするべく、お手伝いさせていただきます」

「こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします」

 男性はにこやかにアラタへ挨拶した。

 新しく担当となった男性は礼儀正しく、百香のような無理難題は決して言わなかった。

 彼からの要求は、生前に飲食店でシェフをしていたこともあり、自分の料理の腕が存分に振るえる世界であってほしいというものだった。

「他に、ご要望などはありますか?」

 アラタがメモを取りながら男性に尋ねる。

 すると、男性は少しばかり頬を赤らめ、恥ずかしそうに体を揺らした。

「その……実は生前は独り身でして。できれば、次の世界では妻を得たいのですが……」

「問題ありませんよ。もちろん、相手の意思もありますので確約はできませんが、転生先の神さまにご縁の加護をお願いすることは可能です。やはり、ご自身のお仕事に理解ある方がよろしいでしょうか?」

 アラタはどこか微笑ましい気持ちで問い返した。

「ぜひ、お願いします! そしてできれば、妻は永遠の十二歳でお願いしたい!!」

 男性はやや身を乗り出すと、興奮気味に言い放った。

「……はい?」

 一瞬、アラタの思考は停止した。その間も、男性の主張は止まらない。

「できれば種族も人間ではなく、半分獣で半分人間の……獣人って言い方で通じますか? 十二歳というのも、もちろん外見だけの話です!! 人間と獣人なら、年の取り方は違うでしょう? できれば犬耳犬尻尾の美少女で、つぶらな瞳で、私に絶対の信頼を寄せてくれて。毎日『まぁくんの作る料理がだぁいすき』って笑顔で言ってくれて!! 私の言うことは絶対に聞いてくれる、そんな幼妻がほしいのです!! そして、彼女にあんなことやこんなことをして――」

 鼻息荒く妻への要望を並び立てる男性に、アラタは自分の口元が引きつっていくのを感じた。

 百香とは違った危うさを、目の前の男性からは伺える。


 やっぱり、転生者の考えることはよくわからん……っ!


 アラタはファイルに綴じていた資料の中から男性の性癖情報を確認し、内心で叫んだのだった。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2020

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