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管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
二章 管理官アラタの異世界間防衛業務
132/204

File6-25「居場所」

「お疲れ様、アラタ。今回の任務で一番の功労者は君だよ」

 オギナが笑顔とともに労いの言葉を寄越す。アラタもそっと笑った。

「皆さんの助力あってこそ、だ。本当に、ありがとうございました」

「神竜の扱いについては、俺たちも気になっていたからな。気にするな」

 カイも穏やかに微笑む。

 アラタはおもむろに、オギナたちに向けて頭を下げた。その様子に、ジツが驚いている。

「アラタさん? あの、どうしたんですか? いきなり頭なんか下げて……」

「今回の件は、どれだけお礼を言っても足りないほどです。異世界グロナロスで神竜を――私の大切な友人を助けることができたのは、皆さんの支援があったからこそです」

 アラタは顔を上げると、真剣な顔でこちらを見つめるオギナたちへそっと微笑んだ。


「私はかつて、異世界グロナロスで生きていた人間――『転生者』です」


 アラタの言葉に、ツナギが表情を強張らせた。踏み出しかけた彼女を、ヒューズが肩を掴んで止める。不安そうな表情で振り返ったツナギに、ヒューズは「大丈夫」と口の動きだけで彼女に告げた。

「グロナロス以外でも、各世界を転々としていた私は先代院長の意向により、転生者でありながら異世界間仲介管理院に受け入れられ、こうして管理官となりました。本来、管理官となるべき人材は『無垢なる者』に限られています。ですが、私は皆さんと同じように試験を受けて、管理官として任命されました。誓って、試験に関して不正の類は一切行っておりません」

「……」

 オギナたちはアラタに視線を向け、真剣な表情で耳を傾けている。

 アラタはそっと目を伏せた。オギナたちの目を、それ以上見つめることが怖かったからだ。それでも、これから任務を共にしていけば、自ずと知られることになる。だから、しっかりと自分の言葉で、オギナたちに伝えておきたかった。

「私は、管理官として任務に赴く中で、皆さんとともに世界の平和を守れることを誇りに思います。できることなら、これからも皆さんと一緒に任務に赴き、仲間として戦っていきたいと思っています。私には、皆さんのような、頼れる仲間が必要なんです。今回のことだって、一人ではきっと解決できなかった……」

 アラタは拳を握りしめた。腕が小刻みに震える。

「だから、どうかこれからも、私に皆さんの力を貸してください! そして、皆さんの力となれるよう、私にも皆さんの手助けをさせてください!」

 目をつぶり、半ば叫ぶようにアラタは友人たちに伝える。心臓がバクバクと脈打ち、ひどく息苦しかった。

 トンッと軽い衝撃がアラタの胸にかかった。

 目を開けば、オギナがアラタの胸に拳を突きつけていた。

「オギナ?」

「今回の任務、アラタがいなければ全滅していた。今だから言えるけど、もう……生きた心地がしなかったよね」

 オギナは微笑を浮かべると、拳を離す。オギナはアラタに向き直ると、両手を腰に添えて苦笑した。

「以前も言っただろ? 君が君であろうとする限り、俺は君を見捨てない。六百年近い付き合いなんだ。俺としては、アラタが『転生者』であることなんて些細な問題だよ」

「オギナ……」

「ぼ、僕もですよ!」

 ジツも慌てた様子でアラタに詰め寄る。

「転生者だからって、管理官の試験に絶対合格するわけじゃありません! そこはちゃんとアラタさんの実力だってわかっていますから!」

「ありがとう、ジツ」

「アラタ管理官」

 キエラがスッとアラタに歩み寄った。

 彼女の手が、そっとアラタの両手を握りしめる。

「私は回数こそ少ないながらも、貴官と任務を共にしています。貴官の管理官としての姿勢は十分すぎるほど見てきました。だからこそ、キトラも貴官にあのような助言をしたのでしょう。彼は警戒心が強いですから、信用のおけない人にあんなことは言いません」

「キエラ管理官……」

 アラタは強張っていた顔で微笑む。

「私としても、アラタ管理官にはぜひ今後ともご活躍願いたいです」

「まぁ、驚きはしたけれど……院長が認めていることなら私らに異論はないよ。むしろ、心強いよね?」

 ノアとアルトも顔を見合わせると、アラタに笑いかけてくる。

「そうだな。これからも変わらず接してくれると嬉しい」

 カイも微笑み、サテナはその横で何度も頷いていた。

「うんうん、むしろ、元・転生者って聞いて納得したよ。でも、何で急に魔力量が増えたの? もしかして、普段は抑えていたとか?」

「ああ、つい最近まで記憶と加護を封印されていましたから……今は院長の配慮で少しずつ魂に馴染ませながら加護を解放しているんです」

「じゃあ、過去を思い出したのも本当に最近のことだったんだ! なぁんだ、色々聞きたいことがあったのにぃ~!」

 残念がるサテナに、アラタは首を傾げた。

「答えられそうなことなら、聞いてくれて構いませんよ?」

「本当!? じゃあ、どうしても聞いてみたいことがあったんだ!」

 サテナが目を輝かせ、ぐいっとアラタに詰め寄った。

 彼がここまで興味津々になる事柄とは何だろう。

 カイや他の皆も気になったのか、サテナの背を凝視している。皆の注目を浴びながら、サテナが満面に笑みを浮かべて口を開いた。


「クルト管理官は転生した世界で『はぁれむ』ってのを体験したことがあるの?」


「……はい?」

 アラタの思考は停止した。

 一瞬、何を聞かれたのか頭の処理が追い付かなかった。

「アラタ管理官だろ、って何を聞いてるんだ!? お前はっ!」

 サテナの問いかけに呆けた顔で沈黙するアラタの横で、赤面したカイがサテナの胸倉を掴んで叫ぶ。

「えぇ~、だって転生者の多くが異性にもてたいとかよく言うから~。やっぱ、キルト管理官も同じなのかなぁって……」

「アラタ管理官だっ! だからってみんながいる中でする質問じゃないだろうがっ! 常日頃から空気を読めって散々言っているだろうっ!」

「んで、実際のところどうなの?」

「質問を続けるな!!」

「あ、あのカイ管理官……私は大丈夫ですから」

 サテナの胸倉を掴んで強く揺するカイに、アラタは苦笑を浮かべて声をかけた。

「すべての記憶が戻ったわけではないので何とも言えませんが……私の場合はそこまで異性にモテた記憶はありませんよ。結婚も、家同士の婚約が多かったと思います」

「えぇ~、作ろうとは思わなかったの?」

「自分が好意を寄せている女性以外から言い寄られても、正直困ってしまうだけです」

「ほら! アラタ管理官はお前と違って真面目なんだよ!」

「カイ管理官、落ち着いてください。それに、恋愛観は人それぞれですから。大勢の人から好かれること自体は悪いことではありませんよ。それだけ、その人物に魅力があるってことでしょうから」

 激昂するカイをアラタは必死に宥める。

「なるほど、経験者は語るってやつかな?」

「オギナ、ちょっと黙ってくれ。話がややこしくなるから」

 アラタは後ろで納得の声を上げる友人を睨んだ。

「ははは、せっかくの機会だ。みんな、互いに色々聞きたいことがあるだろう。続きは飲みの席でしよう。いい加減、腹も空いてきただろう?」

 見かねたヒューズが苦笑とともに口を挟んだ。

「ああ、そうそう。この後、打ち上げしようって話していたんだ! もちろん、隊長のおごりだよ!」

 サテナがニッと白い歯を見せて嬉々とした顔で笑う。

「この前の鉄板焼きのお店ですか?」

「そのつもりらしいぞ」

 わくわくとした顔のジツに、カイが頷いた。

「私たちまでお呼ばれして……なんだか恐縮です」

「お二人も同じ部隊に所属する仲間ですよ」

「そうだぞ、遠慮は不要だ」

 身を縮ませたノアに、キエラが微笑む。

 ヒューズもキエラに同意するように、何度も頷いていた。

「そういうことなら、せっかくだしぱぁっとやりましょうか!」

 アルトが陽気に言うと、オギナも微笑んだ。

「賛成です。アラタも行くよね?」

「もちろん」

 オギナの問いかけに、アラタは笑顔で頷いた。

「アラタ管理官、私も貴官の異世界での体験について伺いたいです。特に転移に関する異世界での手法について、異世界間仲介管理院とは違った方法があればぜひ聞いてみたいですね」

「あ、私も聞きたいな! 主に機械工学関連について! アラタ管理官が転生した世界だと、どんな魔法や技術が発達していたの?」

 ノアとアルトも明るい声で言い、アラタも嬉しそうに破顔した。

「もちろんです! アルト管理官は異世界の技術が気になりますか?」

「そりゃあ、機械工(メカニック)だもの! 趣味で武具類の創作研究もしているけれど、やっぱ理論だけじゃ実戦で使う際に不都合とかが出てきちゃうからね。だからぜひ、参考にしたいのよ」

 ヒューズの後に続きながら、アラタたちはそんな他愛ない会話を交わす。


「よかったな、ツナギ管理官」


 アラタの背を無言で見つめているツナギに、アリスがそっと声をかけた。

「お前の部下はちゃんと皆に認められたぞ」

「……ええ」

 静かに頷いたツナギを見上げ、アリスは首を傾げる。

「何だ? 上官として嬉しくないのか?」

「いいえ。上官として、自分の部下が周囲に認められるのは誇らしいですよ」

 ツナギは厳しい表情に、僅かな苦笑を浮かべた。

「でも、何故か……寂しさを覚えました」

「手のかかる子ほど可愛いというやつだな! だが、いつまでも上司が守ってやれるわけではないぞ?」

「わかっていますよ。ですからこれからも、厳しく指導していきます」

「ツナギ管理官の場合は、もう少し肩の力を抜いていいと思うぞ? 気負いすぎれば部下が潰れてしまうからな。あと……時には部下を褒めてやれ」

「ちゃんと褒めていますよ」

 ツナギの言葉に、アリスはため息まじりに呟いた。

「どうせ『よくやった』とかそんな事務的な言葉だろ?」

「……」

 アリスの指摘に、ツナギは言葉に詰まる。

「もう少し手放しで褒めてやったらどうだ? それこそ、『やはり君は私の期待にいつも応えてくれる』とか『自慢の部下を持って私は嬉しい』とか……」

「ツナギ管理官! アリス管理官! どうかされましたか?」

 話し込んでいるツナギとアリスを振り返り、アラタが声をかけてきた。

「何でもない、今行く」

 ツナギはそう答え、アリスとともにアラタの傍へ歩み寄る。

 歩み寄ったツナギはじっとアラタの顔を見つめた。ツナギの視線に、どこか不安そうに表情を曇らせたアラタが首を傾げる。

「あの……ツナギ管理官、何か……?」

「いや、何も……ただ――」

 言いかけたツナギは不意に口をつぐんだ。難しい顔つきで押し黙ったツナギに、アラタは助けを求めるようにアリスを見た。アリスは苦笑を浮かべて軽く肩をすくめている。

「ただ、アリス管理官に今日のお前の働きを自慢していただけだ。私の部下は有能だろう、と」

 ぶっきらぼうな態度だったが、ツナギの言葉にアラタは息を呑んだ。心なしか、ツナギとアラタの顔が赤く染まる。

「行くぞ、皆に遅れる」

 目を見開いて固まるアラタを置いて、ツナギはそそくさと足を速めた。

「ツ、ツナギ管理官! 待ってください!」

 アラタはハッと我に返ると慌ててツナギを追いかけた。

「まったく、不器用だなぁ……」

 一部始終を見守っていたアリスは、腰に手を当てるとため息まじりに呟く。そうして、肩を並べるツナギとアラタの背を微笑ましそうに眺めていた。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2021

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