File6-18「騎士との戦い」
「契約により、我の助けとなれ。来い、守護騎士たち!」
デルタの呼びかけに、彼を守るように地面から三体の騎士が姿を現した。
身の丈を超える巨大な盾を持つ騎士、小さな盾と剣を掲げた騎士と太い短杖を掲げた騎士だ。
「盾は私が受け持つ。アラタ管理官は盾と剣の騎士を、オギナ管理官とジツ管理官は短杖の騎士を押さえろ」
「了解!」
ツナギの指示を受け、アラタは炎の双剣を生み出す。地を蹴り、中央の盾と剣を装備した騎士へ突進した。
アラタの振り下ろした右手の剣を、騎士は左腕に装備した盾で受ける。突き出された騎士の剣を、アラタは左手の剣を逆手に持ちかえて受け流した。
「管理官権限執行、能力向上、身体強化!」
ツナギが自身に付与魔法を施すと、巨大な盾を構える騎士へ拳を叩き込んだ。激しい衝撃が両者の足元の地面を抉る。ツナギが目にも留まらぬ速さで拳を叩き込む。盾の騎士が振り下ろした剣を、ツナギはパッと飛び退いてかわした。
盾の騎士は動きこそ緩慢だが、掲げる盾にはヒビ一つ入っていない。その頑強さに、ツナギは舌打ちをこぼした。
「ジツ、補佐任せた!」
「了解です!」
オギナは短剣を手に短杖の騎士へと距離を詰める。
ジツは手にした短杖を掲げた。
「管理官権限執行、俊足」
オギナの残像がいくつも宙を舞う。
短杖の騎士は魔法陣を展開すると、光の防壁で己の身を守った。
「管理官権限執行、能力向上、推進力増強!」
すかさず、ジツが魔法で援護する。
オギナの速度がさらに上昇し、光の防壁を激しく攻撃する。やがて、壁の一角に小さな亀裂が生じた。
「そこっ!」
オギナの蹴りが光の壁をぶち抜いた。短杖を持った騎士が大きく仰け反る。
「管理官権限執行、衝撃付与!」
オギナが短剣に風を纏わせ、短杖の騎士の頭を飛ばした。
「やった!」
「どうかな?」
喜ぶジツに、デルタが笑みを深めた。
「っ!」
首を失った短杖の騎士が両腕を伸ばしてオギナを捕えた。そのまま、両腕に力を込める。オギナの顔が苦痛に歪んだ。
「オギナさん!」
「ジツ、オギナに保護魔法!」
アラタが双剣で盾と剣を装備した騎士を押さえながら叫んだ。
「管理官権限執行、守護結界!」
「〝大地に抱かれ、永久に眠れ〟!」
ジツの魔法がオギナの身体を覆い、アラタの魔法でオギナを捕える短杖の騎士の足元から土の槍が伸びた。土の槍は短杖の騎士の鎧を貫くと、地面の中へと引きずり込む。短杖の騎士の腕が緩んだ隙に、オギナが権限を執行する。
「管理官権限執行、火炎球!」
オギナが放った火炎球が爆発し、騎士の全身が粉々に砕ける。短杖の騎士はそのまま、力なく地面の底へと沈んでいった。
「ちっ!」
デルタが舌打ちすると、残った二体の騎士に向けて展開した魔法陣を向ける。
「〝能力向上〟!」
残った二体の騎士が、その様相を大きく変化させた。
まず肉体が二回りほど大きくなり、纏った鎧に岩と炎の属性が付与された。その肉体に宿った魔力が飛躍的に上がり、ツナギとアラタは二体の放った魔力の衝撃に大きく背後へ吹き飛ばされた。
「くそっ! 能力強化が段違いだ……」
歯噛みするツナギに、アラタも双剣を構える。
「オギナ、援護頼む!」
「了解!」
アラタの呼びかけに、オギナも弓を手に即答した。アラタは両手に握った炎の双剣を消す。代わりに腰に吊るした双剣を抜き放ち、盾と剣を構える騎士へ駆けた。
「管理官権限執行、雪氷付与!」
「管理官権限執行、水矢!」
オギナの放った水の矢が、騎士の左腕に装備した盾にぶつかる。水蒸気とともに、掲げた盾に亀裂が走った。そこへ冷気を纏ったアラタの双剣が振り下ろされた。アラタの右手の剣が騎士の盾を粉々に砕き、左手の剣が騎士の肩から袈裟懸けに切りつける。
熱気と冷気が正面からぶつかり、爆ぜた。
騎士の鎧が粉々に砕け散り、地に沈む。
「管理官権限執行、俊足!」
防衛網が崩れたところへ、アラタが突っ込む。
盾の騎士がデルタを守ろうとするが、ツナギがそれを許さない。
「貴様の相手は私だ!」
両手に装着した鉄籠手に炎を纏わせ、素早く突きを繰り出している。盾の騎士はそんなツナギの攻撃を受け止めるのに精いっぱいだった。盾の騎士の足が止まる。
アラタの掲げた双剣の切っ先がデルタに迫った。
「ラ、〝鉄壁〟――」
「遅い!」
アラタの右手の剣が、デルタの眉間へ吸い込まれる。
しかし、吹っ飛ばされたのはアラタの方だった。
「アラタ!」
「アラタ管理官!」
「ぐっ!」
大きく背中を打ち付け、アラタが咳き込む。顔を上げると、デルタを庇うように全身を覆い付き外套で覆った長身の男が立ちふさがっていた。
「オメガ、邪魔すんな!」
デルタが鬼のような形相で自分を助けた男の背を睨む。
「あのままでは殺されていましたので」
オメガと呼ばれた男は落ち着いた声音で指摘する。その途端、デルタが忌々しげにアラタを睨んだ。
「想定外のことが起きただけだ! 加護が使えるってわかっていれば、こっちだってしっかり準備したさ!」
「言いたいことは後程伺います。退却指示が出ました」
「逃がすと思うか?」
ツナギとオギナがそれぞれの武器を構え、ジツがアラタを助け起こす。
長身の男は余裕を感じさせる態度で笑った。
「あなた方には時間がありません。もちろん、神竜を見捨てるというなら、このまま私がお相手するのはやぶさかではありませんが……」
オメガはそう言って口元の笑みを深めた。アラタは立ち上がると、双剣を構える。心なしか、覆いで隠れた男の目が己に向けられているような気がした。
そこへ強い衝撃と揺れが、アラタたちを襲った。地響きとともに、亜空間の欠片が崩れ落ちる。
「こ、今度は何ですか!?」
表情を強張らせるジツとは対照的に、デルタは冷静さを取り戻したようだ。
「無事、『魔王』になったってわけか。んじゃ、俺たちの役目は終わったね」
デルタの呟きにアラタは息を呑んだ。
エヴォルッ……!
アラタの表情を見て、オメガが笑う。
「もう神竜は助かりません。それでも行くならどうぞご自由に。我々はこれにて失礼します」
オメガはこちらにあっさり背を向けると、顔だけこちらに向けて呟く。
「また、お会いしましょう。アラタ管理官」
デルタとオメガの姿が掻き消え、亜空間に竜の咆哮が轟いた。
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