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管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
二章 管理官アラタの異世界間防衛業務
122/204

File6-15「亜空間侵入」

「管理官権限執行、衝撃付与!」

「管理官権限執行、魔法矢増幅!」

 壁を突き破った途端、アラタに向けて一斉に飛びかかってきた影をヒューズの斬撃とオギナの矢が強襲した。断末魔の叫びが上がり、アラタは亜空間内で待ち構えていた異形の魔物たちを睨み据える。

 アラタの脇から、ツナギとアリスも飛び出した。

「管理官権限執行、地柱槍!」

 ツナギの拳が地面を穿ち、地上を覆い尽くしていた異形を貫く。

「いくぞ、アラタ管理官! 管理官権限執行、風神の来訪!」

「はい! 管理官権限執行、炎渦!」

 アリスと息を合わせ、アラタは右手の剣を前方へ突き出した。

 生み出された風と炎が合わさり、渦を巻いて異形の魔物たちを焼き尽くす。

「ぼ、僕らも続きましょう!」

「はい」

 ジツが短杖を掲げ、双銃を構えたキエラが頷く。

「管理官権限執行、磁硬槍!」

「管理官権限執行、雷弾!」

 ジツとキエラが生み出した無数の礫が雷撃を纏い、オギナやアラタに迫った敵の頭を撃ち抜いた。

「や、やった!」

 ジツが興奮した様子で声を上げ、遅れて亜空間内に入ってきたサテナとカイが同時に長杖を掲げた。

「管理官権限執行」

「重力操作!」

 二人が定めた領域で、引力が強まる。

 オギナが弓の弦を引き、その鏃の先を天へ向けた。

「管理官権限執行、流星矢!」

 地面に倒れ伏す異形の魔物に向けてオギナの放った矢の雨が降り注いだ。

 アラタが周囲を見回すと、すでに動く影はなかった。

「連中、やはり待ち伏せしていたな」

 ヒューズが大剣を肩に担ぎながら、小さく息をついた。

「結界の突破と攻撃を同時に行う作戦、単純ですけど効果ありましたね」

 オギナもにこやかに頷く。

「ふふん、この私にかかればこれくらいの数、造作もないことなのだぞ! それにアラタ管理官! 新人のくせに私の呼吸に合わせられるなど、なかなかいい腕をしているな! 見込みがあるぞ!」

「あ、ありがとうございます……アリス副隊長」

 アラタは己の背をばしばしと叩く少女を、戸惑いがちに見下ろす。

「わぁ、グラス副隊長がデレてるぅ」

「アリス副隊長な。それよりサテナ管理官、仕上げを手伝え」

 カイは禍々しい瘴気を宿す欠片に封印術式を施している。サテナもカイの傍に歩み寄ると封印の補強を手伝う。

「これが、アヴァリュラスの防壁の……」

 横から手元を覗き込むジツに、カイは険しい表情で頷いた。

「前回の『鬼』の時といい、やはりこの欠片の入手経路は調べたほうがいいだろうな」

「すでに院長からも指示が出ています。私も微力ながら、ノア管理官と連携して捜査を行っています」

 しかし、今は……、とキエラは亜空間の奥へ視線を転じる。

「神竜を助け出す方が先だな。とはいえ、無策に歩き回るのは得策ではないな」

 ツナギがキエラを振り返る。

「亜空間の規模もわからない以上、戦力を分散するわけにもいかない。キトラ管理官、神竜が囚われている場所を割り出すことは可能か?」

「無理に決まってんだろ」

 即座にキエラと入れ替わったキトラが呆れ顔になる。

「俺を便利な探査装置みたいに言わんでくれ。一目でも見たことがあれば可能性もあるが、俺はその神竜っつうのがどういった魔力波長を持っている奴なのか、まったく知らねぇんだからな。むしろ今回の場合、俺よりも適任者がいる」

 キトラの目が無言で亜空間の奥を睨むアラタを見た。

 その場にいる全員の視線がアラタに集中する。

「おい、新人その一。俺たちは()()()()()()()()()? 直感でもいい、皆に話せ」

 キトラの言葉に、アラタは右手に握った剣の先を真っ直ぐ掲げた。

「ここから真っ直ぐです。この奥にいます」

 エヴォルの力はかなり弱まっている。それでも、アラタの目には確かにエヴォルが存在していることが感じ取れた。昔、エヴォルからもらった感覚を共有する(加護)が、アラタの魂をエヴォルのもとへ誘おうとしているのだろう。

「よし、皆……アラタ管理官に続け。アラタ管理官、ここでの先導を貴官に任せる」

 アラタの紅に染まった双眸を見て、ヒューズは即座に決断を下した。

「了解」

 皆の声を背に、アラタはそっと口元を綻ばせた。

「こちらです」

 アラタは、己の言葉を全面的に信頼してくれたヒューイやキトラ、オギナたちに応えるべく、感覚を研ぎ澄ましてエヴォルの気配を追う。

 エヴォル、俺はお前と引き離されて女神に捨てられたけど……おかげで素晴らしい仲間に出会えたよ。

 アラタはそっと胸の内で友へと囁いた。

「管理官権限執行、俊足!」

 アラタたちは同時に地を蹴る。向き出しの岩肌を蹴り、暗闇の中を突き進む。

 しばらく、代わり映えのしない景色が続いた。

 薄紫色に発光する岩肌の上を飛び回り、アラタが眉根を寄せる。

「おかしい」

 アラタの言葉を聞きつけた全員が、いったん地上へ降り立った。アラタは沈黙の落ちた亜空間内を見回す。

「……神竜の気配に、全然近づいていません」

 アラタが再度、エヴォルの気配を確認しながら焦ったように言った。

 まるで、同じ場所をぐるぐる回っているようだ。

「もしかしたら、入り口で待ち受けていた魔物の襲撃に紛れて、敵の術中にハマっちゃったかな?」

「無限回廊か。厄介な……」

 サテナの呟きに、カイが苦い顔になる。

「どうにか解除できそうか?」

 ヒューズの問いかけに、サテナは軽く肩をすくめた。

「無限回廊の厄介なところは、術者が魔力の循環路をしっかり構築していれば、術者の操作を離れて独立して存在し続けることなんですよ」

「うわー、それってズルくないですか?」

 ジツが嫌そうな顔でぼやく。

「だから無限回廊なんだ。とはいえ、まったく突破方法がないわけではない」

 カイがジツから視線を外してアリスを見る。

「仕方ないな」

 アリスがため息まじりに長杖を構えた。

「アラタ管理官。結界を壊した時の炎くらいの威力で、周囲の魔力をかき混ぜるような魔法は使えるか?」

「魔力をかき混ぜる、ですか?」

 いまいちぴんっときていないアラタに、アリスは続ける。

「強い魔力を周囲に分散させてほしいって意味だ。できれば風系の魔法だとありがたい。そこから突破口を開く」

「わかりました」

 アリスの指示に、アラタは手にした双剣をいったん消した。

 目を閉じ、己の脳内でリスト化した加護の中から該当のものを選び出す。

「ヒューズ、後は任せる」

「わかった。サテナ、カイ、アリスを補佐してやれ。ツナギ管理官、行けますか?」

「はいはぁい!」

「いつでも」

「了解した。ジツ管理官、オギナ管理官、キエラ管理官は周囲への警戒を」

「了解!」

 全員が武器を手に身構える。

「行きます」

 アラタが目を開く。その足元に複雑な術式の魔法陣が出現した。

 渦巻く魔力を風に変え、空間内を駆け巡るイメージで、アラタは両腕を広げる。


「〝飛び立つ(ホリー・ハイ・)風の加護(ロセー・モ・ロオー)に乗れ(・シ・モフ)〟!」


 アラタの口から発せられた「異世界の力ある言葉」が、亜空間内に強い風を引き起こす。

「管理官権限執行、魔力探査」

 アリスの瞳に魔力が宿り、吹き荒れる風の中、視線を周囲へ走らせる。

 彼女の目がある一点を捉えた。

「あそこだ! 十時の方角!」

 サテナとカイが同時に長杖を向けた。

「管理官権限執行、空間干渉!」

 二人の干渉魔法を受け、ある空間が大きく波打った。

 ヒューズとツナギが飛び込む。

「管理官権限執行、衝撃付与!」

「管理官権限執行、雷撃付与!」

 ヒューズの大剣とツナギの鉄籠手の刃が波打つ空間を割った。

 アラタたちを包んでいた見えない壁が、音を立てて砕け散る。

 魔力で生み出された壁が消え去った途端、炎の塊がアラタたちを強襲した。

「管理官権限執行、守護結界!」

「管理官権限執行、氷壁!」

「管理官権限執行、氷弾!」

 キエラの氷の魔力を込めた弾丸が炎の塊を撃ち消していく。撃ち消し切れなかった炎の塊から、オギナとジツが防壁を張って仲間たちの身を守った。


「へぇ、思ったより早く見破られたな」


 ヒューズとツナギの刃を両手の指先でそれぞれ受け止めた青年が、口元に笑みを浮かべる。

 真っ白な装束を纏い、淡い緑髪に目元を覆う黒いレンズの眼鏡(バイザー)をかけた青年がアラタたちの前に悠然と佇んでいた。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2021

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