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管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
二章 管理官アラタの異世界間防衛業務
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File6-9「後方支援員」

「皆、揃ったな」

 ヒューズがアラタたちの後から第五方陣の設置された広間に入ってきた。傍らにはアリスとツナギの姿もある。今まで気づかなかったが、第五方陣前で作業していた女性管理官二人も作業の手を止めてこちらに歩み寄って来た。

 女性管理官二人も、アラタたちとともにヒューズの前に整列する。

「初見の者もいるだろうから、まずは彼女たちを紹介する。アルト管理官、ノア管理官。こちらへ」

「はい」

 ヒューズの傍らに、第五方陣前で作業をしていた女性管理官二人が並んだ。

 一人は小麦色に焼けた肌に、瑪瑙(アガット)色の髪を無造作に髪留めでまとめていた。装備部の交通手段開発整備課が支給している作業着を身に着けており、強い黄色味を帯びた赤い瞳が印象的な女性だった。どこか人好きのする笑顔を浮かべている。

 もう一人は対照的に、真面目そうな印象の女性だ。癖のない焦げ茶色の短い髪に、真っ直ぐな黒い瞳をじっとアラタに注いでいる。シワなく制服を着こなし、ピンッと背筋を伸ばしていた。

「我らが任務を行う上で、後方支援をしてくれる二人だ」

 ヒューズが一同を見回すと、傍らの女性管理官に視線を向けた。

「はぁい、装備部交通手段開発整備課所属のアルトよ。もちろん、あなたたちと同じ異世界間特殊事例対策部隊にも配属されたわ。私はあなたたち専属の機械工(メカニック)、主に移動手段である魔動二輪の整備や第五方陣の調整を任務としているわ」

 アルトはそう言うと、片目をつぶって見せる。

「もちろん、お悩み相談とかも受け付けるから、何か困ったことがあったらお姉さんに遠慮なく話してちょうだい」

「はぁーい、姐さん!」

 素直に返事をしたサテナに、隣のカイが呆れ顔になる。

「この度、異世界間特殊事例対策部隊に配属されました。管理部権限管理課所属のノアと申します。よろしくお願いいたします」

 もう一人の女性管理官も会釈とともに名乗った。

 アラタは彼女の声に、思わず顔を上げた。聞き覚えのある声だったからだ。

 ノアがアラタに顔を向けると、そっと微笑んだ。

「『職務復帰、おめでとうございます。アラタ管理官』」

 彼女が以前、共鳴具を通じてアラタに告げた文言を口にする。

「やはり、あなたでしたか。声に聞き覚えがあると思ったら……」

「はい。管理部ではタダシ元・管理官を追い詰めた、稀代の新人管理官として貴官のお名前は把握しておりました。今回、ご一緒にお仕事ができて光栄です」

 ノアの言葉に、アラタは照れ臭い気持ちになる。

「アラタ管理官の名声はやっぱり、部署を超えて轟いていますね。まぁ、あんだけ派手にやっていれば当然でしょうけど……」

「よかったね、アラタ管理官。君の友人として、俺も鼻が高いよ」

 神妙な顔で頷くジツと笑顔で喜ぶオギナがまるで他人事のように言ってくる。

「いや、二人も一緒に行動していただろ。なにを自分は関係ありませんって顔して、傍観者の立ち位置におさまっているんだ?」

 アラタは思わず反論した。半分以上は照れ隠しだ。

「ノア管理官は権限管理課の前は転移方陣管理課に所属していた経歴を持っている。アルト管理官とともに、我々への伝達や座標指示などを支援してもらう」

 ヒューズが言葉を添え、一同を見回す。

「現状では、この顔ぶれが異世界間特殊事例対策部隊の仲間(チーム)となる。皆で力を合わせ、任務を必ずや完遂させよう」

「はい!」

 ヒューズの檄に、アラタたちも一斉に返事をした。

「では、各自、アルト管理官より新型魔動二輪を受け取ってくれ。アルト管理官、説明を頼む」

「はぁい、任せて」

 ヒューズから引き継いだアルトが前に出る。腰のポーチから取り出した小箱を開け、アラタたちに示した。そこには新型魔動二輪の指輪(キー)が人数分収められていた。

「みんなに使ってもらうものは、異世界間特殊事例対策部隊として任務に従事する際に、色々と改造を加えた新型魔動二輪よ。基本操作は従来型と変わらないわ。ただ機動力や戦闘を視野に入れた設計にしてあるから、少しばかり(コツ)があるのよ」

 指輪を受け取りながら、アラタたちはアルトの説明に耳を傾ける。

 従来型と新型の違いは、三点。

 最もありがたいものとして自動追尾・操縦機能が追加されたことだった。

「従来型だと、乗車しながら戦闘に突入するとどうしてもこちらが攻撃できない難点(デメリット)があったのよ。二人乗りでも、一人は運転に集中しなければならないから結果的には戦闘員に割ける人数が減ってしまう。それってものすごくもったいないって常々思ってたのよ。そこでノア管理官と相談して、部隊内の味方の魔力を予め登録しておいて、その魔力を感知することで追従する機能を付けてみたの。もっともそれで敵方の攻撃にさらされちゃ意味がないから、未登録の魔力に対しては反発する機能――要するに回避運動を取れるように手を加えたわ」

 何でもないことのように語るアルトだが、その技術が生まれるまでに試行錯誤を繰り返したことは想像に難くない。

「すごい……そんなことが可能になるなんて、革命です!」

 もともと装備部に所属していただけあって、ジツはその課題克服が容易でないことを理解しているようだ。あのサテナまで感心したように声を上げている。

「次に、戦闘によって魔動二輪が損傷した場合の対策として、走行不能な損傷を受けた時点で、一度限りなら全機能を即座に修復する機能を付与しました」

 ノアが手に握った赤い魔力石をアラタたちに示した。

「もしも討伐対象が逃亡を図った際、追跡するのに魔動二輪が走行できないとなっては問題です。そこで、新型にはこの魔力石を対価として自動再生能力(リカバリー)を発動させる設計にしてあります。原理としては管理官権限の『遡行』と同じ効果とお考え下さい」

「なるほど。単純に状態を壊れる前に戻すということですね」

 キエラの言葉に、ノアも頷く。

「その通りです。ですが何度検証を行っても、一回が限度でした。今後もアルト管理官とともに改良を重ねていく予定です」

「いえいえ、これだけでも十分すぎるほどですよ」

 ノアの言葉にカイは目を丸くした。しかし、ノアは納得いかない様子だ。

「相手は『魔王』を生み出そうとするような連中です。ならば、こちらも最高の装備で臨む必要があります。仲間が一人でも多く、戦場から無事に帰還すること。そのためにあらゆる手段を講じて備え、仲間を送り出すことが我々後方支援員の役目です」

 ノアの言葉に、皆が静かに頷いた。彼女の言葉を、とても頼もしく感じた。

「そして、最後の追加機能ね」

 アルトが入れ替わるように口を開いた。

「新型には周囲の空間気圧や環境に合わせて操縦者を保護する機能を付けたわ。極端な話、嵐の中を走行しても、今までは操縦者の技術でカバーしていたところを魔法で保護することで安定した走行を可能にしたってわけ。これで乱気流に飲まれても吹っ飛ばされることはないから安心してちょうだい」

 アルトの説明に、アラタは小さく呻いた。

 恥ずかしさのあまり、思わず顔を下に向ける。

「では、細かい説明は以上です。皆さんを異世界グロナロスへ誘導します。魔動二輪を稼働させてお待ちください」

 ノアの言葉に、アラタたちは指輪をかざした。魔法陣から新型の魔動二輪が姿を現す。全員が魔動二輪にまたがると、指輪を宝珠に翳した。共鳴具と同期を済ませた指輪が、魔動二輪の原動機(エンジン)を稼働させる。

「アルト管理官、第五方陣の転移先座標の入力をお願いします」

「了解。転移座標の入力完了。安全装置、問題なし。長年使われてないって割にはいい状態ね。魔力安定率、八十五パーセント。供給率は七十を維持。安定率、九十五パーセントを超えたわ。第五方陣、起動開始」

 アルトが第五方陣を起動させる。無数の歯車が回転し、埋め込まれた魔力石が輝きを増していく。第五方陣が正常に稼働したのを確認し、アルトは第五方陣から離れてノアの傍に控える。

「『道』の解放を確認。第一から第四方陣の起動による進路変更はありません。いつでもどうぞ」

 ノアがアラタたちに言った。

「よし、皆、準備はいいな!」

 ヒューズの確認に、アラタたちは頷いた。

「異世界グロナロスへ出発する!」

 ヒューズが先頭になって第五方陣へ飛び込んでいく。光の道がアディヴの空へと上った。

「翼の祝福に、道を掴まんことを!」

 管理官敬礼とともにアラタたちを見送るアルトとノアの声を背に、アラタたちは光の道を新型魔動二輪で駆けたのだった。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2021

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