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管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
二章 管理官アラタの異世界間防衛業務
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File6-4「失われた使徒」

「では、ナゴミ管理官、ヒューズ管理官。任務内容の説明を任せる」

「はっ!」

 マコトから引き継いだナゴミとヒューズが同時に返事をした。

「じゃあ、異世界間特殊事例対策部隊の初任務について説明するよ」

 そう切り出したのはナゴミだった。のんびりした口調は変わらずだが、ナゴミの表情は真剣だった。アラタたちは無言で頷く。

「じつは七日前、召喚部を経由して異世界グロナロスの神さまから異世界間仲介管理院に対する『戒律』が発せられたんだ」

「っ!?」

 息を呑んだアラタたちは思わず顔を見合わせる。

「戒律」とは異世界間連合に加盟する神々が、異世界間仲介管理院に対してその業務に反する行為や明確な規約違反の際に発せられる抗議文であり、不正に対して厳罰や再発防止策を異世界間仲介管理院に求めるものである。

「転生者遺棄事件の後、ようやく落ち着きを取り戻してきたところに……また……」

 アラタは苦い顔で呟く。

 転生者遺棄事件と前後して寄せられた神々の「戒律」もまだ記憶に新しく、異世界間仲介管理院は遺棄された転生者を保護するために現在も奔走している。

 そんな状況の中、グロナロス神より発せられた「戒律」――本来であれば前回の「戒律」発令時と同じように上層部において対策を立てなければならない事態である。しかしその情報は、異世界間仲介管理院のデータベースに掲載されていない上、アラタたちもナゴミの口から聞かされなければ知らなかった事実である。

「今回の『戒律』は異世界間連合の加盟世界としてではなく、異世界グロナロスの神さまが単体で異世界間仲介管理院へ物申してきたって感じかな。ただ内容が無視できなくてねぇ。念のため、異世界間仲介管理院内においても公表せずに伏せているんだよ。『戒律』である以上、慎重に扱わなければならない案件だからね」

 アラタたちの表情を見たナゴミが、即座に言葉を添えた。彼の双眸がゆっくりと開かれ、黄金色の瞳が揺らめく。


「かの神曰く『管理官を名乗る連中が我が使徒を連れ去った』というそうだよ」


「まさかっ!」

「無論、異世界間仲介管理院で保有する任務記録や転移方陣の稼働履歴もすでに洗い出した。異世界間仲介管理院が、異世界グロナロスへ管理官を派遣した記録も、転生者や召喚者を送り出した形跡もない」

 思わず声を上げたジツに、ヒューズも言葉を添える。

「それで、今回の一件も『アルファ』と名乗る一団が関与しているのではないかと考えたというわけですね」

「異世界シャルタや境界域で、神々や我々の目を盗んで『人工魔王』を製造しているような強かな連中のことだ。我々の身分を名乗って異世界へ介入することくらい造作もないだろうからね」

 オギナの呟きに、ナゴミが静かに頷いた。

「そもそも異世界グロナロスは閉鎖的でさ。異世界間仲介管理院でもかの世界へ送り出した転生者や召喚者は片手の数ほどに収まる。異世界間連合への加盟も七、八百年前と比較的新しく、女神グロナロスの世界統治の仕方や、少しばかり異常な世界介入(執着傾向)が問題視されてきた世界だ」

「異常な世界介入?」

 オギナとカイが顔を見合わせる。

「異世界グロナロスは女神の加護を過分に受けた一匹の竜が使徒として世界を統治している。今回、消息を絶ったのがその神竜だ。名前は確か――『孤高の紅(エヴォル)』だったか」

「っ!?」

 ヒューズの解説を聞いていたアラタは息を呑んだ。表情を強張らせ、早鐘のように脈打つ己の心臓の音を呆然と聞いていた。

 アラタの脳裏に浮かんだのは、おぼろげな記憶の中でどこか悲しそうにこちらを見下ろしてきた紅の双眸だった。

「アラタくん、どうかした?」

 表情を変えたアラタを不審に思ったナゴミが、彼に視線を向ける。

「……いえ、なんでもありません」

 アラタはかすれた声でそれだけを言った。拳を握りしめる。力を込めすぎて、腕が小刻みに震えた。

「それで、君たちには急ぎ異世界グロナロスへ向かってほしい。女神から詳しい事情を聞いたのち、その神竜の行方を探索。発見次第、保護してもらいたいというわけだよ」

 ナゴミの言葉に、皆が頷いた。

「出発は明日。急な予定となったが、各自速やかに装備を整え、任務に備えてほしい」

 マコトは最後にそう告げると、指輪をはめた右手を掲げた。

「貴官らを試した非礼への詫びとして、このまま部屋まで送ろう。貴官らの活躍を期待している」

 皆の足元に再び魔法陣が展開する。

 次の瞬間、アラタ以外の皆の姿が院長室から消え失せた。

「えっ……?」

 一人、院長室に取り残されたアラタは思わず間の抜けた声を上げた。

「アラタ管理官、貴官にはもう少しだけ私の話に付き合ってもらいたい」

 マコトはそう言って、右腕を下ろした。彼は傍らに控えたヒューズやナゴミに目配せする。

「では、我々はこれで」

 マコトの意図を察した二人は即座に頭を下げると、アリスとツナギを引き連れて院長室を後にした。扉を出ていく瞬間、ツナギがどこか気遣うような視線をアラタに寄越す。しかし、結局は何も言わず院長室の扉を閉めて出て行ってしまった。

 アラタは緊張の面持ちで、マコトと向き合った。

「すまないな、時間を取らせてしまって」

「いえ……」

 アラタはマコトに対して慎重に返答する。

 マコトは戸惑う様子のアラタを見つめた。

「どうしても、私から貴官に話しておかなければならないことがある。悪いがしばし付き合ってくれ」

 執務机の上で緩く腕を組むと、マコトは落ち着いた声音でそうアラタに告げたのだった。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2021

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