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管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
二章 管理官アラタの異世界間防衛業務
105/204

File5-15「マコトとスグル」

「――以上が、境界域での調査結果です」


 宝珠を前に一通りの報告を終えたマコトは、小さく息をついた。

 すでに異世界への道が閉ざされ、薄暗い院長室。

 少し前に防衛部部長のラセツより上げられた報告内容は、マコトの頭をひどく悩ませた。ましてや今回の一連の騒動の首謀者が、真っ先に接触してきた人物があの元・転生者のアラタである。

「奴らはアラタ管理官を何らかの意図で利用するつもりです」

 マコトの直感は即座に確信に変わった。

 今回の報告にもあった、神々の「加護」を譲渡する技術の可能性。それは「加護」を付与する側である神々にとって、その立場だけでなく、存在すら危うくする案件だった。

「私は、『加護』に関する件については伏せておくべきだと思います」

〝そうだろうな。ましてや、まだ確証を得た情報ではない〟

 宝珠の向こうから、スグルの声も同意する。

〝ああ、ちなみに……少し前に提出した『アヴァリュラスの永獄』の防壁だがね。異間連の神々の反応は予想通りだったよ。神々の阿鼻叫喚図とは、いやはや愉快、愉快〟

「この状況を楽しんでいるのはあなただけですよ」

 スグルの言葉に、マコトは思わず頭を抱えた。

〝そこへ今回の「加護」譲渡の可能性が加われば……異間連はいよいよ収集がつかなくなる。念のため、信頼のおける常任理事世界の神々にはそれとなく情報を流すつもりではいるがね。しばらくは情報をこちらで伏せ、さらなる情報収集に努めたまえ〟

「承知いたしました。また……今回のような任務を扱うには、異世界間仲介管理院の防衛部のみでは心元ありません。連中は異世界間仲介管理院の保有していた知識や技術、その他にも様々な情報を流用しています。今こそ部署を超え、信頼のおける人材で構成した院長直属の組織を新たに設けたいと思います」

〝ああ、君が以前提言していた件だね。私も常々、必要性を感じていたことだ。君の好きにやりたまえ〟

「ありがとうございます。後程、ミノルを経由して原案を提出いたします」

〝異間会議がまもなく開催される。今回は会期をだいぶ長めに設定されているから、しばらくは各世界の環境も不安定になるだろう〟

「世界軸線周辺の観測は怠りません。警戒レベルをワンランク上げるよう、通達を発しましょう」

〝うむ、励みたまえ〟

 そうしてスグルとの会話は終了した。透明な色に戻った宝珠を前に、マコトは眉間のしわを深めた。事態は深刻さを増していくばかりだ。それでも、マコトの顔に悲観の色はない。

「少しずつではあるが、我々が対処すべき問題が見えつつある」

 それもこれもアラタという重要人物(キーパーソン)に接触するため、それまで影に潜んでいた連中が表だって動き始めたためだろう。

「『敵対勢力』が見えてくれば、対処は可能だ」

 マコトは呟くと、さっそく古いファイルを開いた。そこから一枚の書類を抜き出し、必要事項を記入する。さらさらと紙面を滑るペン先が、やがて離れた。


 ――「異世界間特殊事例対策部隊」創設に関する申請書。


 先代へ提言した草案にさらなる修正を入れ、原案としてまとめる。

 後はこの原案を、スグルを通して常任理事世界の神へ提出し、最低でも五柱の賛同を得られればすぐにでも設立することができるだろう。

 時期も悪くない。今、異世界間連合は「アヴァリュラスの防壁」の欠片のことで手いっぱいである。

 異世界間仲介管理院に対し、注意が逸れた今なら、反対派の常任理事世界の神々の目を掻い潜ることができるだろう。

「これ以上、我々も黙ってはいない」

 マコトの低い声が、厳かに告げた。

「異世界間仲介管理院の理念に従い、我らは世界秩序の構築と安定を守る」

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2021

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