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管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
二章 管理官アラタの異世界間防衛業務
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File5-10「実験施設」

 アラタは右手の剣を薙ぎ、魔物の胴を切り離した。

「管理官権限執行、衝撃付与!」

 ヒューズの一閃が、赤黒い大地を削った。

 数十体の魔物が即座に塵と消える。

「管理官権限執行、地柱槍」

「管理官権限執行、炎舞」

 ツナギとアラタが同時に地面へ鉄籠手と双剣の刃を突き立てた。

 炎を纏った土の槍がこちらへ襲い掛かってきた魔物たちを串刺しにし、そのままその身を焼き尽くす。

「管理官権限執行、魔法矢増幅」

 オギナの引き絞った光の矢が、弦から放たれる。矢は虚空でパッと花火のように弾けるとその幾千の光の雨で魔物たちを貫いた。

「管理官権限執行、雷弾!」

 キエラが両手に構えた拳銃から飛び出した魔力の弾が、稲妻を纏って飛び出す。魔物の額を穿つと、遅れたように電流が弾けてその身を焼いた。

「サテナ管理官、広範囲の権限を執行するぞ!」

「了解、ミイ!」

「カイだ! 戦闘中(こんなとき)くらい間違えるなっ!」

 サテナとカイが同時に術式を構築する。

「管理官権限執行、守護結界」

「管理官権限執行、重力操作」

 サテナとカイが放った重力操作で、魔物たちが落下する。そのまま地面にめり込み、全身を潰していく。断末魔の悲鳴を聞きながら、アリスが長杖を構えて不敵に笑った。

「群れてかかれば勝てると思ったのか? ハッ、考えが甘いぞ!」

 額に汗を浮かべながら、アリスの掲げた長杖に魔法陣が構築される。

「管理官権限執行、炎爆!」

 アリスが放つ炎に、地面に落下した魔物たちが飲まれる。群れていた魔物たちの全てが塵となって消滅した。

「これで、目に見える範囲での魔物は始末したか……」

 ヒューズが大剣を背に負い、一息ついた。

 赤黒い空を背景に、辺り一帯は不気味なほど静まり返っていた。

「今のところ増援が来る気配もないようです。今のうちに、できうる限りの情報を持ち帰りましょう」

 キエラの言葉に、皆が頷いた。

 アラタたちは武器を手に、いくつもの円形の建物が密集した建造物へ足を踏み入れる。薄暗い建物内では、魔力石による照明がぼんやりと光を灯していた。

「うわー、まさに実験施設って感じだね。これ、培養装置ってやつかな?」

 透明な筒が並ぶ部屋に入るなり、サテナが手近の筒に顔を映しながらはしゃいだ。自分たちの身長を優に超える筒を見上げると、中には先程アラタたちを襲撃した魔物が培養液の中で浮いていた。

「お、おい、サテナ管理官。下手に刺激するな」

 慌てるカイがサテナの肩を掴む。

「大丈夫。こいつ、死んでるよ」

 カイを振り返ると、サテナがにっこり笑った。

 サテナは透明な筒へ向き直る。

「散々肉体に改造を施したんだろうね。考えうる限りの術式もぶち込んだせいで、組み合わせに無理が生じている。そりゃ、肉体崩壊を起こしても仕方ないよ」

 筒を見つめるサテナが、口元に笑みを貼り付けたまま言った。しかし、その筒に映し出されたサテナの目は、決して笑ってはいなかった。

「おーい、こっちに生態データを記録した端末みたいなのがあるぞ!」

 アリスの呼びかけに、アラタたちは管理室と思しき部屋へ駆け込む。

 さっそくキエラが端末を操作し、虚空にいくつもの画面を表示した。いくつかの報告書に目を通すと、キエラの目が鋭さを増した。

「由々しき事態ですね……この施設で生み出されていた魔物たちは、異世界間仲介管理院での肉体構成技術が流用されています」

「何っ!?」

 目を見開くアリスに、ヒューズも険しい表情のまま虚空に映し出された画面を凝視していた。

「パッと眺めてみた限りでも、魂に見合った肉体の生成方法と魂との親和率、簡易ながら転移技術も盛り込まれている。これは内部の人間が漏洩しない限り、外部の者が目に触れることのない情報だ」

 異世界間仲介管理院は異世界間連合より人材確保のための特別処置として「魂の生成」を許可されている。神々の加護が刻まれていない魂――「無垢なる者」を生み出し、その魂に見合った肉体(うつわ)を与え、管理官として養育している。

 異世界間仲介管理院の絶対的中立の立場から、「世界の記憶」が刻まれていない人材を得るための処置であった。

「ここで魔物を生み出していた連中は『無垢なる者』を魔王の器にして、制御しようとしていたってこと?」

「そもそもの前提として、魔王の力に順応する肉体(うつわ)を得ること自体が困難だ。『無垢なる者』だろうが、『世界の記憶』を保持した転生者だろうが、その条件に変わりはないだろう」

 サテナの呟きに、カイも首を傾げている。

「それに、こんな回りくどい方法を取らずとも、あくまで器としての肉体を生み出すだけなら手段はいくらでもある。人造人間なり、複製体(クローン)なり、もっと大量に生産可能な手法で実験を繰り返せばいい話だ」

 カイは眉間にしわを寄せて呟く。彼の傍らで棚に収められている得体の知れないはく製をサテナが指で突っついている。カイの腕が即座に伸び、サテナの腕を掴んでやめさせた。

「つまり、連中はまだ人工魔王の制御が実験段階である可能性があります」

「あの魔物たちや『鬼』ですら、失敗作ということか」

 キエラの言葉に、ツナギが唸った。

「キエラ管理官はここでの研究データの解析と収集を頼む。アリス、ツナギ管理官は彼女の護衛として残ってくれ」

 ヒューズはアラタたちを見た。

「サテナとカイ、そして俺とアラタ管理官、オギナ管理官で他の部屋を調査する。何か不審なものを見つけた場合は即座に連絡を入れるように」

「了解」

 アラタたちが一斉に頷く。

「んじゃ、また後で~」

 こちらに手を振って、サテナはカイとともに左の通路へ折れた。

 アラタとオギナはヒューズとともに通路を直進する。

 通路には記号と指示表示があるばかりで、特に不審な点は見当たらない。通路の途中で見かけた部屋はすべて改めるものの、がらくたを粗雑に積み上げて放置された倉庫ばかりだった。

 アラタたちは施設内でも広い空間に出る。ドーム状の天井を見上げた。外から眺めたときに、その巨大さが際立って目を引いた建物だ。

「……転移方陣でしょうか」

 部屋の中央に設置された台座を見下ろし、オギナが呟く。ヒューズも傍らで膝を折り、いくつもの歯車が噛み合い、魔力石の埋め込まれた装置を見下ろしている。

「構造としては異世界間仲介管理院のものとほぼ同型だな。形状は初期の頃のものに近いようだが……」

 アラタは壁に手をついたまま、広い室内を歩き回る。ちょうど転移方陣の正面に当たる位置で、指先が壁の窪みに触れた。

「これは……文字か?」

 壁の一部に、文字が刻まれている。

 どこの世界の言葉だろうか。アラタも見たことのない文字だった。


「そこにはね〝原初(さいしょ)存在(ひと)〟って刻んであるのですよ」


 凜とした声が、唐突に言った。

 アラタが反射的に振り返ると、オギナとヒューズの足元に魔法陣が現れる。

 その術式は、強制転移の魔法陣であった。

「なっ!」

「罠か!?」

「ヒューズ管理官! オギナ!」

 アラタが駆け寄り、腕を伸ばす。

 ヒューズとオギナの姿が突如出現した魔法陣とともに掻き消える。

 アラタの手は辺りに散った光の粒子を掴んだだけだった。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2021

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