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管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
一章 管理官アラタの異世界転生仲介業務
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File1-9「調査開始」

 アラタが所属する異世界転生部には、三つの部署が存在する。

 異世界からやってきた魂を死神などの先導者から引き取り、その魂の履歴を調査・管理する転生者調査課。

 保護した魂を異世界へ転生できるよう、面談を通して審議・仲介を行う異世界転生仲介課。

 そして、転生後一年、五年、十年を目安に、転生先における転生者の状況を把握するための調査を行う転生者監視課。

 この三部署が異世界転生部における主要部署であり、異世界間仲介管理院が創設された理念の根幹に関わっていた。

 アラタは転生者調査課と転生者監視課の部署から借り受けた資料を両手に抱えて、よろよろと回廊を進んでいた。

「アラタ、その資料の山どうしたの?」

「オギナか? 悪い、今手が離せないから前が見えないんだ」

 そう言えば、アラタの視界が開ける。

 重ねられた資料を何冊か持ってくれたオギナは、不思議そうに資料とアラタの顔を見比べていた。

「これ、転生者調査課が保管している最近の転生者記録だよね? それも十四歳で死んだ転生者のものばかり。こっちは転生者監視課が調査した転生者の転生後の記録じゃない?」

「これが終わったら、資料管理室にも行って異世界総合目録にも目を通す予定だ」

 オギナに手伝ってもらいながら、アラタは借り受けた資料が城壁と化している自分の(デスク)に手にした資料を積み上げていく。

「いや、百香ちゃんのために他部署から資料を借り受けるのはわかるんだけどさ……」

 そう言って、オギナが一冊の本を資料の山から掴み上げる。


『私が正義よ、跪け愚民ども!!』


 なんとも尖ったタイトルとともに、強気な少女のイラストが描かれている本の表紙が目につく。

 オギナは戸惑った様子でアラタを見つめた。

「これは……娯楽本?」

「ああ。相沢百香が生前、愛読していた異世界転生ものの小説らしい。転生者調査課に依頼して、本を復元してもらったんだ」

 対応した職員が大いに困惑しただろう。

 オギナにはその様が容易に想像できてしまった。

 アラタはオギナから本を受け取ると、それを自分の机に置いた。見れば、全シリーズが山積みされている。

 他にも似たような娯楽本が数タイトル積まれていた。

「アラタ、まさか百香ちゃんが生前読んでいた本、全部読破するつもり?」

「もちろんだ。本だけではなく、相沢百香が生前好んでいた『げぇむ』や『あにめ』などの娯楽、仲良くしていた友人たちの傾向や彼女が幸福を感じた瞬間のデータを集めた幸福指数の資料も取り寄せている」

 ふんっと得意げに胸を張るアラタに、オギナは思わず口に手を当てた。

 我慢しようとしたが、盛大に笑い声が口から零れ落ちる。

「う、うん……俺、確かに言ったよ? そのファイルの資料だけじゃ、無理だって……でも、さ、これは……やりすぎ……」

 笑いでひーひー言っているオギナを余所に、アラタは席につくなりものすごい速さで資料を読み込んでいく。

 見れば彼の瞳が青い光を纏い、無数の文字列が右から左へと猛烈な速さで流れていく。

 管理官が必要と判断した場合、任意で行使できる管理官権限――即時(そくじ)記憶(きおく)記録(きろく)照合(しょうごう)だ。

 人間が行う速読のそれではなく、本などに記述された文字や視覚情報を写真のようにインプットし、それを異世界間仲介管理院が保有する膨大なデータベースと照合して関連する情報と結びつけて脳内でリスト化しているのだ。

 たった一人の転生者のためだけに、ここまでやる管理官はいない。

 実際、事務室を訪れた先輩管理官が数人、ぎょっとした顔でひそひそと言葉を交わしている。

 あー、怒られるかな?

 オギナは周囲を見回し、ちらりとアラタの背を一瞥する。

 傍から見ると、ただ娯楽小説を読みふけっているようにしか見えない。

 仕事をしろ、と叱責されるのは目に見えていた。

「アラタ、気持ちはわかるけど事務室ではまずいって……」

 焦ったオギナの目に、鮮やかな紅が飛び込んでくる。

 アラタたちの指導教官であるツナギが、事務室に入ってきた。

 最悪の事態を想定し、オギナは思わず自分の机に隠れた。

 ツナギはじっとアラタの背を見つめている。

 しかし、すぐさま視線を外した。

「おや……?」

 てっきり怒鳴られると思い、アラタに代わって言い訳を考えていたオギナは拍子抜けした。

 ちらりとアラタに視線を向ける。彼は目の前の資料を読み込むのに夢中で、ツナギが事務室に入ってきたことにも気づいていない様子だ。

 結局、ツナギはアラタたちには何も言わず、自分の机にある資料ファイルをいくつか持って事務室を出て行ってしまった。

「アラタって、やっぱ大物?」

 オギナは機械のように資料をひたすら読み込んでいる友人を見つめたまま、ぽつりとこぼしたのだった。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2020

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