第9話 狸~たぬき~
ミーンミンミンミンミン。
何故だ。何故こうなった。
「ふふふ~。どこですか~。宗助君~」
悪魔の声が聞こえる。息を殺し。悪魔が通り過ぎるのを待つ。
・・・。行ったか?いやまだ、油断はできない。そっと茂みから顔を出して覗いてみる。
「宗助君。み~つけた~」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
茂みからのぞく時、悪魔もまたこちらをのぞいているのだ・・・。
~数日前~
高天原から戻って数日が経った。あれから特に命も出されずに、平和な日常を過ごしていた。
ある一点を除いて
((ったく。あれから、何も起きやしねぇ))
「当たり前だ。そう頻繁に命を出されてたら俺の身が持たん」
茨木童子が頻繁に話しかけてくるようになった。最初学校で話しかけられた時はビビったが、
意外にもこの声は周りには聞こえないらしい。
茨木曰く、声は妖気を感じることができる人にしか聞こえないらしい。
((お前、歴代の当主の中でも圧倒的に貧弱だな))
「うるせぇ。だからこうやって通ってるんだろうが」
あの戦いで、俺は鬼の力を引き出してしまった。そのため、今のままだとまずいと判断したジジイが
稽古をつけてくれることになった。
しかし、竹刀を握ったことのない俺はしっかりと才能が無いらしく。
今は基礎中の基礎を叩き込まれている。
「おーす」
道場について挨拶をする。
ヒュン。
すると、顔のすぐそばを木刀が飛んで行った。
「くぉら!宗助!道場に来た時はしっかりとあいさつせぬか!あっあと木刀取ってきて」
「・・・」
俺は無言で木刀を取りに行く。そして
ブン!!
そのままジジイに木刀を投げ返した。
「うぉ!あぶねぇ!!」
チッ躱しやがった。
「何するんじゃ宗助!死ぬところだっただろうが!」
「お前が先にやって来たんだろうが!」
俺は壁に掛かっていた木刀を手に、ジジイに襲いかかる。
「甘いわ!」
なに!木刀を素手で止めやがった!
「ふっ。やはりお前は素質がないの。宗助」
「このクソジジイ・・・」
バチバチとジジイと火花を散らしていると
「稽古してるって聞いたから、見に来てみたのに何やってるんだい。馬鹿共」
「ん?おぉユキか。何しに来たんじゃ?」
「お前さんが稽古してるって聞いたから来たのに、ただ遊んでるだけじゃないか」
「馬鹿者!これが遊んでるように見えるか!」
「馬鹿はお前らだ。少なくとも稽古してる風には見えないよ。遊んでるんなら、
今ちょっといいかい?話したいことがあるんだ」
ジジイと俺は一旦休戦し、楓のばあさんの話を聞くことにした。
「んで、話とはなんじゃい」
「実はうちの楓も狒々との一戦以降、もっと力をつけたいと言ってきてね。
それ自体は私も賛成だが、何分私も娘も忙しくてね。稽古をつけてやる時間が無いんだ。
そこでだ。どうだい、楓と宗助を誓願寺に送らないかい?」
楓のばあさんは、ニヤリとして俺の方を見てきた。
今全身に鳥肌が立った!楓のばあさんがこういう顔する時は、ろくなことにならねぇ!
((おぉ。誓願寺か。懐かしいな))
すると、茨木が意外にも反応した。
「お前知ってんのか?」
((あぁ。昔行ったことがある。とんでもなく強い坊主が居てな!それは面白い所だったぞ!))
一応言っておくけどお前の面白いはあてにならないから
「おぉ・・・。これが茨木童子か・・・」
「ん?ジジイこいつと話したことねぇのか?」
「うむ。茨木童子は気まぐれでしか話してくれんと聞いておったからの。
何代かに一度会話を交わせればいい方じゃった」
((はっはっはっ!悪いな爺さん。まぁ今はこうやって話せるからいいじゃねぇか!))
なんか楽しそうだな茨木。もしかしてこいつ、今までずっと寂しかったのか?
楓のばあさんも驚いていたが、そこには触れず話を進めた。
「茨木童子が言ったように、あそこは武術に優れている者がたくさんいる。
それに誓願寺の現当主は結界術に優れていてね。楓も結界を使えるようになると
宗助も今度戦いが起きたときに楽になるよ」
話は大体わかった。でもそんなレベルの高い所に今の俺が行っても、無意味だ。
だって基礎すらわからないんだもん。
「話は分かった。けど悪いが、楓だけで・・・」
「そうか。宗助。楓ちゃん一人でそんなところに行かせるのは不安じゃよな。
うんうん。わしもお前の気持ちよくわかるぞ」
いや全然わかってないから。むしろ逆だから。
「よし、ユキ。その話乗らせてもらうぞ!」
「おい!ジジイ!勝手に決めんな!俺は・・・」
「ユキ。楓ちゃんのことは任せとけ。もし熊に会ったら、こいつを差し出せば大丈夫じゃろ。
宗助!ちゃんと修行して、楓ちゃんを守るんじゃぞ!」
((おぉ!熊と殺れるのか!あいつらはいいぞ!中々に頑丈でそれに力もあるからな!))
「そうかい。じゃあ確定だね。宗助。明後日の昼に出発するから、荷物まとめておきな
それとね・・・」
楓のばあさんは俺の目をじっと見つめながら
「楓を頼んだよ」
その言葉で俺は完全に拒否権を失った。
電車に揺られ数時間、やっと誓願寺が見えてきた。
「普通こういうのって、目的地まで送ってくれるんじゃねぇの?」
「今更文句言わない。別に電車に乗ってただけで疲れてないでしょ」
出発の当日。楓の家に集合して渡されたのは誓願寺への行き方が書いた紙だった。
楓のばあさんに、これも修行とうまく言いくるめられ今に至る。
最寄りの駅で降りて誓願寺に向かう。誓願寺はかなり大きな寺だがその分、山奥にあるらしい。
そこまでの道のりは、整備されており遊歩道になっている。
が、そこが一番の関門だった。
「ちょっ楓。ちょっと、タンマ」
その遊歩道は二キロにもわたり、歩ききったと思ったらさらにそこから階段地獄が待っていた。
「なにへばってるのよ。だらしないわね」
ぜぇぜぇと息を荒げてる俺に対して、楓は少し汗をかいてる程度だった。
「お前、なんで、平気な顔で上がっていけるの・・・」
「あのねぇ。観察係だからって楽じゃないのよ。相手を拘束する術だったり、結界を張ったりするのも結構体力使うんだから。そのために昔から体力は付けてたのよ。ほら、行くわよ。
グズグズしてたら陽が落ちるわ」
「勘弁してくれ・・・」
こんなんじゃ着いた頃には体力使い果たして動けねぇよ。
((ほら宗助!女に負けるなんてどんな体力してんだ!根性見せろ!))
「お前は、ただ居るだけだからいいよな!」
しばらく登ると、完全に日が沈んだ。
「ほら!あなたが遅いから暗くなっちゃったじゃないの!」
「無理言うな・・・。これでも頑張ってる方なんだ」
誓願寺自体は見えてきたが、見えてからなかなかその距離が縮まらなかった。
「は・や・く。行くわよ」
急かしてももうこれ以上早くならねぇよ・・・。
何とか力を振り絞り、楓の後を付いていくと、
ガサガサ!
ん?今何か居たか?
「なぁ楓。今なんかいなかったか?」
「ん?気のせいでしょ?」
ガサガサ!
「いや、確実になんか居るよ!」
ここで思い出したくないセリフを思い出してしまった。
(ユキ。楓ちゃんのことは任せとけ。もし熊に会ったら、こいつを差し出せば大丈夫じゃろ)
いや、あれはジジイの冗談だ。冗談だよね!?
バッ!!
「うわ!!」
山から出てきたのは!?
案の定、狸だった。
「なんだよ・・・。ビビった・・・」
ダッダッダッ
するとまた、山の方から奇妙な音が聞こえてきた。
恐る恐る振り返るとそこには、両手を上げ襲い掛かってくる熊の姿があった。
あっ死んだ。
俺は一瞬で悟った。が、その熊は両手を上げたまま倒れた。
そして、ゴロンと音を立てて熊の首が転がった。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
すると山の中から声がした。
「すみません。まさか参拝の方がまだこの時間に居るとは思わなかったもので。
今晩の食材を獲っていました。おや?」
声はしたが、影のせいで足元しか見えなかった。
「あぁ、神来社宗助さん、三鏡楓さんですね。お待ちしておりました」
その人は俺たちの名前を呼ぶとゆっくりと近づき、巫女装束を身にまとった女性が月夜に
照らしだされた。
「わたくしが誓願寺の深見家当主、深見真綾です。これからよろしくお願い致します」
まさか・・・。女性・・・だと。しかも・・・
視線を顔から少し下げる。
「?」
・・・デカい。
ここから修行編入ります。
巫女巨乳・・・大好きです。