第3話 虚~うつろ~
気持ちのいい朝だ。雲一つない快晴。本当に昨日のことも無くなってほしいと思うほどの朝だ。
改めて掌を見てみるが特に痛みも何もない。
「はぁ。学校行くか・・・」
初めて学校が現実逃避の場所となった。
「よっおはよう宗助」
教室に入ると、珍しく龍也が早く来ていた。
「おう。こんな時間に居るなんて珍しいな?」
「いやー昨日面白い記事みつけてよ!気づいたら夜明けててさ」
「面白い記事?」
「そっほらこれ見てみ!」
俺は龍也が渡してきたスマホを見た。
『殺人か?怪奇か?続く変死体』
「なんだこれ?」
「最近、ネットで有名なってんだよ。
隣の市にも出たみたいで、何でも死体は何か獣に食べられたような跡があるんだって。
でも、周りの目撃証言だと動物の鳴き声とかも一切無くて、逆に不気味な人影が目撃されてる。
これが、今ネットで憶測が飛び交ってて面白いんだよ!」
「へー」
オカルトは実際見えるから深くかかわらないようにしてる
「すげぇ興味なさげだな!お前んち寺だろ。なんかそういう話無いのかよ」
「無い。だいたい墓にでるのなて、狸くらいだぞ」
龍也にスマホを投げ返す。
「考察もいいけど、人にスマホ渡すときは履歴消しておきな。「黒髪美少女」さん。
じゃ飲みもん買ってくる」
「ん?うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
この世で二番目に恐ろしい恐怖を龍也に与えて、教室を出た。
ちなみに、一番の恐怖は母親が入って来ることだ。
龍也と無駄話をしてるうちに、登校してくる生徒も増えた。
「あー売り切れてる」
お目当てのレモンティーが切れてる。どうしょうか、アップルティーにするか・・・。
いやそれともこれを機に新しいジャンル開拓するか?
「あほ面で何を考えてるのかしら?」
がたんという音が聞こえたかと思うと、隣で聞き覚えのある声が聞こえてきた
「なんだ楓か。なんの用だよ」
「ちゃんとおじいさまに、伝えてくれたかしら?さすがに脳みそ空っぽでも、
それくらいは覚えてるわよね?」
開口一番に失礼なことを言ったと思ったが、ほとんど悪口じゃねぇか
「あぁ伝えたさ。伝えた意味は無くなったみたいだけどな」
「?どういう意味かしら?」
「むしろ俺が教えてもらいたいよ・・・」
昨日のことは、言わない方がいいだろう。いっても毒が返ってくるだけだ。
「これ以上おかしくなることが無いと思ってた頭が、またおかしくなったわね」
「お前は、その口から毒しか・・・う!」
突然の匂いにとっさに鼻をつまむ。今までとは段違いに甘ったるい匂いがする。
「今気づいたけど、お前匂いキツイな!」
鼻を抑えながら楓を見る
「い、いきなりなんてこと言うのよ!この変態!」
「誰が変態だ!そんなに匂い強かったら、嫌でも気づくわ!」
楓は顔を赤らめて肩を震わせている。
「もう知らない!!」
ビターン
楓はそう言い残し去っていった。ビンタという置き土産を置いて
「いってぇ・・・。それにしても、まだ残ってやがるなこの匂い。注意してやったのによ」
そして、再び自動販売機に向かって結局水を買った。匂いで胸やけしてしまった・・・
赤く色づいた空を背にして、俺とジジイは本殿に座っていた。
いつもは拝殿で話をするのだが、ジジイが今回はここを希望した。
「おいなんで今日は本殿なんだ?なんか空気が嫌なんだけど」
「いいから黙っておれ。それに今はお主が当主じゃぞ。シャキッとせんか!」
「なんだい。いきなり本殿での話し合いを持ってきたかと思ったら、そういうことかい」
凛と澄んだ声。三鏡家当主「三鏡ユキ」だ。
「愚息のおかげで苦労してると言っていたが、まさか孫に継がせるとはね」
「ふん。素質があるものを当主に、それが決まりじゃろ」
なんかこのやり取り親近感があるな
「ほぅ。今まで普通の暮らしをしていた高校生に素質があると?お前も目が濁ったか?辰巳?」
「お前ほど濁っていねぇさ。ユキ。昔はお前もべっぴんだったが。歳取ると、
性格が顔に出るのぉ。鬼みたいじゃ・・・。ぶっ!」
「じ、じじいー!!」
いきなりじじいの顔面に包みが飛んできた。
「ほぅ、最近この距離だとよく聞こえんくてな。もう一回言ってもらえるか?」
いや、絶対聞こえてたよね。だからじじいが魚みたいにピクピクしてるんだよね!
「お母さまその辺で許してあげてくださいな。
今日は喧嘩するために呼び出したわけじゃないでしょう?」
「そうだな、それは後で始末しよう。とりあえず本題に入ろう。楓」
「はい」
始末という物騒な言葉とは裏腹に、いきなりまじめな話ムードに変わった。
「今日呼び出したのは、本部から文が届いたからです」
楓が淡々と話を進める。じじいはとうとう動かなくなった。
「最近、ここら辺で変死殺人が起こってるのは知っていますね。
最初はただの愉快犯かと思われてましたが、その一連の事件は「虚」が関係していると
考えられます」
「虚?」
なんのこっちゃと首をかしげていると
「虚というのは、その身に妖を宿しておきながら理に反することを行う者。
つまり人に害をもたらす者たちを指す言葉じゃ」
とじじいが仰向けで説明し、楓がため息をつきながら補足をする。
「本来あなた達は、その力を私利私欲に使うことは禁じられています。
しかし、今回は虚の可能性が非常に高いです。
この掟を破ったものは、この現世から滅さねばなりません」
「滅するってどうやって?」
「それが鬼をその身に宿した神来社家の仕事じゃ。
虚は普通の人間が立ち向かったところで歯がたたぬ。
今回は教会から虚の発見および、抹殺の命が下った」
えっ待って。何?どういうこと?
「おい、じじいどうなってんだこれ?どういうこと?」
「いや、そのままの意味じゃろ。家は代々虚から、この町を守護する役割を担っている。
そして、三鏡家は儂らが任務に背かないように。
そして、虚に成り下がった時即座に本部に連絡できるように見張る。
それが、儂らの関係性じゃ」
「宗助。その老いぼれの話によると。今はお主が当主の様だな。
これらの命は、当主に向けられえたものだ。
私からお主に命を下す。神来社家当主、神来社宗助。
「虚の発見および、抹殺」をお前に下す。
そして、その観察の任を楓。お前に任せるよ」
「おっおばあ様!私はまだ、そのような力は・・・」
「楓。その気持ちの弱さを捨てなきゃ、お前が虚に飲み込まれるよ。
自分の力量を自分で決めつけるんじゃない」
楓のばあさんの一言は、この場の空気も相まって重く感じた。
「以上。今日はこれでお開きにするよ。辰巳、当主にした責任をしっかり果たしな。
その程度の知識だと。すぐに消えるよ」
「心配ご無用。こいつの潜在能力は歴代稀に見るものじゃ。
実際、鬼を宿す前に匂いを嗅ぐことができてるんじゃからな。そら帰るぞ宗助」
じじはそういうと俺の襟を掴んで本殿を出ていった。
「ふぅ、ホントに大丈夫かね?今まで鬼を使いこなせたのは、初代のみ。
死なぬように守るのも一苦労なんだけどね。楓、宗助のこと頼んだよ」
「は、はい・・・」
「楓。大丈夫よ。お母さんも、いきなり辰巳さんの観察押し付けられたんだから。
よっぽどのことが無い限り怪我することもないわ」
「うん・・・」
下を向きながら本殿を後にする。おばあちゃんとお母さんは先に部屋に入った。
すると力が抜けて廊下に座り込んでしまった。そして一気に顔が火照ってきた
「私が宗助の観察役・・・。合法的に宗助の近くに居れる・・・!
あっでも、普段どうりに会話できるかな?う~」
段々恥ずかしくなり、両手で顔を覆う。そして、ふっと思った。
「・・・臭くないよね?」
最後まで書ききることが、目標です