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第19話 希望~きぼう~

((ぼうっとするな宗助!!))


茨木が咄嗟に体を動かすと、先ほどまで俺が居た地面に岩が落ちてきた。


投げてきた先を見ると、そこに居たのは


「大天狗・・・」


「ん?なんだ貴様は?人か?いや人ではない。だが妖でもないな」


デカい。それが一番に感じた感想だった。体ではない存在自体が大きく感じた。


「お前、真綾さんをどうした!」


そんな相手にも恐れることなく、風香が今にも襲い掛かりそうな形相で問いかける。


「真綾?あぁあの深見の者か。安心せい。まだ殺しとらん。ただ四肢を折っただけだ。

あ奴の大切な物が消えていくのを見届けてもらわなくてはいけないからな。

殺すのはそれからだ」


その言葉を聞いた瞬間、今まで聞いたことのないドスの利いた声が響いた。


「この下衆が」


瞬間、風香が居た場所が弾けた。いや、風香が大天狗に向かって突っ込んだのだ。


それは今までに見たことのない早さだった。


「ほう。貴様も人ではないな」


風香が爪を突き立てるが、大天狗はそれを難なく受け止める。


「今度は、封印じゃなくて、殺してあげるよ」


「それは、こっちのセリフだ小娘。今度こそ深見のすべてを消してやる」


大天狗が手に持っていた団扇を振るう。するとまた突風に襲われる。


「これは。さっきの・・・」


さっきの風はやはりこいつの仕業だった。


風香はもろに風を喰らって吹き飛ばされたが、地面に着地して爪を立てていた。


そして、また風香が消える。今度は大天狗の後ろを取る。


「ふん。あ奴と同じ手で来るか」


大天狗は素早く身をひるがえし、掌底打ちを放つ。


「くうっ!」


風香は腕で防ぐが、木々を倒しながら吹き飛ばされる。


((こっちも忘れるなよ。天狗ぅ))


俺も見てるだけではない。茨木の力を借り、大天狗に殴り掛かる。


しかし、それは当たることなく地面を砕いただけだった。


((あの野郎。見えて(・・・)やがるな))


「見えてる?」


((あぁ、奴の神通力だ。人の心と未来をも見通す目。大嶽丸おおたけまるよりも遥かに強力な神通力だな))


「そんなの、どうやって攻撃あってんだよ」


(なぁに、奴の未来よりも早く動けばよいだけのことよ)


その言葉と共に俺の横を何かデカい物体が通り過ぎ、大天狗は何かを察知して

飛び上がり避けた。


それを見たとき俺の横を通り過ぎた正体が分かった。


「風香・・・?いや、猫又か?」


そこには、かろうじて人の姿をしていたが鋭い牙を生やし、先ほどよりも巨大な爪を

持った化け猫の姿があった。


そして、避けた大天狗の頬から血が垂れていた。


(ゆくぞ)


猫又は、茨木の力を借りた俺でさえ目視できないほどのスピードで大天狗に爪を立てる。


「あれは狒々の時と同じ・・・」


((あぁ厳密には違うけどな。狒々の奴は高木と狒々の魂の立ち位置を逆転させてた。

つまり体も魂の主導権も狒々だった。それでやっと狒々の力を引出せた。でも風香の奴は、猫又の力を9割近く引き出しながら魂の立ち位置は譲ってねぇ。主導権はあくまでも風香だ。真綾が言ってた力の使い方が上手いってのは本当みたいだな))


そして、茨木は刀を抜いた。


((宗助。五割だ。行くぞ))


五割。茨木が今の俺に力を貸せる限界値。今の俺なら耐えられるはず。


「あぁ、一気に畳みかける」


そして、地面を強く踏み込む。


それは狒々の時の体感とは全く別物だった。瞬きをした次の瞬間、大天狗が目の前に居た。


「ふっ!」


大天狗に切りかかるが、団扇でそれを防がれる。


「その程度で攻撃が当たるとでも?」


((あぁ思わねぇさ。俺のはな(・・・・)))


次の瞬間、大天狗の背中を風香の爪が襲った。


「くぅっ!!」


大天狗は茨木を押しのけ、回し蹴りで風香を吹っ飛ばした。


((それしきで防いだつもりか!))


茨木はただ押しのけられただけ、瞬時に体制を立て直し真横に刀を振るう。


が、大天狗は刀を肘と膝で挟みこんだ。


((やべぇ!))


茨木はとっさに刀から手を放したが、遅かった。


大天狗は既に団扇を扇いでおり、勢いよく地面に叩きつけられた。


「がはぁ!!」


肺の中にある空気が漏れた。


「まだだ!」


そう叫び、風香が大天狗に向かって突っ込んでいく。


「もういい。貴様らはもう飽いた」


一振りだった。


大天狗は地面に向かって団扇を扇いだ。その瞬間、爆発したと錯覚するほどの

衝撃が俺らを襲った。


俺は飛んできた木々にぶつかり呼吸をするので精一杯だった。


大天狗は一瞬で移動し風香の頭を掴み地面に叩き込み投げ捨てた。


大天狗の一撃は狒々の時の比ではなかった。一撃一撃が重すぎる。


それを連続でくらってさすがに猫又の力を借りてた風香でさえも、

その状態を維持できなかったらしい。


猫又の姿から小さな風香の姿に戻っていた。


(風香!おい!風香!)


猫又が叫ぶ。


「ふ、うか・・・・」


俺も茨木の力を保つことができなくなって普段の姿に戻っていた。


(動け。動け。動け。動け!俺は何のために修行したんだ!強くなるためだろうが!

もう泣かせないようにするためだろうが!動け!!)


「それが貴様の限界だ」


目の前には大天狗が居た。そして俺の腹を踏みつける。


「がはぁ!」


唾と混じって血が口から飛び出る。


「貴様先ほどの姿、中に居るのは鬼か?それにしては弱すぎるな。儂が記憶している

鬼はもう少し手ごたえがあったんだがな」


大天狗は俺を見下すような目で見降ろしていた。大天狗の姿は力を使ったからなのか

鼻が伸び、羽が生えていた。


一番最初に見た時よりも天狗っぽい姿になっていた。だからだろうか、俺と茨木が

同じことを口にしたのは。


「((足どけろクソ野郎。その鼻へし折るぞ))」


それを聞いた大天狗はニヤリと笑い、団扇を扇いだ。


と思ったが、団扇は振りかぶったところで止まっていた。


楓が拘束術で大天狗の腕を止めていた。


「それ以上はさせません!」


そういうと、拘束術で出された鎖は、手足と胴体を縛った。


「あぁそういえば貴様も居たな。小娘」


しかし、大天狗は鎖を軽く引っ張ると簡単に引きちぎった。


「なっ!」


拘束することはできなかった、けど一瞬でも動きが緩んだ。


俺は大天狗の足を押しのけ、押さえつけから逃れる。立ち上がり大天狗の方を見るが

前蹴りが飛んできた。


「うっ!」


そして地面に叩きつけられながら飛ばされ、最後は木にぶつかり止まった。


「ぁぁがぁ・・・」


息なのか声なのかわからない空気が喉を通っていく。


「ほう。いい反応だな。あの一瞬で両足を地面から放して、衝撃を半減したか」


大天狗は体を反転させ楓の方に向かって行く。


やばい。やられる。


そう思ったが体がまだ動かない。


しかし、大天狗は楓の横をただ通りすぎただけだった。


「なっなんで・・・。私を見逃すというのですか!」


楓が大天狗に向かって叫ぶ。


「見逃す?貴様は物事を成し遂げる時、わざわざ道に居る虫を一匹残らず掃除するのか?

その二人と深見は力があった。儂がやられることはないが、居ると多少邪魔になるから掃除したまで。しかし貴様はどうだ小娘。あの二人が戦ってる際、何かしてたか?

それに先ほどの状況で発動させたのは、結界ではなくただの術式。その程度の術者など

儂にとっては、虫けら同然。つけあがるなよ小娘」


大天狗は鋭い目つきで楓を睨む。


「あ・・・。あぁ・・・」


そして楓はその場にへたり込んでしまった。


「ふん。時間を取らせおって。さあ深見、見てろ。貴様の寺が!人が!大切な物が

消えていく様を!」


((やべぇ。楓の奴、心折られちまった!あれも奴の神通力の力だ!おい!宗助!起きろ!))


「うる、せぇ。言われなくたって・・・」


虚勢を張るが木に寄りかかりながら、立ち上がるのがやっとだった。


風香は未だ動けない、俺も立ち上がるのでやっと。楓は心を折られた。


そして、真綾さんも―。


大天狗を止められる人はいない。もう・・・・終わった。




突然木々が風もないのに不自然に揺れた。


そして、一つの音が響く。


チンッ


それは、刀を鞘に納めた音だった。


その瞬間周りの木々が切れ、大天狗の胸には一本の切り傷が付けられていた。


「なに・・・?」


大天狗も何が起こったかわかっていなかった。


「楓さん。顔を上げてください。奴に惑わされてはいけません。自分を信じるのです。

自分を信じてくれる者を信じるのです。あなたは――」


音と共に現れたのは


「真綾さん!!」


「決して虫けらなどではありません」


団扇うちわと読みます。日本語って難しい。


もう春を通り越して団扇の季節ですね。みんな薄着になるぞ!

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