第17話 真綾~まあや~
木々の横を通り過ぎていく。
(風香は大丈夫でしょうか?皆をしっかりと制御してくれてればよいのですが。
それに宗助さん。彼は来てはいけない。鬼の力は未知数ですが彼は、無茶をする
目をしてた。こんな状況で賭けに出るわけにはいかない)
しばらく走ると、祠のある崖が見えてきた。
「もう少し・・・!?」
ここに来て殺気を感じ足を止めた。
(この殺気どこから・・・?)
辺りを見渡す。すると木の上に一つの人影が見えた。
その影と目が合う。
「・・・貴様、名は?」
その人影は、自分にそう問いかけてきた。
着ていた着物の上を脱ぎ、刀に手をかける。
「深見、真綾」
「深見、だと?」
その瞬間先ほどとは比べ物にならない殺気が襲い掛かってきた。
「そうか。貴様が、深見かぁぁぁ!!」
その人影は木の上から飛び降り持っていた槍で地面を砕いた。
~数分前~
「何者だ?貴様?」
「せっかく結界封印を解いてやったのにその口の利き方はないじゃろ?」
「・・・なにが目的だ?何か条件が無くては、むやみやたらに助けたりは
するまい」
「いやぁなに、ちょっとここに来る奴らと遊んでくれないかの?」
「遊ぶ?」
「応さ。もう少ししたらお主にもゆかりのある者がくるじゃろう。
そ奴らと、ちと遊んでやってくれ」
「何を企んどる?それだけのために儂を助けたと?」
「・・・興味があるのさ」
「は?」
「その昔、この地に居た二つの名家。武道に優れた深見家、結界術に優れた名取家。
この地を守っていた両家だが、仲は最悪じゃった。深見家が結界術に興味を持ちだし
名取家に結界術の方法が書いた書物を渡すように要求してきた。
じゃが、名取家はそれを拒否。名取家は力で解決しようとする深見家を嫌っていた。
それに逆上した深見家は名取家に乗り込み、女子供をも虐殺。更に縁者に至るまで探し出し
名取家を滅ぼした」
「貴様どこからそれを・・・」
「名取家の当主は結界を教えることを了承したが、一度火の付いた深見家は
止まらんかった。交渉にきた名取家の当主を捕らえ、最後まで生かし一族が滅んでいくのを
見させた。男は泣き、恨み、怒り、深見家を呪いながら首を落とされた。
その恨みは天まで届き、半年後その男は妖となった。その妖は深見家を滅ぼさんと
領地、家、人をも焼き殺し復讐をしようとした。しかし、その時深見家に来ていた
部外者に邪魔され、お主は封印された。その恨みを孕んだ妖を、深見家が守る
この時代に解き放したらどうなるのか。それを見たいのさ」
「・・・」
「得物は表にあるから使ってよい。最近槍にハマっていての。お主なら使いこなせるじゃろ」
「待て。貴様まさか・・・」
「じゃあ、そろそろ行くからの。頑張って仕合ってくれ。
憎しみに身を焼かれ、天狗道に落ちた人ならざる人。
大天狗殿」
振り下ろされる槍を躱し、距離をとる。
「これが、大天狗」
姿は人だが、砕けた地面を見れば一目瞭然だ。
これは人の成せる技ではない。
「避けなければ苦しまずに済んだものの。だが、深見の者にそう簡単に
死んでもらっても困る。貴様らには、死んだ方がましと思う地獄を見てもらわなければ
いけないからな!」
大天狗は地面を蹴り距離を縮め、槍を振るう。
とてつもないスピードで振り下ろされる槍は、一撃喰らえば骨が砕けるだろう。
自分でなければ。
「残念ながら・・・」
振り下ろされる槍を、抜いた刀の柄頭で受け止める。
「ぬっ?」
受け止めた槍を上へ弾き、その隙に懐に入り込む。
「なに!?」
「わたくしはまだ死ぬわけにはいきません」
そのまま、水平に刀を振るう。
手ごたえは・・・無い。
大天狗はとっさに身を引き、間合いから外れた。
「なかなの筋だな貴様」
今の数手でわかる。こいつは全力ではない。
「女だからと言って、舐めているとその首獲らせていただきますよ」
それでも、自分が付いていけない速さではない。
「ふん。深見の分際で舐めた口を」
「では深見の分際の太刀筋、よくご覧になってください」
今度はこちらから仕掛ける。
(次はもっと早く)
そう思い地面を強く蹴る。
相手からは消えたように見えるだろう。しかし、これはただの移動。
大天狗の後ろをとり、首筋を狙って刀を振るう。
しかし、大天狗は身を屈めそれを避ける。
「ふん。その程度か」
「まさか」
更に、体をひねり回し蹴りを決める。
大天狗はそれを槍で防ぐが、衝撃で数メートル飛ばされ砂ぼこりが舞う。
また一気に間合いを詰める。
その瞬間横薙ぎが襲い、砂ぼこりを切り裂いた。が
「その程度で、わたくしが獲れると?」
細い槍の上に乗りながら大天狗の顔を目視する。
「眠りなさい」
首元を目がけ突きを放つ。今度は手ごたえがあった。
そのまま、刀を押し続け深く差し込み、後ろにあった大木に大天狗を突き付けた。
大天狗の首からは朱殷の血が流れている。
(手ごたえはあった、しかし何でしょうこの違和感)
すると後ろから、先ほど感じた殺気が放たれた。
「なっ!?」
慌てて刀を抜き振り返る。
「忘れたか?儂の本来の得物は槍ではないぞ」
この違和感の正体を思い出した。
今殺った大天狗は団扇を持っていなかった。
大天狗は団扇で肩を叩きながら、岩の上で胡坐をかいて座っていた。
「儂の神通力をなめるなよ」
大天狗は立ち上がり、団扇を構える。
「散れ」
そう言い団扇を一振りすると辺り一面に突風が起こり、
木々もろとも吹き飛ばされ地面に打ち付けられた。
「くっ!」
咄嗟の受け身で何とか衝撃を緩和する。
「これは、少しまずいですね・・・」
団扇のことを思い出したと同時に、最悪なことも思い出した。
天狗は人の手で討たれていない、数少ない妖怪だと。
大天狗は人の姿でも出てくるみたいなので、今回の話では人の姿をした大天狗で書きました。
天狗の中の種類で大天狗という妖怪がいます。
まじめなことばっかりなので、最後に一言。
巨乳の人のサラシっていいよね。