第16話 涙~なみだ~
「ん?貴様何者だ!何故こんなところにいる」
その人物は突如現れた。
「ん~最近は月夜が多いが、ここは見晴らしがいいのぉ」
「何者だと、聞いている!!」
隣にいた仲間が奴に切りかかった。が。
「遅い」
一瞬の出来事だった。切りかかったはずの仲間の首が音をたてて落ちた。
全く見えなかった。奴はいつの間にか右手に刀を持っていた。
「なんだ・・・お前は」
体が震える。
「なぁに、ただの」
奴はそれだけ言うと目の前から消えた。
「物見遊山にきた客じゃ」
「えっ」
次の言葉は、背後から聞こえ。気づいたときには、胸から腰にかけて
逆袈裟の方向に斬られ、その場に倒れ込んだ。
「ふぅ~。なんじゃ。もっと楽しめると思ったんじゃがのぉ?
まぁ当主以外はこんなもんかの。どれ・・・。まためんどくさい
術式を組み込んだ結界封印じゃの」
奴は後ろで祠の結界を弄っていた。
(今なら、殺れる)
運が良いことに、力を振り絞れば一気に起きて奇襲を仕掛けられる。
奴は結界を解くのに夢中になってる。
「・・・今だ」
最後の力を振り絞り、起き上がると同時に振り返り刀を抜く。
しかし、奴は振り向きもせずに刀を投げその刀は腹を貫いた。
「がぁっ!!」
刀に貫かれた衝撃でバランスを崩し倒れながら滑っていく。
「黙って寝てれば見逃したものを。阿呆よの。・・・よし!やっと解けたのぉ」
結界が消滅していく。
「さぁ封印が解けたぞ。起きな。―――。」
薄れる意識の中、思い浮かんだのは誓願寺のみんなのことだった。
「ま、真綾さん・・・みんな、逃げ・・・」
そこで、意識が無くなった。
「祠の封印の結界が破られました!!」
康太さんのこの一言で真綾さんの顔が変わった。
「康太。それは誤認ではありませんね?」
「はい。間違いないと」
それを聞くと真綾さんは立ち上がり。
「康太!結界を使えるものを集め、直ちに誓願寺を囲っている
結界の強化を!康太は、指揮を執った後祠へ急行しなさい!
風香!あなたはここの守護を。みんなを守りなさい!
皆も警戒を怠るな!」
その口調は、真綾さんの普段の優しい性格からは想像できない威圧感だった。
「わたくしは、祠へ向かい奴を討ちます」
「なっ!一人でなんて危険です!奴は昔この辺り一辺を焼け野原にした化け物ですよ!」
「そうだよ真綾さん!私も一緒に行く!」
「だからこそです。わたくしが止められなかった場合、ここを捨てなさい。
あなた達が居れば、深見の技術は絶えることがありません。大切なのは
血を繋ぐことではありません。人を守る技術を力を後世へ残し、守ることです。
あなた達がその礎となるのです。そしてこれは、当主命令です。
何人たりとも否定することは許しません」
康太さんと風香が真綾さんを止めるが、その一言で二人とも押し黙る。
「皆!己の命を最優先に!さぁ早く!」
真綾さんの発破でみんなが一斉に動き出す。
「宗助さん、楓さん。このような事態が起きてしまい申し訳ありません。
でも、お二人の身には危険が及ばぬようにしっかりと守護させていただきますので
どうか風香の指示に従ってあげてください」
「私たちも行きます!何が起こったかよくはわからないけど、でも
話を聞く限りなんて危険すぎます!」
「そうですよ!俺らだって多少は・・・」
「お願いします。わたくしの力ではお二人を連れて行っても守り通せる
自信がありません。お二人の身に何かあったら、お二人の祖父母に合わせる
顔がありません。どうか、お願いします」
その言葉を聞いて、楓は何も言えず下を向いてしまった。
俺も理屈はわかった。でも、納得はしなかった。だから、俺は下を向けない。
曲りなりにも当主だったら、納得できないことに自分を偽っちゃいけねぇ。
真っすぐに真綾さんを見る。
「宗助さん・・・。付いて来てはいけません。風香の指示に従ってください」
真綾さんは、そういうと広間に飾ってあった刀を取り、外へ出ていった。
不安そうに楓が見つめ、俺の着物の裾を掴む。
風香は慌ただしく指示をだし、みんなをまとめ上げてる。
((おい。宗助。あそこ))
そんな中、茨木が俺の体を使って指さす。
そこにはまだ刀が残っていた。
((後、俺を忘れるなよ))
「はっ。だよな」
鬼は傲慢で自由だ。なら俺も自由にやらせてもらおう。
楓の手を解き、茨木が指さした刀を取りに行く。
「ちょっと、宗助?」
「もっと俺たちが強かったら押し切れたんだろうな。でも残念ながら、真綾さんにとって
今の俺らは付いて行っても足手まといらしい。でもな、真綾さんの勘定にこいつの力は
半分も入ってねぇ」
俺は心臓のあたりを指で叩きながら続けた。
「俺の体はいたわらねぇし、口は悪いし、すぐに戦おうとするし、良いとこはほぼ無し。
でもな、こいつは強いってことだけはわかる。5割なら力借りれるみたいだぜ。
なら俺の足が折れようが、腕が折れようが今回は出血大サービスだ」
そして刀を手に取る。
「限界まで力貸してもらって真綾さんの隣で戦う。楓、お前はどうする?」
「私は・・・」
「何を言ってるのかな?宗ちゃん?」
そこにはあっち(・・・)の風香が居た。
「真綾さんの言葉きいなかったの?真綾さんは私たちを守るために一人で行ったんだよ!
私ですら連れて行ってもらえなかった!その意味わかってんの!それだけ危険な相手なんだよ!」
あの風香が肩で息をして大声で叫んだ。
よっぽど珍しいのか、今まで騒がしかった広間が静寂で包まれた。
「あぁ。わかってるよ。そんなこと。でも、真綾さんは『俺らが傷ついたら
俺らの祖父母に合わせる顔がない』って言ってた。
全くわかってねぇ。俺らのジジババはな、こんな状況で真綾さんを一人で行かせて
傷つけ、逆に俺らが無傷で帰ったら勘当する。そんな年寄りなんだよ。
それにな、俺と楓はここに来てから与えられてばっかりだ。飯も風呂も知識も力も。
一宿一飯どころの話じゃねぇ。だったらこの恩は返さなきゃならねぇ。
神社来当主としてその義理を通す権利はあるはずだ」
「足手まといなんだよ!私も、宗ちゃんも!そんな中行ったら
真綾さんを死なせちゃう!」
更に口調を荒げる。
「そうかもな。でもな、そうやって自分の気持ちを殺して
死なせたくない人を一人で行かせ死なないようにただ
祈って待ってるだけなら、俺は死なせたくない人の隣で
必死に戦って死にたい。それに風香。お前の中にもいるだろ。
なんでそいつに頼まねぇ?お前が全力でその身を猫又に委ねられれば、
真綾さんを守ってやれるだろ。それに」
俺は風香の横を通り過ぎる。
「そんな泣き顔で言われても、説得力ねぇよ」
風香は行きたいのを必死に抑えてたのだろう。風香の目からは涙があふれていた。
死なせたくない人の隣で戦いたい。
それはきっとこの中の誰よりも風香が一番思ってる。その思いを殺してでも、
真綾さんが言ったこともわかるから残ったのだろう。しかし、俺を見て
抑えてた感情があふれ出したのだろう。
残らねばならぬ義務感と助けたいという葛藤の中で渦巻いてた感情が。
「風香さん。行ってください。俺達なら大丈夫です。なんせ真綾さんと風香さんに
しごかれた連中ですよ。そう簡単にくたばりませんし、真綾さんの技術も繫ぎます。
だから行ってください!」
「そうです風香さん!真綾さんを助けてあげてください!」
「お願いします!風香さん!」
今まで静かだった周りの人たちが、次々と声を上げた。
「・・・にゃんた。力、貸してくれる?」
(何をいまさら。真綾に死なれては困る。風香、主にもな)
「うん・・・。ありがと」
よし、戦力は整た。
「よし!行くぞ風香!楓!真綾さんを助けるぞ!」
「えっあ、うん!」
「うん。行こう宗ちゃん」
真綾さんすみません。俺らは自分のわがままであなたを助けに来ます。
でも、真綾さん。あなたをを慕う人を泣かせた責任は、
生きて取ってもらわないといけないですから。
こんなカッコイイことを言える男になりたいです。