第14話 努力~どりょく~
「ばれて・・・ない」
俺が川に流されてから5日がたった。
あれから、かくれんぼという名の鬼ごっこは続いた。
鬼の力を引き出すのに必要あるのか疑問だが、俺は気配を消す術を覚えた。
最近この修行の意味もわかった。ついでにもう1つわかったことがある。
「ふふふ~。宗助君どこかな~」
風香は普段と狩りをする時の人格が違う。それはもう天使と悪魔ほど違う。
見つかる回数は減ったが、その分見つかった時の攻撃は過激になっていった。
最近は直接爪で引き裂いて来ようとしてくる。
しばらくすると姿が見えなくなったため、移動を試みる。
「アイツ俺をストレス発散に使ってねぇか?」
頭を掻きながら、歩き出すと
ドゴォン!
まさかの落とし穴があった。
「いてぇ・・・なんでこんなところに落とし穴が・・・」
状況を確認しようと上を見上げるとそこには風香がいた。
冷汗が止まらない。
「ばいばーい」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
俺の叫びだけが虚しく山に響いた。
「にゃはは、ごめーん。ついスイッチ入っちゃって」
「ははは。そうだね。生きててよかったね」
ホントに今生きてるのが奇跡的に思えた。
「言っておくけどあの落とし穴、私じゃないからね?見つけたからもしかしたら、
使えるかもしれないと思って・・・」
風香は少し頬を赤らめながら、モジモジしていた。
仕草はかわいいけど、会話の内容がな・・・。
「あっ!そういえば、そろそろ修行の意味わかったかにゃ~?」
「ん?あぁ何となくな、主な目的は足腰の強化だろ?プラス体力強化」
「ん~まっ合格点かにゃ~。まだわかってない所もあるけどね~。
よし!じゃあ午後から道場で剣術やるよ」
「えっ!マジで!やっと誓願寺に帰れるー!」
久々の誓願寺だ。これでやっと行水から温泉にグレードアップする。
「その前に」
「ん?」
「帰るついでに食料調達して帰ろ~」
風香は、右手を握り高々と拳を上げた。
その後無事誓願寺に戻ったが、俺の傷を心配してくれたのは同志だけだった。
「それでは今日も頑張ってくださいね。宗助さん」
「はい」
修行は茨木と真綾さんが居た部屋で行われている。
俺は風香を正面に捕らえ木刀を構える。
「ふっ」
地面を踏みこみ風香に突っ込む。
木刀を上段で構え、間合いに風香が入ったと同時に振り下ろす!
風香はそれを軽く受け止める。
「うん。踏み込みは良くなったかにゃ~。でもまだ甘い」
受け止めてた木刀を弾き、体勢を崩した俺を狙って風香は突きを繰り出す。
喉元に先端が触れる。がそれを紙一重で体をひねり躱す。
「うぉら!」
そのひねりを利用し、遠心力を使って木刀を振るう。
しかし、風香はそこにはいなかった。
「またかよ!」
いや・・・後ろ!
そう思い俺は身を屈めた。
すると、読みが当たり風香の木刀は空を切った。
「おぉ!躱した!」
「ははっ見たか風香俺もせいちょ・・・うっ!」
しかし、躱して満足してしまった俺は普通に蹴られて転がっていった。
「・・・反撃忘れてた」
「はぁ避けて満足するってどう神経してるんだか・・・」
((宗助・・・お前もしかして馬鹿なのか?))
「うるせぇ。お前までメンタルにまでダメージ負わせるな」
まただ。また一撃も入れられなかった。
誓願寺に帰ってきて本格的に剣術修行が始まった。しかし、ここに来ても
風香にボコボコにされていた。
木の棒を木刀では感覚が違いすぎて、山でやってたのは本当にチャンバラだったと
実感した。
「なぁ風香。俺はちゃんと強くなってるか?」
「な~に~いきなり、ん~まぁ少しはましになってきてるかにゃ~」
「なんかな。やってもやっても前に進んでる気がしないんだけど」
努力はしてるつもりだ。階段は一歩一歩登ってるはずなのに、エスカレーターの用に
階段は俺を下へ下へ降ろしていく。
「宗助さん。大丈夫ですよ。宗助さんは確実に強くなっていますよ。
今は砂を積み上げているような感覚かもしれません。ですが
いつかそれが全て報われたと思える日が来ます。それが感じれるかどうかは、
砂を積み上げれるかどうかで左右されますよ」
「・・・」
俺はそれに対してどう返答しようか迷っていた。
今自分の思いを真綾さんに言ったところで、この気持ちは晴れるのだろうか?
「はぁ~あ。今日はもうおしまーい。そんな意識で修行しても意味ないからね
~。興ざめしちゃったにゃ~」
そう言いながら風香は部屋から出ていった。
「ふっふっ!」
風香と山で修行している時から、寝静まった頃に素振りをするのを
日課にしていた。誓願寺に戻ってからも、中庭に出て振っている。
ここに来た時よりも確実に手の皮が厚くなっていた。
唯一これが俺の中での成長の証だった。
てか、誰も居ない中上裸で素振りする姿ってかっこよくない?
それが今まで素振りを続けれた理由だ。
「あんた今日もやってんの?」
不意に後ろから声がした。
「うぉ!ビックリした!なんだよ楓かよ。おどかすな・・・」
「・・・やっぱり痛々しいわね。それ」
「ん?あぁ見た目だけだ。それにこれは自業自得だしな」
楓がそれと示すものは俺の背中にある。
昔色々あって、背中に大きな火傷の痕がある。
「それよりこんなところで何してんだ?」
「バカが格好つけながら素振りしてたから、見に来たのよ」
楓は、縁側から足を投げ出しブラブラさせながら答えた。
「べっ別にカッコつけてねぇわ!」
他人に言われるとすげぇ恥ずかしい!
その恥ずかしさを紛らわすために、素振りを続けると。
「宗助。修行の調子、どう?」
楓が静かに聞いてきた。
「はっ、帰ってきてから一回も風香に攻撃当てられてねぇわ!」
素振りを続けながら答える。
「お前はどうなんだ楓」
「私は・・・特には。順調よ」
楓は一瞬言い淀まった。
こういう歯切れ悪い時は、何か悩んでる時だ。
だけど結界術のことは全然わかんねぇし俺の前で弱音を吐くとは思わない。
・・・俺は素振りをするのを止めた。
「なぁ楓。努力って意外と無駄なのかもな」
「えっ・・・」
「頑張っても頑張っても結果がでねぇ。才能が占める割合って大きいのかもな」
「そう、かな。やっぱり・・・」
「『自分の力量を自分で決めるな』楓のばあさんの口癖だったよな。
俺は今までテキトーに生きてきたから、何言ってんだって感じだったけどよ
今ならこれを言われてきた楓の気持ちがわかる。自分を信じて、いつか出る結果を信じて努力
し続けるのってスゲーしんどいな。楓はこれをずっと続けてたんだな」
月明りの中、俺は楓の隣に座った。
「楓はホントにすげぇよ。小さい時からこれをやり続けてんだもんな。
俺なんか、頑張ってる俺カッコイイ!って思わないとやってらんねぇ。
だからもっと自信もっていいんじゃねぇの?続けてること。それも才能だろ?
それに、今無駄だと思ってるものを積み重ねればいつか輝くんだとよ。
真綾さんが教えてくれた」
俺は、ニッっと笑って楓を見た。
楓は驚いた顔で俺を見ていたが、クスクスと笑った。
「まさかあんたに気を遣わせる日が来るとわね。」
楓は立ち上がり
「宗助。ありがとう」
そういうと、俺に背を向けて廊下を歩いて行った。
「な、なんだよ。あんなの反則だろ・・・」
最後に見せた楓の笑顔は月明りに照らされ、見てきた中で一番かわいい笑顔だった。
あぁぁぁぁぁぁぁ!
女の子に笑顔向けられてぇぇぇぇぇぇ!!