第13話 結界~けっかい~
~楓サイド~
この数日、康太さんの近くに居てわかったことがある。
康太さんは本当にすごかった。
知識量はさることながら。結界の展開の速さも真綾さんに引けを取らなかった。
「すっすごい・・・」
思わず口にする。
「いやぁお恥ずかしいかぎりです。僕ではまだまだ真綾さんには及びません。
それに、楓さんでもこの領域ならすぐにたどり着けますよ」
康太さんは謙遜し、私に優しく話しかけてくれた。
「康太さんはいつから結界術を始めたんですか?」
「これも恥ずかしい話なのですが、私は10歳の頃から始めたんです。
実は私剣術の才が無いみたいで、いつも下から数えた方が早かったんです」
10歳・・・。私が10歳の時は簡単な術を発動させるのに
手こずってた記憶がある。拘束術や防御術などの術と結界術は難易度が段違いだ。
拘束術や防御術などの術の上位が、結界術で言う下位の難しさである。
「でもある日、真綾さんの結界術を見たときに何故か結界術に
強い興味を持ったんです。そこから、私は結界術にのめり込んでしまい
今では結界術専門でやらせていただいてます」
康太さんは私の問いに答えながら、何やら準備をしていた。
そして私の前には、小さな箱が5つ並べられた。
「では今日から実際に結界を張っていきます。まずは簡単なことから始めましょう。
ここに箱があるので、まずは箱を1つ結界で囲んでみてください」
そして私は、小さな石ころを5つ渡された。
「これは?」
「結界術も基本的に何かを媒体にしなければなりません。
先日の真綾さんの結界で例えると、あの時に使ってたのはお札ですね。
結界を展開したいところに媒体となるもので四方をかこみ、そこに結界が展開
されます。今は囲うものが小さいのでそれを媒体にしましょう」
なるほど。今まで私が使ってた術は、あらかじめ術式を書いた媒体を
用意することで瞬時に使うことができた。
しかし、結界術は事前に使う範囲を決め配置をしないと術として成り立たない
ということか。
「あぁそれともう1つ大事なことがあります。今石を5つ渡したので、1つ石が余ります。
それは鍵として使います」
「鍵、ですか?」
「はい。これは深見家特有の結界となりますが、深見家の結界は鍵となる媒体が
必要になります。その媒体には、血や髪といった自分の代わりとなるものを組み込む
必要があります。そうすることで、結界と自分自身が繋がり強力な結界を張ること
ができます」
「繋がる?」
「はい。自分の代わりを組み込むことで、自分の力をそのまま結界に流し込むこと
ができます。つまり結界の強度は、術者の技量に左右されるということです。
自分の代わりとなるものは、自分に近ければ近いだけ繋がりも強くなります。
一番繋がりが強いのは、血になります。真綾さんもあの時、血を用いていましたね。
まあこの辺は、実際やってみた方がわかりやすいと思いますのでとりあえず
やってみましょう」
そう言って康太さんは、私に髪を一本石に結べという指示を出した。
その後、目の前に置かれた箱の1つを石で囲み、準備が出来た。
「では結界を張ってみましょう。今手元にある石、それに箱を囲むイメージを
送ってみてください」
康太さんに言われた通りに、箱を囲み結界を張るイメージを頭の中で思い浮かべる。
すると、ゆっくりと石で囲んだ範囲に結界が展開していく。
そして、箱を完全に囲むことができた。が、結界は5秒も持たずに消滅してしまった。
「くっ!」
「おぉ結界を張れることはできましたね!初めてやって、少しでも張れたのは
素晴らしいですね。それでは、次に結界を維持してみましょう。結界が張れたら、
次はイメージよりも、石に力を込めることを意識してください」
「わかりました」
・・・まずは、結界を張るイメージ。そして次に、力を込める。
「ん・・・くっ・・!」
結界は張ることはできた。しかし、結界はまたしても数秒で消滅した。
「はぁはぁ・・・」
動いてもないのに、既に息が上がってきた。
術式を用いる術よりはるかに体力の消耗が激しい。
「結界は張ることよりも、それを維持することが難しいとされています。
ここが第一関門ですよ」
もう一度チャレンジしてみが、今度は形が変形してしまい消滅してしまった。
「なんで・・・」
「・・・少し休憩しましょう。最初から力を使いすぎると倒れてしましますからね」
「はい・・・」
なぜだろう、初めてやったことだから最初はできなくて当たり前。
そんなことはわかっているはずなのに、できない自分が惨めに思えてくる。
「それでは、体力が回復するまでは頭の方を動かしましょう!
時間は有限です。空いている時間は有効活用していきましょう!」
「は、はい」
そうだ。私はここに変わりに来たんだ。下を向いている時間はない。
「ふぅ~」
一日の疲れをお風呂が癒してくれる。
あの後も、練習を繰り返したが結局1分も結界を保たせることはできなかった。
それでも、康太さんは初日にしてはすごいと褒めてくれた。
「それを素直に喜べないのは私の性格が歪んでるからなのかなぁ」
誰も居ないお風呂場に独り言が響く。
「素直だったら、もっと可愛げがあるのかな?可愛げがあったら宗助も・・・」
いやいや!なんで今宗助が!宗助は関係ない!
一人でに恥ずかしくなってきたので、別のことを考える。
「なんで上手く結界を維持できないんだろう。康太さんはまだ精神が安定
してないって言ってたけど・・・」
形を保つコツは、精神を安定させることらしい。
今は結界に力を送る方に意識が傾いていて、そちらに気を取られている。
だから、形が崩れる。呼吸をするように力を送ることができるようになれば、
簡単に維持できるようになる。
「精神を安定、か。なんか考えすぎてのぼせてきた・・・。そろそろ上がろ」
湯船からあがり、出入り口へ向かう途中に桶が積み重なっていた。
「・・・ちょっとやってみよ」
桶は小さいながらも四角く積まれていたため、桶を1つ取り中に髪の毛を置いた。
そして、目を閉じて結界を張るイメージをする。
(あっ大きさ決めてなかった・・・まあいいか)
結界に力を送る。そして、それを維持。
力を入れながら、恐る恐る目を開ける。そこには、先ほどと変わらない景色があった。
「まぁ、そんな簡単にできないよね。あれ?」
桶を見てみると、指から血が出ており桶に付いてしまった。
「いつ切っちゃったんだろう・・・。あっ早く洗わないと!」
私は急いで、桶を洗いに洗い場まで行った。
「ん~何がいけないんだろう?さっきはちょっといい感じしたんだけどな・・・」
桶を洗いながら、先ほどの場所を無意識に思い出した。
その時楓は気づかなかったが、真綾・康太は感じた。
何者かが敷地内で結界を張った。一瞬で消えたため場所まではわからなかった。
しかしその結界は、真綾が茨木童子を閉じ込めておくために張った結界と同じ位
強力なものであった―。
「うわ~桶に血染みついちゃった。上がったら真綾さんに謝ろ・・・」
この話を書きながら、昔見ていた「結界師」を思いだしました。
時音可愛いですよね。楓も負けてませんけどね。