第12話 川~かわ~
風香のおそろしい言葉を受け止め。俺は全速力で隠れる場所を探した。
殺されるかくれんぼってなに!てかそれってかくれんぼなの?
荒れた呼吸を落ち着かせると、静寂が訪れた。
てか隠れてるだけで修行になるのか?気配を消すとか?
でもそれって器に必要な能力なのか?
このかくれんぼの意図が見えず、考えていると。
ドス!ドス!ドス!
目の前に何か鋭利なものが飛んできた。
「手抜いたら殺すって、言ったよね?」
そこには瞳孔ガン開きの風香がいた。
その爪とばせるのかよ!
「見つかった罰ゲームとして、そこ動かないでね。次は当てるから」
「殺る気満々じゃねぇか!」
風香が放つ爪をなんとかよけながら、全力で逃げる。
これは、 かくれんぼじゃねぇ!リアル鬼ごっこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
~真綾サイド~
「どうですか?窮屈ではないですか?」
((器の中にいるよりは快適だ。便利だなこれ))
茨木童子は暴れるわけでも、わたくしを脅すわけでもなくただただくつろいでいた。
((あの時も結界張れる奴が居たが、こいつぁそれの比じゃねぇな。それにここ、
ずいぶんと雰囲気は変わったな。斉明と来た時とは大違いだ))
「斉明とは?」
((あぁ、お前に言ってもわからんか。神来社斉明。神来社家の初代当主だよ))
神来社家初代当主。いつしか読んだ書物に、ここを訪れたことが記されていた気がする。
「そうなのですね。その時の誓願寺はどうでしたか?
わたくしも書物でしか読んだことがなくて」
((そうだな。その時は、まだ稽古場だったな。今よりは活気があったがな。
斉明が来た時、門下生の殺気が立ち込めて良い空間だった))
殺気は鬼にとって心地よいものなのでしょうか?
「その時は何故誓願寺へ?」
((なぁに、ただの道場破りさ。ついでに結界に熱心な奴がいるとかで、酒飲みながら
話してみたいとも言ってた気がするな。なぁ俺も一つ聞いてもいいか?))
「いいですよ。何でしょう?」
((お前は宗助をどう見る?))
「正直にお伝えしますと、わたくしにはただの一般人にしか見えません。
神来社家は幼いころから竹刀を握らせるそうなのですが、わたくしには
素人以下にしか見えませんでした。それは精神力もです」
((だよなぁ。俺もそう思う))
「ただ、だからこそわたくしは風香に指南役をお願いしました。
もし風香のやり方に耐えることができれば、宗助さんはあなたを
もっと使いこなせると思います」
((・・・そうか。ありがとよ。でも確信した。俺は宗助が器で良かった))
~宗助サイド~
「にゃはは~!ボロボロだね宗ちゃん」
「誰のせいだ。誰の」
夕日の明かりすらなくなり、今は川の近くで焚火を囲んでいた。
帰れると思ってた俺が甘かった。まさか野宿とは・・・。
あの後、散々山の中を追いかけられた。
ついでに逃げてる途中で熊に遭遇し、修行の難易度が跳ね上がった。
まぁ晩飯が増えたから結果オーライか。
「それにしても宗ちゃんは、反射神経以外は並だね~」
「うるせぇ。てか、今日の鬼ごっこ意味あるのか?」
「それに気づかないうちは、宗ちゃんが寺に帰るのは無理かにゃ~」
それは死活問題だな。早めに気づかないと、逆に熊のエサになってしまう。
風香が取ってくれた熊と魚を食べ終えて、夜空を見上げボケっとしていると
「じゃあそろそろ休憩終わり!修行再開するよ!」
風香の元気な声が聞こえてきた。
「えっ、今日は終わりじゃないのかよ!」
「当たり前じゃ~ん。宗ちゃんは素人なんだか、その分経験つまないと。
経験少ない男はモテないよ~」
大きなお世話だこの野郎!
風香は俺をからかうと、手ごろな木の棒を投げてきた。
「寺に帰るまで剣術は教えるなって言われてたけど、チャンバラ
ならセーフだよね」
なるほど。そういうことか。
「言っておくが俺はジジイに竹刀の握り方とすり足しか教えてもらってない!」
「いや、そんなに堂々と言われても・・・」
一応保険をかけつつ、棒を構える。
風香は肩をトントンと棒で叩いており、あくびをしていた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」
俺は、風香に向かって走りだし。
ぶん、と棒を横薙ぎに振るう。
しかし、そこには風香の姿はなかった。
「あれ?」
「相手に向かって真っすぐに突っ込んで大振りとか、馬鹿なのかにゃ?」
背後から声がしたかと思うと、頭頂部に強い衝撃が来た。
「いったっ!お前マジじゃ・・・」
「お腹、がら空きだよ!」
振り向きざまに、腹部に一撃くらう。
「うぐっ!こ、この!」
腹部の痛みにたえ、足に力を入れる。
風香は目の前に居る。さすがにこの距離なら!
そう思い左下から右上へ斬り上げる。が
「刀は腕で降ってちゃ、当たらないよ~」
風香は既に俺の懐へ入り込んでおり、上目遣いで俺を見上げている。
バキッ!
風香が放った突きは見事俺の顎に命中し、俺は宙を舞った。
ボチャン!
そして俺は、川へ落ちた。
「単調な攻撃、防御の意識の低さ。その前に、刀の振り方がなってない。
これは前途多難だにゃ~。ん?」
これは後から聞いた話だが、風香の目の前には白目で浮かんでる俺の姿があったそうだ。
「えっちょっと待って、宗ちゃん!起きて!ねぇ起きて!」
そして俺は、無反応のまま川下へ流れていく。
「ねぇ!ちょっと!私泳げないってばぁー!」
その後俺は100メートルほど流され奇跡的に浅瀬に打ち上げられたそうだ―
ちなみに僕も熊にあったことあります。怖かった。
閲覧、ブクマありがとうございます。面白くなるように努力します。