第11話 猫~ねこ~
誓願寺の朝は早い。朝日と共に起きるが、高い所にあるため朝日の光量が多い。
俺は、白目のグロッキー状態で昨日の戦友に引きづられ修行初日をむかえた。
「あんただらしないわね。自堕落した生活送ってるから、そういうことになるの・・・。
あんた昨日なにしてたの」
楓は異変に気付くと鼻をつまんだ。
「言っとくが俺のせいじゃねぇぞ・・・」
そう昨日風呂から上がると、俺の部屋には筋肉共が集まり酒盛りが始まった。
その後はご想像にお任せします・・・
「・・・呑んだの?」
「いっ一升ほど・・・」
「はぁ、ここに来た私がバカみたいじゃないのよ」
楓は深い溜息をついた。
朝飯を食べ、何とか回復した俺と楓は広間に呼ばれた。
「では、今日から修行を始めますね」
真綾さんは修行の説明を始める。
「まず、宗助さんと楓さんはこれから別々の修行をしてもらいます。
宗助さんは鬼の使い方を、そして楓さんには結界を使えるようになってもらいます。」
真綾さんが手を叩くと2人の人物が現れた。
「今日からこの2人があなた達の指南役です。こちらの男の方は、康太。主に結界を学ばせています。
わたくしが教えた中でしたら、三本の指に入る才の持ち主です。また、人に教えることにも
長けていますのでわからないことはどんどん聞いてください」
「よろしくお願いします。楓さん」
「こちらこそよろしくお願いします」
「そしてこちらが・・・」
「風香!ねぇねぇ!鬼使えるって本当?見せてよ!」
風香と名乗る人物は真綾さんの話を遮り身を乗り出してきた。
てか近い!顔近い!!
珍しく真綾さんが頭を抱えている。
「・・・そちらが風香です。宗助さん、頑張ってください・・・」
えっなんか不安になる言い方なんですけど。
「ねぇ~見せてよ~おに~。あっ私のことは呼び捨てでいいよ~!」
「こう見えても風香は器です。と言っても高天原へ属してるわけではないので、荒器ですが」
「は、はぁ・・・」
「それに風香は剣術の才はこの寺の中でも一番といっていいでしょう。少々特殊な子ですが、宿している者の使い方なども参考になるでしょう」
「ということは、真綾さんは修行の最終試験みたいな感じですか?」
俺はさておき、楓のことは真綾さんが教えるとばかり思っていた。
「ふふ。それも面白そうですが、わたくしは別の仕事があるので。宗助さん
こちらに来ていただけますか」
真綾さんは俺を呼ぶと広間の壁際にある、バカデカい像の隣にある空間へ連れて行った。
「そこを動かないでくださいね」
そういうと、俺を囲むようにお札を置いた。そして、真綾さんは一枚の
お札を出しそれに自身の血を付けた。
「わたくしの名の元に集れ。そして力を貸しなさい」
なにかセリフをいったかと思うと、自身の血の付いたお札を何もない空間へ貼った。
次の瞬間、何とも言えない感覚に襲われた。それと同時に、
お札で囲まれた外の空間がゆがんで見えた。
「うお!なんだこれ!」
「宗助さんこちらへ来て手を外に出してください」
言われた通りに札の外へ手を出すと、
「あれ普通に出せる」
なにか特殊なことが起こるのかと思ったが何も起こらない。
「なら良かったです。では、手を引いてそこから動かないでください」
なんかめんどくせぇ・・・。
そう思いつつ手を引くと
ガッ!
いきなり頭を鷲掴みにされた。
えっ!!何!!怖いんですけど!!
「宗助さん、あなたの中に居るのは何ですか?」
「えっ鬼。ですけど・・・」
「では、その鬼の名前は何ですか?」
「茨城童子・・・」
その名前を言った瞬間、自分の中で何かが軽くなった。
え?俺死んだ?
「宗助さん?大丈夫ですか?」
いや、生きてたわ
「特に何も起こってないですけど・・・」
「そうですかそれは良かったです。では、もう出てきても大丈夫ですよ」
そう言われお札の外に出ると真綾さん以外の全員が上を見上げ絶句していた。
不思議に思い、振り返り見上げてみると
「い、茨木、童子・・・?」
((あ?))
そこには、元の姿であろう茨木童子の姿があった。
「これが・・・茨木童子・・・」
楓がビックリすのも無理はない。何せ目の前の鬼は、ゆうに4mは超すであろう
巨体なのだから
((あーあ、せっかく気持ちよく寝てたのに、なんだいきなり・・・
うお!なんじゃこりゃ!))
茨木も自身に起きたことに驚いている。
「お前今まで話しかけてこなかったと思ってたら、寝てたのかよ!」
「申し訳ありません。実は修行は過酷なものになるので一時的に
精神力・体力が落ちてしまいます。そうなればあなた方が器本人の魂を喰らい、
体・力の主導権を握ることができます。それだけは避けさせていただきたいため、
わたくしの結界の中に一時的に閉じ込めさせていただきました」
((はぁーん。なるほどな。確かにそうなったら俺も宗助を喰うな。
まぁ、別に死ぬわけじゃねぇんだ気にしねぇよ。しかし、今の時代でも
こんな強力な結界張れる奴はいるとはな!はっはっはっ!))
意外にも茨木はすんなりと受け入れ、結界をバンバンと叩いている。
「ふふっ。ありがとうございます。わたくしはこれからあなたを見張らせて
いただきますので、もし飽きてきたら話し相手にはなりますので」
そういうと真綾さんは、俺たちの方を振り向いた。
「では、準備ができました。これから修行を始めましょう!」
真綾さんの修行開始の合図から1時間が経過しただろうか。
俺はまた山の中を歩かされていた。
「お、おいどこまで行くんだ?もうずいぶん歩いただろう?」
「にゃはは。何言ってんの!こんなの準備運動にもなっらないよ~」
風香は鼻歌を歌いながら、軽い足取りで進んでいく。
俺の周りに居る女はみんな化け物なのか?
「そういえば、真綾の結界すごかったねー!まさか実際の鬼を見れるなんて、
思ってもみなかったよ!」
「あれってそんなにすごいのか?」
そっち関係の知識は全くない俺は、あれがすごいことなのかどうかすらわからなかった。
「当たり前だよ!鬼なんて妖怪の中でも、上位の怪物だよ~?
その鬼を何食わぬ顔で閉じ込めてるなんてありえないよ~。普通、10人結界を
張れる人がいても抑えられるかわからないのに」
10人・・・。その言葉だけで真綾さんのすごさが分かった。
「鬼といえば、風香は何の器なんだ?」
そういえば風香も器だと言っていった。しかし、あの場では何を宿しているのかは
聞けなかった。
「ん~?気になる~?そうか、そうか!では見せてあげよう!」
「え?」
そういうと、風香の雰囲気が変わった。力を使うつもりだ
「ちょっと待て!勝手に妖気を使ったら、高天原から虚って思われるぞ!!」
「も~いい所なのに邪魔しないでよ~。大丈夫ここは特殊な結界が張ってあるから。
多少力を使ってもこの結界の中なら、容認されるの。まぁあまりにも強すぎる妖気は
感知されちゃうけどね」
結界ってそんなこともできるのか・・・。
「だから!続きするよ!」
そういうと、風香の容姿が変化した。
頭からは2つの耳が生え、爪は鋭く伸びていく。そして、二股に分かれた尻尾があった。
狒々と違う点は四つん這いになっている事だ。俺はその生物と似たものを見たことがある。
「もしかして、お前の宿してるのって・・・」
「そう、私の宿しているのは『猫又』。かわいいでしょ!」
風香は顔の横で招き猫のポーズをする。
くっ不覚にも一瞬可愛いと思っちまった!
でもよく見たら爪がむき出しである。
(おい風香。このようなことで我を呼ぶのではない。我は見せ物ではないのだぞ)
「も~頭が固いな、ニャンタは~」
(ニャンタではない!我は・・・)
「はいはーい。わかりましたよ~」
風香は何事もなかったように、猫又を引っ込めた。
確かに言動はちょっと、あれだが器としての力はかなり高いのかもしれない。
少し進むと滝が見えてきた。
その滝の下へ降りると
「よーし!じゃあ修行を始めますか!」
とうとう本格的な修行が始まる。
「よろしくお願いします!」
自然と気合が入る。が
「よし、じゃあ2分待つからその間にこの山に隠れて!」
・・・は?
「いやどういうこと?」
「え?やったことない?かくれんぼ?」
「いやそれはあるけど、それが修行?」
「そう!これが私流の修行だから、付いてこれないやつは置いてくよ!」
なんか拍子抜けだ。しょうがない。付き合ってやるか・・・。
そう思い、山へ入ろうとすると、
「あっそうそう!1つ言い忘れた!」
風香が何かを思い出したように声を上げる。
「普通のかくれんぼだと思って手抜いたら、殺しちゃうからにゃ」
にゃっ。にゃ~・・・
家の猫の名前は「ごま」です。