第1話 鬼~おに~
黒板の叩く音が響く。外ではセミが鳴きまくって暑さを倍増させる。
今年は異常気象で例年よりもまして暑いらしい。
異常気象というが、毎年異常気象と言っているのだからもう異常じゃないんではないか。
「あっつ~なんで夏休みだっつうのに毎日暑い中、学校に来なきゃないんだよ~」
「まあ一応俺ら今年受験だからな。形だけでも勉強させないとまずいでしょ」
「そうだけどよ・・・高校生活最後の夏休みなのにしょっぱなから灰色スタートだわ~」
高校最後の夏。自称進学校の東和高校では3年生になると夏休みにも関わらず、
半強制的に午前中は補習に参加させられる。3年間で唯一部活も何もない年なのにあまりにも酷いと思う。チャイムが鳴り、本日最後の補修が終わった。
「宗助希望校の判定どうだった?」
「んー今回はB判定だったから、このままの希望で進めるかな。龍也は?」
「俺、明日、三者面談・・・」
「・・・ご愁傷様」
察してと言わんばかりの龍也の顔はどこか、覚悟を決めた漢の顔をしていた。
「そういえば、宗助お前家は継がんの?」
「継がなねぇよ、俺が言うのもなんだけど胡散臭いだろ」
「寺の住職の孫がそんなこと言ってていいのかよ」
笑いながら龍也は俺の肩を叩く。
「いいよもう、コンビニ寄って帰ろうぜ」
茶化してくる龍也の手を払い。そそくさと廊下に出た。
他のクラスも補習が終わり、廊下は人であふれていた。
「コンビニよりもスタバ行こうぜ、涼しいし」
「遠いわ。コンビニの方近いだろ。安いし」
そんなくだらない会話をしながら、生徒玄関に向かっていると
ふわっ
「?」
廊下に甘い香りが広がった。
「なんか匂わない?」
「ん?そうか?俺は気にならないけどな。おっ、もしかしてあの子の匂いじゃね?」
龍也はまた茶化しぎみに答えた。そして、龍也があの子といった人に目をやる。
その子の周りは軽いお祭り騒ぎになっていたが、誰もその子の進路を塞ぐ人はいなかった。
「きゃー!三鏡様―!!」
「なんで三鏡様がこんなところに!」
それはさながら町で芸能人にあったような反応であった。まぁそう思われるのも無理はないが。
三鏡楓。この町で一番デカい神社、三神神社の跡取り。その名に恥じぬ振る舞いと、黒いロングの髪。
そして、芸能人にも負けず劣らずの顔立ちで学園内では三鏡様と神格化されている。
「いやー相変わらず、凄い人気だな三鏡」
「あぁホントにな。あれで性格が良かったら最高だったんだけどな」
「あぁお前にとってはそうだよな・・・」
三鏡は廊下の奥から真っすぐに俺の前に来て立ち止まった
「あらら、ご機嫌麗しゅう。三鏡様」
俺は少し嫌味を含んだ言い方であいさつをした。
「あなたはホントに昔から、自分の家の格式を下げるような言動しかしない男ね」
「俺はアンタと違って、ジジイの英才教育をまんまと躱してきた男なんでね。
家の格式とかには興味ないんだわ。で、何の用?」
周りからコソコソと声が聞こえる。
「何あいつ」
「馴れ馴れしく三鏡様と会話しやがって」
「てか誰あいつ?」
「なんで俺だけ三者面談なんだ。帰り肉まんおごれー」
「龍也あとで覚えとけ」
周りの声が鬱陶しいのか三鏡は眉をひそめながら、俺に要件を伝えた
。
「おばあ様からよ。「明日の18時に来られたし」
あなたのおじいさまに伝えておいてくれるかしら」
「なんだまた喧嘩でも始める気か?元気だなお前のばあさんも」
「確かに伝えたわよ。それじゃ」
そういうと三鏡は俺をガン無視して立ち去って行った。
「おーい、じじいいるかー?」
夕方龍也に肉まんをおごらせられた俺は、三鏡に言われたことを伝えに
爺さんのところに来た。
俺の家「神来社家」と椿の家「三鏡家」は古くからこの地域に住んでおり、
ここら辺の地域を守る「神」を守る寺・神社を任されてる神職の一家だ。
でも俺のところは初代が色々やらかしてくれたおかげで、
どちらかというと三鏡家の助けをするといったポディションになっている。
境内を探しても見当たらなかったため、本堂に向かった。本堂の扉を開けると、
じじいは仏像の前に静かに座っていた。
(あんまり関わってこなかったけど、さすがにここに来ると背筋がのびるな)
じじいと俺しかいないからか、外とはまた別の空気感が漂っている。
(あのジジイですら、集中してんだもんな)
俺は静かに、参拝者が来た時用の座布団に座り瞑想した。
何も考えずただ目を閉じているだけなのに、なぜか体が軽くなった気がする。
余計なことを考えずに頭が空になるからだろうか
「すー・・・」
ん?
「すー・・・」
どこかから何か聞こえてくる
「すー・・・」
これは・・・寝息?
「すー・・・」
まさか。
俺は閉じていた目を開けて、静かに座っていたじじいに近づいてみた。
「すー・・・んご」
「んごじゃねぇよ!ハゲ!」
俺はきれいに光を放っている頭を思いっきり叩いた
「いった!誰じゃ!住職の頭を叩く不届き物は!」
「不届き物はお前だ!なに仏像の前で爆睡かましてんだ!」
少しだけ褒めたあの気持ちを返せ
「ん?なんじゃ宗助か。どうしたいきなり来おって」
「ったくよ・・・。これだから三鏡家の補助的なお役目なんだよ家は。
三鏡のばあさんから伝言だとよ。明日の18時に神社に来いだとさ」
「まーた奴か。またどうせ面倒ごとを押し付ける気じゃろあのばばぁ」
「そういう関係なんだから、しょうがないだろ。んじゃ伝えたからな、頑張れよ」
そう言って帰ろうとした時
「うっ。おい、じじぃ。どんなお香焚いてんだ。甘ったる過ぎるだろこれ」
これは学校で嗅いだのと同じ匂いだ。
すると、さっきまでふざけていたじじいの声が変わった
「宗助、お主、なぜ匂いが・・・ちょっとそこに座れぃ!」
そういうとじじいは俺に飛びついてきた。
「うわ!なんだいきなり!放せ!」
「いいから座れぃ!ジジイからの一生のお願い!」
結局根負けして、帰るのをあきらめて座ることにした。俺との取っ組み合いで
本当に一生のお願いになるところだったジジイは息を整えて言った。
「宗助よ。我々神来社家はこの地域を守ってくださっている仏様を祭っていることは
馬鹿息子からきいておろう」
「まぁその辺はな」
ジジイの息子つまり俺の父は本来、この寺で住職を引き継ぐはずだった。
しかし、俺の家の血筋はなぜか代々見える。
俺も例に漏れず見えたりするが、問題は父が心霊系が大の苦手ということだ。
小さい頃から見えていた父は、この家を嫌いじじいの反対を押し切って
家を出て普通の会社に就職した。といっても近くに家を建てて住んでるんだけどね。
「あの馬鹿息子も見えては居たが、匂いまでは高校生になっても感じることはできんかった。
じゃが宗助お前いつから匂いが気になり始めた?」
「いつからッて、今日かな」
「そうか、これも何かの運命かの・・・」
じじいは意味深にそう呟くと仏像の方を見つめていた。
「宗助。ワシ等は仏様を祭る以外にももう一つ、初代様の代から受け継がれてきた大事な役目がある」
「役目?」
「うむ。その役目とは・・・」
神妙な空気が漂い始める
「鬼じゃ」
・・・は?
「鬼といっても鬼を祭るわけではない。初代様はその昔、死にかけの鬼と取引をしたそうじゃ。
自分の体を器とし、その器に鬼の魂を入れる。
そうして、鬼の力を借りる代わりに鬼は生きながらえるといった取引じゃ」
何言ってんだこのじじい?さてはボケたか?
「鬼はその取引に応じ、初代様はその身に鬼を入れ込み、
人外なる力で全国の力の弱い農民を守って回ったそうじゃ」
「まてまて!いきなりそんなこと言われてもわけわかんねぇよ!
てか、そもそも初代は役目を放棄して酒飲みながら全国を放浪してたって俺に教えたのジジイだろ!」
「それは、そうやって伝承していくと三鏡が決めたんじゃ。それが三鏡の仕事だしな」
無茶苦茶すぎる鬼ってそんなの、昔話の架空の生物だろ。
「じじい。悪かった。普段話す相手いなかったもんな。ここまで進んでるとは思わなかったんだ。許せ」
「ボケてないわい!まあそんなことはどうでもいい。宗助、手を出せ」
そういうと、じじいは俺の腕を引っ張った。
「うわ!何すんだ!」
「鬼の証拠を見せてやる」
じじいは、どこからか出した筆で何やら奇妙なものを俺の手に書いた。
「ほんとに何してんだ?くすぐたいんだけど?」
しかし、その手は止まることはなかった。
「宗助。目を閉じろ。そして、頭を空っぽにしろ。昔教えたように」
しょうがない。今だけは爺孝行してやるか。俺は言われたと通りに目を閉じる。
そして、何も考えなくても良い深い闇に沈んでいく。
初投稿です。よろしくお願いします。
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