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幕間~少女たちの会話~

この春から高校生になった私たちを取り巻く環境が大きく変わった。義務教育だったころとは違って同レベルの学力を持った生徒たちが集まっているから必然的に授業も難しくなったし、学区があったことで小学校の頃の友達が大勢いた中学とは違ってほとんどの人が初めて会う人ばかり。思い返せばこの一カ月はそんな変化になれるのに必死だった。幸い新しい友達もできたしクラスはもちろん部活動の方でもーーー私は吹奏楽部でかなちゃんは女子空手部ーーーうまくなじめていると思う。

 そんなこんなで慌ただしく過ごしている間にあっという間に一カ月が過ぎ、今日はGWの最終日。私はかなちゃんの家に遊びに来ていた。


「そういえば美羽ってさ」

「ん~?」


 かなちゃんはベッドで横になりながらクッキーを片手に漫画雑誌を読んでいる。決してお行儀は良いとは言えないけど、もう5年近い付き合いになる私たちの間にはいい意味で遠慮が無くなっていた。実際私もテーブルに突っ伏すようにしながらスマホをいじっていた。


「あの先輩たち……っていうよりも成瀬先輩だっけ?と妙に仲いいよね。なんで?」

「なんでって、そりゃあ助けてもらったし。先輩たちのことは嫌いじゃないよ?私は別に男の子が苦手ってわけでもないし…」

「それはそうだけどさ、なんて言うか妙に距離が近いっていうか。今までも男子の知り合いとかできても、廊下で見かけたからってわざわざ自分から相手に近づいて行って声を掛けることなんてなかったじゃん」

「ああ……」


 言われて思い返せば心当たりはいくつもあった。今までに仲良くなった男の子は何人かいたけど、その中でも成瀬先輩とは特に親しいかもしれない。時々昼食を一緒することがあるけど、普段なら誘われたら行くだけだったのに先輩相手では自分から声を掛けることが何度かあった。

 でもそれは恋とかそういうんじゃなくて……


「なんか、懐かしいんだよね…」

「懐かしい?」


 かなちゃんが身を起こして不思議そうな顔で私の方を見る。私もテーブルから顔を話して「うん、懐かしいの」と反復した。


「初めて会ったんでしょ?」

「うん、あの日が初対面のはず。はずなんだけど不思議とそんな気持ちになるの。私にもよくわからないんだけどね…」


 思い出せそうで思い出せない。言うなれば、小説のワンシーンを思い出すことはできてもタイトルやあらすじを思い出すことができない。そんなもどかしさ。


 とはいえ、先輩の方は私の知り合いであるような反応はしてないし、たぶんこれがデジャビュってやつなのかもしれない。


「ふ~ん。変なの」


 かなちゃんは興味が失せたのか再びベッドに身を沈めて再び漫画雑誌を読み始めた。


「そういうかなちゃんは逆に苦手そうだよね。まあ、かなちゃんの場合は先輩だからってより男だからって理由だろうけど」


 かなちゃんのお父さんは彼女が中学生の頃に不倫相手と一緒になって失踪している。幸い彼女のお母さんは十分な収入があったから生活に困窮するような事態にはならなかったみたいだけど、夫に裏切られたお母さんはかなりショックを受けたらしく、それを見たかなちゃんは家族以外の異性に対して強い嫌悪感を見せるようになった。


 かなちゃんが空手を習っているのも、そんな男に負けたくないという意思が強いんだろうな…。


「少なくとも先輩たちは悪い人じゃないと思うんだけどね」

「甘い!甘いよ美羽!このクッキーよりも甘い!」


 そう言って彼女は私の方に個包装されたクッキーを私の方に投げつけてきた。危ないなぁ…。


「早乙女先輩はもうあの見た目からしていかにもな感じだし、成瀬先輩だって真面目そうな振りして心の中じゃ何考えてることやら。美羽も気を付けてないと何されるかわかったもんじゃないよ」

「あはは……こりゃ重傷だ」


 男の人にだって悪い人ばかりではない。そのことを知ってほしくて今まで色々やってきたし、先輩たちに彼女のことを紹介したのもそういう下心があったから。まあ、結果は芳しくなかったみたいだけどね…。


 まあ、今に始まったことじゃないし。のんびり改善していけばいいかな。


「それにあなた、好きな人がいるんでしょう?」

「あぁ、それはね、大丈夫なの……」

「大丈夫?」

「うん、大丈夫」


 だってその人はもう……この世にいないから。


 幼い頃、突然私の前に現れたあの日と同じように何の前触れもなく私の前から姿を消してしまった。

 

 結果、私は今でも自分の恋心に踏ん切りをつけられずにいる。相手に恋人ができたり、あるいは私が告白したりするなりして、どんな形であれこの恋に決着を付けられていれば私もきっと新しい(それ)に踏み出すことができたはずだ。

 だけど、それができないまま急にいなくなってしまったことで私のこの恋心は宙ぶらりんのまま持て余している。


 私も人のことは言えないね。かなちゃんがお父さんのことを引きずり続けているように、私もまた過去の出来事を引きずり続けている。


「私たちって、似た者同士かもしれないね……」


『二人って全然性格違うよね』


 今までに何度もそう言われてきた私たちだけど、過去を引きずっているもの同士って意味ではよく似通っている。


「え…急に何?」

「なんでもなーい」


 そう言って、私はクッキーの包装を破った。

どうでもいいですけど、『幕間』って『まくあい』って読むんですね。ずっと『ばくま』って読んでました。サブタイ打つとき漢字が出ないので調べて初めて知りました。

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