99.ダークネス ストリーム③
浅海が言っていた俺の部屋の真隣部屋については、今さら感があるが試しに親に聞いてみることにした。それを聞かないとぐっすりと気持ちよく寝られない気がしたからだ。
「あのさ、聞きたいことあんだけど」
「珍しいのね。湊が質問とか、あ、もしかしてさよりさんとの関係についてとか?」
「いや、それは後で聞くとして……鮫浜さんのことなんだけど」
「鮫浜さん? あぁ、この前遊びに来ていた上品な女の子よね? その子がどうかしたの?」
「や、じゃなくて、隣の家の鮫浜さんの家のことを聞きたい」
「湊、あなたとうとう……」
「俺は正常だからね? で、何か知ってるなら教えて」
この反応は十中八九間違いないな。俺の親が知らないやつだ。隣の家というとさよりの家のことしか知らないと見た。ってことは、鮫浜の家では無くて浅海の家か?
「ウチの隣はさよりさんの家でしょ? 建売の……で、奥の家のことなら空き家のはずだけど……誰か住んでいるなんて聞いていないし見てもいないけれど、本当に大丈夫? 湊の頭……」
「だー! やっぱりそのことかよ。空き家? 鮫浜じゃなくて? もしくは八十島でもなくて空き家なの? い、いつから?」
「湊が高校に上がる前くらいかしらね。確かどなたかが越してくる話だったみたいだけれど、先延ばしになったらしいわ。まあ、ウチ以外はみなさん転勤族でしょ? 挨拶にでも来ない限りは分からないのよね」
いや、確か挨拶にはさよりと鮫浜が来ていたはず。あれは鮫浜のフェイクか? 親も見たことないし、そもそも目隠しプレイをされながら鮫浜の部屋に入れてもらったんだよな。マジですか? 真面目に不法侵入じゃないか。
でも料理は作っていた気がするし、全くもって分からん。鮫浜の正体を突き詰めて行ったら、それこそ闇に葬られそうで怖いぞ。それに浅海とさよりの因縁というのも気にはなるが、さよりが自分で言ってくれない限りは、俺から聞くわけにもいかないだろう。
「あーうん、分かった。ありがと。オヤスミー」
「きちんと戸締りして寝るのよ?」
「そうする。マジで怖いし」
なるほど。怖いぞ。マジで怖い。あんなに至近距離な隣の家とか、普通はあり得ないからな。もちろん、幼馴染とかだったら近い家も世の中には存在するけど、足を上げてすぐに入って来るとかそれはさすがにな。
そう考えながら、自分の部屋に戻って来たはいいが、途端に寒気がするじゃないか。普段はそこに寝泊まりしているかは不明で、もしかしたら誰もいないかもしれないなんて想像したくない。
「ピリリリリ……!」
「ひっ! 何だ、携帯か?」
何てタイミングだよ。ちなみに着信音ではなく、メールの方である。メールは面倒だが、そっちを希望された以上は、使うしかない。その相手はもちろん、鮫浜のいとこでもある、磯貝しずである。
「湊、起きてるか?」
「起きてるけど、何だ?」
「バイト来なかったけどサボリ? 大人しいあゆが黙々と客さばいてたけど……何かあったか?」
「まぁ、色々な」
いとこというのは嘘じゃなさそうだが、詳しく教えてくれない奴だ。一度はさよりとやり合って、俺にちょっかいを出してきた姉御肌の女子なわけだが、メールだけなら意外と話しやすい女子だ。
「明日はあんただけだし、話でもする?」
「聞きたいことは山ほどあるけど、教えてくれるつもりはあるか?」
「……答えられる範囲なら話すよ。あたしはあんたを気に入ってるし、好きってのは嘘じゃねえからな」
「おお、サンクス! そういうところ、好きだぜ! しず」
「嘘でも嬉しい。バイト来いよ。じゃあな」
鮫浜のことを教えてくれるのか。それは一歩前進出来そうだ。浅海と一緒にプールにもいたし、浅海のことを聞けるかもしれないな。しずとのメールで何となく不安が消えたこともあり、素直に寝ることが出来た。
「……今はまだ、何もしないよ? 私の湊くん……」
「うおっ? 鮫浜?」
夢か? むむむ? 鮫浜の声が聞こえた気がするが、誰もいないし窓も鍵を閉めている。どれだけ恐れてるんだろうな。
朝になって、何事もなく外に出ると迎えを待っていると言っていた、さよりがすでに俺を待っていた。コイツ、もう俺とそういう関係で確定したつもりなのか?
「あら、湊。遅かったわね。あなた、朝は弱いのかしら?」
「普通だ」
「も、もし弱いのなら、毎朝迎えに行ってあげなくもないけれど、どうかしら?」
「それは勘弁して。朝からそういう縛りは体に悪そうだしな。さよりは何でそんなに厳しいんだよ」
「愚問ね。さすがぐみ……んんっ、何でもないわ。そ、それより早く行きましょ? 遅刻は先生の評価を落とすのよ? あの担任の目に目を付けられるのは嫌だわ」
愚問の愚民を言わなかったのか。コイツ、何か隠してるな。もしくは自分も実は俺と同じ愚民だとか? まぁ、さよりを疑っても仕方ないことだしな。それこそ俺自身も心に闇を抱えそうで怖い。
「目先生の下の名前をさよりは知っているか? 目を付けられても、あの人は黒じゃないからそんなに厳しくはないぞ?」
「は? なんて名前?」
「白だ」
「目白?」
「いや、目白だ。略して目白だ。あの先生は優しいぞ。敵にしては駄目だ」
「下らないわね。ちっとも略されていないじゃない。湊って、下らない冗談が好きな男の子だったのね」
「真面目だ。俺のことが嫌いになったか?」
「好き」
「お、おぅ」
これが世にいうバカップルですね、分かり……たくないぞ。こうして迎えに来たさよりと二人で歩いていても、当然だが隣の家から鮫浜が出てくることは無かった。昨日のあの窓から見られていた時は、身の毛がよだつ思いだった。浅海が横に立っていたからこそ、そんなに恐怖に陥ることは無かったが、鮫浜だけだったら怖すぎた。
「うふふっ、ずっとあなたと一緒に登校で来たらこんなに幸せなことってないわ」
「それは良かった。一時的なことかもしれないけど、俺もさよりと一緒にいるのは楽しいよ」
「うんっ! 大好き」
こんな平和な朝とか、ずっと続けば幸せなまま終われそうなんだが……そうじゃないんだろうな。まずは、さよりと一緒に教室に入るところから様子を見るしかなさそうだ。頼む、静かに過ごせますように。




