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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第四章:彼女、カノジョ、そろい踏み

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65.期末対策は池谷家で。


 鮫浜に軽めのキスをされた後、店内へ戻るとさよりが入り口で仁王立ちをして俺を睨んでいた。あれ? 浮間は?


「湊!」

「はいはい?」

「はい、は一度だけでいいの!」

「で、何だ? 浮間はどうした?」

「知らない。あなたと同じ店員なのでしょう? 偉そうな人が連れて行ったキリ、戻って来ていないわ。湊もどこかにいなくなっているし、わたしを一人にしないでよ」

「お前、寂しがり屋なのか?」

「湊がいないとダメなの。だから、お店の中に戻って声を聞かせて欲しいの」

「あーはいはい」

 デレモードですね、分かります。さっきの鮫浜といい、さよりも甘えたいお年頃ですか? それともイケメンは彼女たちから狂暴性を吸い取ってくれたとでも? それはすごいことですよ。


 店内へ戻ると、平穏無事。かなり静かな空間に戻っていた。他の女子たちはいつの間にかいなくなっているし、いたのはさよりだけ。確かにぼっちは寂しい。その気持ちは分かってあげないとダメだろう。


「ねえ、隣に座って」

「俺、店員よ? 何のサービスだよ」

「裏メニューにそう書いてるもん」

「ハ? メニューに書いている? それって、浮間じゃなくて俺?」

「希望されるならイケボの彼がお客様の耳元で囁きます。って書いてるもん……」

「ホワット? ホワイ? なんつうサービスなの、それ。いかがわしすぎるだろ! 聞いてねえぞ。いや、でもだから俺のだけお高いのか?」

「何をごちゃごちゃ言っているの? 早く隣に座る。座って!」

「分かったよ。だ、誰も見てないよな? いや、見てても許可されてるから怒られないよな?」

 実は大げさすぎるドッキリだったら怖いし、嫌だぞ。それにしても、さよりの奴……少しだけ震えているように見えるが、寒いのか? 真夏とはいえ、店内は快適だけどな。


「おま……さより、寒いのか?」

「ち、違う。さっきの男が怖かったから、だから……」

 浮間が怖い、だと? 確かにあの爽やかすぎるイケメンに比べると、ワイルド系だし強引系ではあるが、怖がるようなことでもしたのか? あれだけ俺に暴力性のある言葉と舌打ちをしていたさよりを身震いさせるとか、何をしたのかな?


「と、隣に座って」

「いいよ」

「えへへ……湊!」

「なぁに?」

「は? きもいんだけど?」

「すまん」

 線引きが分からんじゃないか。調子に乗るな? それはさすがに分からんぞ。


「さっきのセリフを囁いて?」

 さっきのセリフ? 何だろうな。これか?

「なぁに?」

「消されたいの?」

「あ、いや、セリフの主語を言え」

「メニューのセリフのことに決まっているわ! それ以外に求めていないのだけれど? 湊、あなたってやっぱり足りないのね。あなたの成績を見たことは無いのだけれど、わたくしにお教えなさい」

 デフォルトに戻ってしまったぞ、ちくしょう。足りないってのはもしや、オツムのことですかそうですか。成績は確かに中の下? いや、はっきり見たことは無いが、赤点だけはさすがに逃れているはず。


「赤点は取ってない!」

「はぁ……呆れたわ。あなた、わたくしのごにょごにょ……になる人なのに、そんなことではとてもじゃないけれど認められないわね。分かったわ! 期末対策はわたくしの家で実施よ! あなたに拒否権は無いわ」

「それって、勉強をさよりの家でやるってことか?」

「今の言い方で理解出来ていないのだとしたら、あなた相当バ……」

「この野郎……とは言いませんよ? 野郎じゃないですもんね」

「と、とにかく、わたしの家で一緒に勉強をやるったら、やるの! 返事はハイだけ!」

「ハイ」

「うんうん、いい子」

「僕はいい子だよ」

「あ? ここにクソガキがいるわね。礼儀もしつけないとダメなのかしら?」

「ごめんなさい」

 さよりの奴も鮫浜タイプなのか? しつけるとか俺はガキじゃねえぞ。だが、逆らうのも面倒だしまた暴力女に戻すのも勘弁だ。デレモードに戻してあげないと俺の心は常に泣き止まない。


 何だかWなイケメン騒動があったのと、鮫浜のいとこであるしずのせいで、疲れてしまったがしずは大人しく仕事をしていたようで、その後は俺に絡んでこなかった。空気は読める女らしい。それもあって、さよりのわがままに付き合ってあげた。どんなセリフを耳元で囁いたかは秘密だ。


「じゃ、じゃあ、湊。また明日ね」

「おう、またな」

「……」

「ん?」

「キスは?」

「しないぞ?」

「あゆにはしたのに?」

 コイツ、見てたのかよ。鮫浜もそうだが、さよりも彼女じゃないんだぞ? キスはいつから日常の中に組み込まれたの? こう見えて俺は常識人。鮫浜の場合はキスをしなければひどい目に遭いそうだからこそ、してしまったわけであって、普段から好き勝手に外でキスを出来るほどのパリピでもない。


「そういうのはさよりがもっとも嫌うことじゃないのか?」

「どういうことかしら?」

「人前だぞ? 非常識なことは嫌いだろ?」

「そ、そうね……その、私の家でなら、してくれる?」

「検討する」

「うんっ! そ、それじゃあわたしも帰るね。湊、またね」

 なんて良い笑顔。教室でもその笑顔を見せれば、間違いなく本物のモテモテな美少女になれるというのに。何でイケメンでもない俺だけに笑顔を見せるのか。変わった女だな。しかしまぁ、バイト初日もようやく終えることが出来た。裏メニューも週一になったし、浮間の奴も何だか大人しくなってたし平和が戻ったかもしれない。明日からまた学校でお勉強でも頑張るとしますかね。

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