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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第1部第一章:天使と悪魔と美少女
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6.通行手形は背中とイケボらしい。


 俺が通っている東上学園は、フリーダム……いや、自由すぎる校風であり、いずれ苦しみと悩みを味わうであろう人生の前に、せめて高校生活は楽しくおかしく過ごしてもらおうというのを掲げているというおかげで、ワケありな美少女だらけの学校である。


 そのほとんどは自称であり、見た目こそ本物なのだが中身が伴っていないのがとても恐ろしい。何故か男連中だけはノーマルクラスで、極端におかしな奴は存在していない。もちろん俺も自称ノーマルな男だ。


 だが俺にも特別な扱いを受けられる特典……ではなく、プライドなどをどこかに捨て去り手に入れた、女子エリアへの通行手形がある。女子エリアという大げさな呼称だが、要は同じ教室内にはBT(美少女タクティカル)フィールドがあり、外の景色が見える窓席の一角を占領し、男は自動的に廊下側の壁に追いやられているわけだ。


 男はあらゆる戦術を駆使しなければ近付けもしない。もちろん、こんな言葉は俺が作りましたよ、ええ。辞書には載ってません。


「とりあえずそのまま廊下で待機しててくれ。浅海を呼んでくるから」


「え? もうすぐ最初の授業が始まるのではなくて? それに誰もいない廊下に、わたくしを放置するだなんて、あなた鬼畜なの?」


「そんな程度で鬼畜呼ばわりされたら世の中の先生は、出演し放題じゃないか。心配しなくてもこの学園は朝の休み時間がたっぷりと設定してあるんだよ。そのせいで午後は過密だけど……さよりんの中学時代は規則正しき庶民的なお時間だったのか? それは何というか残ね――」


「誰が庶民だこの野郎! んんんっ、それが普通なのではなくて? ともかく早くお行きなさい。わたくしはここで待つわ」


 おお、危ない。残念という二文字は、俺自身の口癖にロックをかけておかないと大惨事が起きそうだ。しかしやはり幼馴染風で、少しだけときめいてしまいそうな話し方はしてくれないようだ。これはもっと心の壁を破壊し尽くしていかないとダメなレベル。


 池谷の素はお嬢様なお言葉ということに決めてしまっているようだし、期待しても無駄だろう。さて、ここからが問題である。


 廊下に放置した池谷はそれほど問題ではないが、何せいきなり美少女過ぎる転校生に名指しされて廊下に出た俺だ。教室の中に入った途端に野郎限定で洗礼を受けてしまうだろう。前時代的なことを自分の席にたどり着くまでに仕掛けてくる。


 さながらそれは、障害物競走のような光景が待ち受けているのだ。それら全てを解消し、野郎どもと女子たちからバリアを張ってくれるのが、自称でも他称でもない唯一の友達、八十島浅海やそじまあさみというわけだ。


「戻りやがったな、高洲。のこのこと一人だけ先に教室に入って来やがって、サヨリ様はどこへ隠した?」


「隠してねえよ。今は頭にお花畑が……いや、お花を摘みにでも行ったんじゃないのか」


「何でいつもお前ばかり」


 この言葉には語弊がある。正確には俺ではなく、これからBTフィールドで使用する手形が関係しているのであって、そこには高洲湊という一人のナイスな男子学生という人格は関係すらしていない。だから頼むからそのエリアに行くためにも、長すぎる足を俺の前に出してハードル走みたいに難易度を上げないでくれと言いたい。


「くそっ、俊敏な動きを身に付けやがって! 高洲、次の休み時間になったら全ての男子に拡散されていることを忘れるなよ?」


「断る! それにそのセリフはすぐに消滅することになる」


「ま、まさか……? そのエリアをこじ開けるのか?」


「ああ」


 などと毎回のように、転校生が来るたびに茶番劇が繰り広げられている。まだ一年目の夏なのにどれだけですか? 悲しいが俺の武器と俺の友達は、野郎どもと女子たちには有効すぎる。


「高洲だよね。その背中はそうでしょ? なに? 浅海ちゃんに用があるの?」


「あぁ、頼む。そこを通して、浅海の元へ行かせてくれ」


「はうぅぅ~は、反則すぎるイケボ。その背中とイケボは最強すぎて抵抗も出来ないわ。いいわ、通って窓席に進んで。私たちは見なかったことにするから」


「悪いな」


「はわわわわ! その声はやばすぎるよぉ……」


 ふっ、毎度のことだがかなり悲しい。俺が使える武器それは、背中。そしてやたらと女子たちが騒ぎ立てるイケボだ。どうやら俺の背中と声は、想像上のイケメンとして感じるらしく、その二つが組み合わさっただけで失神してしまう女子もいるとかいないとか。


 つまり俺は背中が最強の盾であり、声が究極の武器という何とも切ない現実を受け入れるしか生きていけないのである。そうでもしないと、唯一の友達にすら会えないというおかしな世界に俺は生きている。


「湊だー! どうしたの? 俺に会いに来てくれたんだね。俺にキミの顔を良く見せてよ」


「お、おぅ」


 コイツだけは俺をきちんと見てくれる奴だ。浅海の姿は完璧な美少女である。だが男だ。声こそ他の女子よりも高音で癒されてしまいそうだが、言葉遣いは俺よりもワイルド系であり、惚れてしまいそうになるがそこは自主規制。何故お友達になれたかは、後々に語るとして今は救ってもらいたい。それが最優先だ。


「そっかぁ、転校生の池谷さんだね。うん、俺でよければ力になるよ。それと、もう一人の女子も加えてあげようよ? やっぱり友達が増えるのは嬉しいし。俺は湊だけでも嬉しいけど、湊は女子の友達も欲しいよね?」


「いや、まぁ……なんつうか」


「俺、湊が好きだから力になりたいんだ。だから、廊下に出て彼女を早く教室に戻してあげようよ!」

「だな。よろしく頼む」


「おう! 任せろ!」


 ああああ……! その高音ボイスでワイルドで、見た目が完璧美少女なのにどうしてキミは男の子なの? それに「好き」なんて言われた俺の気持ちを、浅海は考えたことがあるのかね? 考えられても困るが。


 そんなわけで、男の子にして最強すぎる浅海は俺の正式で正当なお友達である。名前のごとく、多くの島を……いや、多くの女子と俺の心を掌握し続けているというわけだ。


「あら? 初めまして、かしら。わたくしは池谷さよりですわ。あなたは、浅海さん?」


「そう、俺は八十島浅海だ。あんたが名家のお嬢様だね? うん、いいよ。俺のグループに招いて――」


「いえ、お待ちになってくださる? 湊さん、こちらへ……」


「わ、分かった。浅海、少しだけそこで待っててくれ」


「うん!」


 人見知りなお嬢様は見た目が完璧な美少女にも目を丸くしていたが、思いきり俺言葉な浅海に相当面食らったようだ。


「あなた、アレは男の方? それとも悔しいけれど、わたくしよりも美しすぎる女子なのかしら?」


「男だ。何ならあそこを――」


「蹴られたいのか?」


「何でもないよー。で? それがどうした?」


「グループに招くとはどういう意味かしら? わたくし、集団行動が苦手なのだけれど。出来れば日常を平和かつ、静かに過ごしたいわ。そして出来るなら、他の男には近寄って欲しくないだけなのだけれど」


「贅沢な奴め。でも浅海は近寄っていいんだろ? というか、浅海が味方なら今後は平和が訪れるぞ。俺もお前もな。そういうことなら説明をしとけ。池谷には女子グループには入れない理由が明確にあるとな。それを説明出来るなら浅海も納得出来るはずだ。出来るよな?」


 いつになく俺の方が立場が上であることに気づき、最高に気分がいい。さすが俺の唯一の友達である。そしてその度に、俺の心はボキボキと折れまくって中で悲鳴を上げてますよ? さぁ、さよりんはどうする?

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