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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第三章:彼女たちの変化

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43.鮫浜あゆは揺らがない ③


 何て究極の選択肢なんだ。暗闇だけど触れる。目隠しを外したらきっと触れない。だけど、どちらも好きだとかそういう心は入っていない。な、何も、さよりに胸が無いとかそういう問題ではないんですよ? 何かの記念に触れておくという考えもあるけど、それはどうなんだ。それにもし仮に触れてしまったら、何かの誓約書か何かを書かなきゃいけなくなりそうで怖いぞ。うーむむむ。


「で、では触れていいかな?」

「……」

「あ、あれ? あゆちゃん? おーい?」

「……」

 返事がない。これは放置プレイか? それとも心の中で迷いすぎて時間切れか? どっちにしても目隠しを取ってもらわないとまるで状況が分からん。てか、俺の手で外せばいいのでは? って思ったが、手首から上が拘束されていて動かせない模様。どれだけ厳重警戒されてますか。


「外してあげるね」

「おっ?」

「湊くん、わたしの部屋にようこそ」

 あぁぁ……服を着てますよ。そして初めましてのお部屋とご対面。まぁ、普通かな。窓側にはいつでも不法侵入出来るようにベッドがあるようだし、壁にはポスター掲示なんて無かった。何にもない! 本棚があるかと思いきや、それも無い。どういうこと? あれだけいつも本を読んでいるように見えるのに読書家じゃないのか? 見たことも無いような花が鉢植えごと置いてるくらいか。


「あの~オムネさんの権利は消滅?」

「あ、そうだったね。右手貸してくれる?」

「うん?」

「はい、どうぞ」

「おわっ! 跳ね返されたよ? 何かなこの弾力性は。さよりとはモノが違いすぎるよ?」

「あ、もういいの?」

 もういいのも何もまるで作業的な対応すぎて触る気にもなれん。あり得ないくらいの反発力だったし、バネか何かで強化してんのか? ま、まぁ、推定Cだと思われるが。こういうことじゃないんだよなぁ……やはり、気持ちが入ってないと触る気にもならないし。さよりとは次元が違うけど、なんか違う。


「あゆちゃんは俺のことが好きなの?」

「好きだけど?」

「いや、でも、心が伝わらないっていうか、俺がキミを好きになろうとすると、途端に離れていく気がするんだよな。どうしたいのかが見えてこないっていうか」

「クスッ……ようやく、かな? ううん、まだだね。そういう湊くんも、今はさよちゃんに傾いている。違う?」

「……それは」

「それと同じ。まだお互いに分かってないだけ。それでも、キミ以外の奴に触らせることは到底あり得ない。キミは私とどうなりたいのかな? 高洲湊くん」

 う、おっ? フルネーム来ました。ナニコレ、別人格なの? そうなの?


「まだ分からない。けど、俺は彼女が欲しいから。だから、お互いに好きってことが分かって、通じ合えたら付き合いたい。彼女になってもらいたいから」

「彼女に……そう、そうね。こんな私でも彼氏がいれば楽しい? 楽しいかな?」

 何か分からんが、自分以外の誰かに問いかけているように聞こえる。闇が深すぎですよ?


「と、ところで、両親とか兄弟は?」

「……」

「あ、いや、言いたくないなら別にいいんだけどさ。それとも、俺を目隠ししたのって俺みたいなザ庶民的な奴と一緒にいるところを知られたくないからとか?」

「……知りたい?」

「そりゃあそうだよ。友達だし、いつだったか料理も作ってくれただろ? 一言くらい挨拶しときたいなぁと」

「いない」

「え?」

「ここにはいないから、ごめんなさい」

「じゃあ、もしかしてあゆちゃんは一人で暮らしてる?」

「そう」

 これ以上は何かやばい。聞きたいけど聞けない。両親は存命しているだろうけど、家にいることはないってことか。兄弟はいなくて、いとこはいるんだよな。磯貝しず……クセが強そうだから話もしづらそうだ。


「えと、いとことの関係は?」

「ふふ……そんなに知りたい? 私に興味、あるんだ?」

「友達、いや、キスまでした仲だろ? 知りたいに決まってる。それに、助けられた。あゆちゃんのことはもっと知りたい。駄目かな?」

「……」

 駄目か―? マジで病んでるようだ。何か外にいる時のあゆちゃんの方が話しやすい気がするぞ。家の中の彼女は心が無い気がしないでもない。俺の部屋に侵入した時は妙に色気が出てるし、どれが本物なんだか。


「いいよ?」

「ホント? じゃ、じゃあ……」

「ここで一生、私といてくれる?」

「へ?」

「私とこの部屋の中でずっと同じ時を過ごすの。そうすれば私のことは何もかも知ることが出来る」

「いや、それはさすがに」

「それじゃあ、湊くん。今すぐ消えてくれる?」

「えっ……」

 こ、怖い、怖すぎるぞ。冗談だよな? こんなこと言う子を放っておくとか、親は何してるんだマジで。あぁ、くそっ。さより以上にあゆちゃんも放っておけない子かよ。


「クスッ……冗談、だよ? 本気にした? 両親は仕事が忙しいから家には戻ってこないの。湊くんの家も同じでしょ?」

「じょ、冗談か。それは良かった。まぁ、俺の親も多忙かな。そっか、同じなんだな」

「そう、同じ……同じだよ。キミは私と同じ。だから、だからだよ? これからも仲良くしてね?」

「もちろん。あゆちゃん可愛いし、一緒にいるだけで胸ドキもんだしな」

 怖い怖い怖い……怖いぞ。闇過ぎてやばい。一体何を抱えてんのこの子。マジで同級生なのかよ?


「じゃあ、お礼に――」

「へっ?」

 これはまたキスの流れだ。それは遠慮しておこう。

「キスはしない――って、えっ?」

 おぅふ……視界が何とも柔らかな素材の何かに包まれているよ? これは天国? それとも闇への入り口? 考えられるのは、鮫浜の愛情表現はかなり歪みまくっているということだ。俺がもっとガキの頃に体験した感触に近かったが、何か何とも言えない気分だな。鮫浜あゆ……もっとちゃんと近づかないといなくなりそうでやばいな。うざがられても、教室とかでもっと話しかけることにしよう。そうじゃないと心配過ぎる。

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