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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第三章:彼女たちの変化

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40.禁断すぎる口づけ? だが、ことわ……


 さすがに非常識すぎるリレーと言わざるを得ない。イケメン対抗リレーは一応、クラス代表で選出されている。しかし、結局のところ女子の為による競技に過ぎなかったことを思い知る。リレーと言っても走るのは一人だけで、しかも走るのはおまけのようなものだった。


 各種目については、その場に相手が待機しているらしく俺は期待と不安を抱えながらやることになりそうだ。


「湊! あなたは幸運ね」


「どういう意味だよ」


「最初のリレーは美少女を借りる競争なの。だ、だから、遠慮なく、わたくしを借り出すことね」


「お前……自分で美少女って言うのかよ」


「じ、自称だけれど、文句なら聞いてあげるわ」


「いや、さよりは美少女だな。俺が認めてやろう」


「ふ、ふん。湊なんかに認められても嬉しくなんかないわ」


 ……とまあ、自薦をされたわけだが、まさか本番で手のひら返しとかしてこないよな。

 

「高洲、お前には負けねー」

「いや、大丈夫。浮間の勝ちだから」

「ところが俺よりも凄い奴なんてごろごろいるんだよな。一位を取れるのは俺じゃなくてあいつだろうな」

「あいつ?」

「あぁ、まぁ……D組の舟渡って奴で俺のダチ。あいつは女子人気がやばい……ってことで、お互い頑張ろうぜ! じゃあな」

「お前もな」


 予想は的中した。本番に手のひら返しは勘弁してくれ。


「……頼むから俺と走ってくれ」


「何でわたくしが愚民と走らなければならないのかしら? わたくしはか弱すぎる乙女なのよ?」


「お前、俺を推して自分も推したくせに非協力的かよ! 走るくらいいいだろうが!」


「お、おんぶしてくれたらいいわ。それなら認められるでしょう?」


「いや、それは……ってか、足でも退化したのか? 何でお前専用のおんぶマシーンにならなきゃいけないんだよ!」


「じゃあいいわ。減点になればいいんだわ」


「くっ……可愛くねー」


 借り美少女競争はさよりが直前で拒んだために減点されてしまった。俺もさすがに学園内でおんぶしちゃうほどの度胸は無かった。


 次は食べさせられ競争だ。そこには満面の笑顔で待機している鮫浜の姿があった。俺に拒否権は無いらしい。


「あ、あのー……そのグツグツと煮込まれすぎた黒い液体は何かな? 鮫浜」


「あ~ん」


「ちょっま……内容量と成分は何でしょうか?」


「あ~ん……男は黙って完食。その後の面倒は私が見てあげる。ずっとね……」


「ひぃっ! あ、あーん……んぐぐぐう……ぐはっ!」


「みなぎる成分を入れておいたのに気絶? 高洲君は耐性がまだまだ、だね。じっくり、じっくりと育ててあげるからね……私の湊くん――」


 気づいたら鮫浜はすでにいなく、他のイケメンたちは気絶することもなく、甘々な雰囲気を満たしながらゴールしていた。


 俺はもちろん減点だった。というか、減点ばかりで一位取れないのでは? 


「高洲君、待ってたよ」


「い、入江先輩? もしかして、第三種目の?」


「うん。お姫様抱っこ……して欲しいな。してくれる?」


「もちろんですとも!」


 入江先輩とは色々あった気がしたけど、まさかのご褒美が俺を待っていたとは驚きだった。少し照れながらも、抱っこされていた先輩はやはり可愛かった。


 そして恐れていた最終種目。なにせ今までの減点がチャラどころか、加点されまくりな難易度だ。


「……というわけで、今から背を向けてセリフを言うぞ? それに返事をして目を閉じてくれればいい」


「わ、分かったわ」


 一人目はさよりだ。コイツは俺の声に耐性があまりない。それだけにこんな乙女ゲーム的なセリフに耐えつつ、返事をきちんと返すかどうかだ。


「お前は俺のことが好きだ。好きでたまらないはずだ。そうなんだろ? 好きと答えるのは分かりきっている。返事をして目を閉じろ。俺からご褒美を与えてやる」


「い、嫌よ。だ、誰が好きだなんて決め付けていると言うの? わ、わたくしが湊なんかに……」


「こ、こらっ、これは台詞なんだぞ? 本気にするなっての!」


「そ、そうね。それじゃあ……す、好きよ」


 振り返ると目を閉じているさより。芝居とはいえ、本当に口づけとかマジですか? さよりの肩に手を置いて、軽く口……いや、頬にキスをした。この前俺がされたようなキスをお返ししてやった。目を開けたさよりはどういうわけか、かなり不服そうにしていた。


「高洲君、よろしく」


「お、おー」


 同じセリフを鮫浜にも繰り返した。するとすぐに返事が来たものの、俺が振り返るよりも前に鮫浜の腕が俺の首にするりと絡まっていて、濃厚すぎる口づけをされていた。時間にして3分くらい。


「ムームームー! ま、待った、い、息が出来ない」


「好きどころか、好きにしていい。あなたは私のモノなのだから。好きなだけしていい」


「いや、落ち着け。分かった、分かったから続きはまた今度な? ここは学園内だから」


「分かった」


 そうは言っても、俺と鮫浜の密着ぶりとキスの時間は圧倒的に他よりも長すぎた。体育祭で俺と鮫浜の関係性を変に理解させたに違いない。


 さて、とうとう最難関の3人目である。見た目が美少女なのは間違いないのに、何故男の友達にこんなセリフを放たなければならんのか。


「お前は俺を拒否できない。分かっているはずだ、俺を心の底から愛していると。俺のことを愛しているなら、お前から俺に口づけをするがいい」


 マテ、何で浅海向けのセリフになってんの? しかも俺からじゃなくて浅海からキスとかおかしいぞ。


「あぁ、俺は湊を愛しているよ。たとえ、偽の姿であっても俺は湊が大好きだ。だから、湊の唇を俺が、俺から奪うよ」


「ま、待て待て待て! ちょっと、浅海くん? 冗談だろ?」


「……本気だよ。俺が愛しているのは湊だけだ――」


 こ、これは禁断すぎる口づけで、浅海ルート確定だ。まずい、まずいぞ。ど、どどどどうすれば? なんて思っている間に俺の口は何かの感触が触れて来ていた。嘘だろ?


 周りからはもの凄い悲鳴と歓声とブーイングが沸き起こっていた。終わった、のか?


「ふふっ、何てね。湊のことが大好きなのはマジだけど、キスはしないよ。あの子たちに悪いしね」


「オーイエス! で、唇に触れた感触は?」


「あぁ、俺の指だよ。湊の唇に触れただけでも満足だよ」


「そ、そうか。何かごめん。てか、パーフェクトならずだったな。悪い」


「まぁ、それは仕方ないよ」


 何故に俺はがっかりしているのだろうか。いや、浅海は親友だぞ。男の娘だろうが、一線は越えてはならない。それがコイツとの契りみたいなもんだろう。


 かくして、何とか競技は終えられた。結果はもちろん、言うまでもない。

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