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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第1部第一章:天使と悪魔と美少女
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4.首が動かせないのは仕様じゃない。


「じゃあ先に歩くから見える範囲で付いて来てくれるか? 池谷」


「ちょっとあなた! 何なのそのブレザーの着方。ムカついて仕方がないわ。嫌だけれど、わたくしの正面にお立ちなさい!」

「へっ? 正面にって……っうおっとぉ?」


 迷ってる暇もなく、首元を掴まれて池谷の正面に引っ張られてしまった。もしやこの場でシメられるのか? それとも、ヘッドロックでもするつもりか?


「だらしなさ過ぎて腹が立つわ! そのブレザーは胸元を開けるものじゃないのよ? わたくし、そうやって自分に酔いしれる男は大嫌いなの。とにかく正しい着こなしをお教えするわ。ほら、真っ直ぐ立って!」

「お、おぉ」


「あなたは顔は偽物だけれど、きちんと身だしなみを整えていればイケメンに見えなくも……いえ、言い過ぎたわ。よし、これでいいわ。終わったのだから、すぐに前を向きなさい」 


 なまじ真面目に美少女であるがゆえに、大いなる誤解と勘違いをしてしまいそうになった。本当に残念すぎる。勘違いをしたとしても俺の理想はナイスバディな美少女だ。こういう時の視線の行方は本当に切ない。


 他人から見たら、優しい女子がだらしのない男子のネクタイやらワイシャツやらを正してあげているという、なんとも微笑ましく、ラブラブな光景に見えるに違いない。


 実態は無理やりネクタイを締め上げられ、首をまともに動かせない人形と化しているわけだが。その行為の意味を俺はすぐに知ることになる。


「では参りましょう。ほら、先をお歩きなさい! もっと離れなさい。それは離れすぎよ! あーもう! そう、そこでいいわ。あなたは学校が見えるまで後ろを向かないこと。いいわね?」


「なんて横暴だ。道案内してあげようってのに、後ろを向かずしてどうしてお前の位置を確かめられるって言うんだよ? まぁいい。早歩きで行くからな。ちゃんとついて来いよ、偽美少女さん」

「早く歩けっつってんだろ! 湊のくせに」


 俺のくせにとはどういう意味かね。しかしキレやすい女だな。デフォルトは暴力性の言葉を放っている時の方がいいんじゃないのか。それにしても理不尽すぎる。ブレザーでネクタイをきっちり締める奴なんて、その辺の社畜でもいないぞ。


 後ろを振り向かせない為の布石か? そうは思ったが、俺も良い人の子。ちゃんと付いて来ているか心配だ。一瞬だけでも後ろを振り向くことにした。


「こっち見んなっつってんだろ! いえ、前を向いていただけないかしら」


「理解しましたよ、ええ。俺の首が回らなくなったら責任取ってくれるんだろ? さよりん」


「もちろん取るわ。あなた専用の固定コルセットを用意してあげるわ。とにかく学校まで前を向け。向いていなさい!」


 さよりんと呼んだのはスルーですかそうですか。心が涙を流してるのも責任取るんだろうな。そんな嫌なこともありながら、俺は後ろを付いて来ていると思われる池谷を気にすることなく、ひたすら前進した。


 殺気を感じるかと思いきや、「背中はイケメンだわー」などと何とも可愛らしい声が聞こえてくる。何だろうな、この何とも言えない気持ちは。ちっとも嬉しくないんだが。


 そんなこともあったが、いつもは遠く感じない学園にようやく着くことが出来た。これで首を自由に回せるようになるだろう。


「ご苦労様。あなたはご自分の教室にお行きなさい。わたくしは手続きがあるの。では、御機嫌よう」

「っておい! ほどけないネクタイを緩めろや!」


「……」


 くっ、見向きもしないで行きやがっ……行ってしまったぞ。自分でネクタイを緩めることのできない結び方をされた俺を放置とは、とんでもない女だな。いや悪魔だったな。


 幸いなことに俺は友達がいない……ということもないが、積極的に話しかけてくる男のダチは多くない。


 だからじゃないが、規則正しすぎるブレザーを着ていても、うざとく近づいてくる奴はいない。それが俺の高校生活1年目の夏だ。その見込みは今日に限って甘かった。


 何故かは知らんが、この学園には割とこまめに他校からの美少女が補充……もとい、転校してくるのだが、その度に必ず話しかけてくる野郎がいる。

 普段は俺には近寄っても来ない奴なのに、まるで親しげに話題を振ってくる。一体俺に何を期待しているというのだろうか。


「おっす、高洲!」

「どうも。何?」

「お前ってスゲーな! お前の後ろに美少女が二人ほど付いて来てたぞ? お前、背中から何か出てんじゃねえの? てか、新たな美少女が来たわけか。期待していいよな? な?」

「背中は背中だ。何んにも出てこないぞ……美少女二人? ん? いま二人って言ったか?」

「そう! 二人とも高洲の背中目がけて歩いていたぞ。羨ましい奴め。美少女の視線を独り占めかよ!」


 ただし背中に限る。言ってて悲しくなった。二人とはさすがに気づかなかったが、一人は首を、いやネクタイを締め上げた残念な悪魔だろ。もう一人は恐らく天使だな。何だよ、全然気づかなかったぞ。まぁ、後ろを振り向けなかったのだから気づくことも出来なかったのだが。


 それにしても近所というか、家が隣なのに何故声すらかけてくれなかったんだろうな。俺はともかく、池谷には声をかけて一緒に歩くことくらいは可能だったはずだ。


 ファミレスでは仲良さげに話していたのに、まさかマジで友達じゃないのか? やはり悪魔と天使では仲良しさんにはなれないとでもいうのだろうか。


「で、その美少女はどのクラスに?」

「ウチだ」

「は? どっちが?」

「両方だ。しかもすでに席についてるぞ。可愛いよな~癒し系ってああいう女子を言うんだな」

「なにっ? 席に着いている……だと? 嘘だろ? 気配を感じなかったぞ」

「大人しい子だからな。優し気に微笑んでくれるだけで言葉を発しないんだ。きっと恥ずかしくて声をかけられないんだろうな。ああいう子は俺らが守ってやるべきだ」


 癒し系か。とすると、天使の方だな。優し気に微笑むのは気のせいだろう。鮫浜の微笑みは憐みの成分しか備わっていないのだからな。ひょっとすると悪魔なあの池谷よりも恐ろしいかもしれない。


 それに今日が転校初日だと思っていたのに、すでに済ませていたとか記憶に無いんだが、俺の記憶操作でもしたのか?


 この学園はいちいち転校生を紹介するほど優しくない。いつも受け入れてるということもあり、簡略化をしたということらしい。男だけはいちいち騒いで浮かれるのが頂けないが。


「もう一人はすげえぞ? 極上すぎる。あんなレベル高いのは最近はほとんどなかった。マジで高洲に感謝だな。あんな清楚で色白で、スレンダーで艶やかな黒髪の美少女が来るなんて幸せすぎる!」


「あーうん」


 清楚? 色白は、うん。スレンダーはまぁそうだね。艶やかって何ですか? 単に猫かぶりなだけだろう。そして偽お嬢様。くくっ、どこまで貫けるのか見ものだな。


 さぁ、先生さまとここへ来るがいい! 池谷さよりと、何故かすでにいる鮫浜あゆ! お前らの正体は俺だけが独占しているぞ。ははははっ!

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