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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第三章:彼女たちの変化

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38.イケメン襲来? 何だ、バイト仲間か。


「それで、湊はさよちゃんをどう思った? 惚れた? 好きになった?」


「い、いや、好きにはなってない……けど」


「けど、見惚れてしまった? ふぅん……? 私がいない所でそんな気持ちを抱くようになっていたんだ? 湊はどうなりたい? 私と遂げる、それともさよちゃんと……」


「へ? と、遂げる? って、そうじゃない。俺はあゆちゃんが思うよりもモテない奴だぞ? それなのにそんなことを言われても困るし、分からないよ。まだ好きとかそんなんじゃないのに」


「……まだ? それじゃあキスする? そうすれば少しは分かるかもしれない」


 様子がおかしい。いや、いつも通りだろうけど、いとこのしずが来たからなのか? いつもならもっと余裕ありまくりなあゆのはずだ。


 いとこだろうけど、雰囲気こそ似ていたが言葉やら性格はまるで違ってたし、病んでもいなさそうだった。俺が好きになる可能性はほとんどないと思うんだけどな。


「そういう問題じゃないよ。友達になってからそんなに経ってないし、キスはやっぱりしょっちゅうするもんでもないと思う。付き合ってもいないんだし。だからそんなにキスしようとか、それはやめとこうか。俺は友達が大事なんだ。それともあゆちゃんは、そうじゃない関係を望んでる?」


「違う。大事」


「だろ? だから、俺と付き合うってなったらいくらでもキスしていいけど、そうじゃないんだから控えて……いや、人前とかでもそれは駄目。いい?」


「良くない。湊にキスしていいのは私だけ。さよちゃんでもないし、妹でもない。しずでもない……恋人にならなくてもキスはする。しちゃいけないってことにはならない」


 駄目だ、早く……いや、手遅れだ。どうやら鮫浜にとってのキスは、恋とかじゃない闇の契約かなんかなのかもしれない。そしてそれを奪われた俺。


 何を言っても鮫浜のペースに引き込まれるだけだ。だったら、せめて何かの約束をしないと部屋から帰ってくれないぞ。


「わ、分かったよ。じゃあ、あゆちゃん。恋人に関係なくしてもいいけど、それでも俺は軽い気持ちでしたくない。だからあゆちゃんが本気で困ったときにする。そ、それでいいかな?」


「……何故? 今、困っている」


 駄目なのか? もはや主導権を握られたのか。俺の部屋なのに支配された系か? こういう時は実力行使しかない。


 部屋が真隣すぎて逆に助かるパターンだ。あゆちゃんの身体も軽いし、俺のターンだ。


「あゆちゃん」

「……ん――」


 どうやら口づけをされるものと確信して目をつぶった模様。俺はそれを利用する。あゆちゃんの身体を抱っこして、そのまま真隣の部屋へ置くことにした。


「――っ! 湊、押し倒す?」

「いや、自分の部屋へ戻す。ってことで、また明日な。鮫浜」

「……お休み」

「お休み、鮫浜」


 無理やりにでも部屋へ帰す。これは案外有効かもしれない。彼女でもないのにキスなんか頻繁にするもんでもないはず。


 俺自身、鮫浜のことはたぶん気にしている。さよりよりも部屋の距離のことも関係していて近いわけだし、ピンチから救ってもらったというのもある。


 だとしても、俺の中で彼女に対する気持ちが愛しいよりも、怖れの方が強い。それが改善しないと好きという感じにはならないだろう。


 さよりとも数か月目にしてようやく、少しは性格とかが分かって来たところだ。鮫浜のこともまだまだ分からないことだらけなのだから。


 朝になり、目を覚ますともちろん部屋には俺一人だけだった。よく不法侵入されるのだから、窓の鍵を閉めればいい話なのではないかと考えるが、それはイコールで彼女を拒否しているという意味にもなりかねない。


 そうまでして嫌というわけでもないし、本当に嫌なら顔すら合わせないだろう。とにかく近すぎるからどうにも出来ないというのが本音だ。


 しかし、たった一日の出来事がこうも濃密すぎると、なかなか疲れるし進まない気がしてならない。それでも俺は非モテから脱出したい。だからこそ慎重にもなっているわけだが。


 初期より変わったことがある。それは朝の登校時、さよりが俺の背中を追わなくなったことだ。さすがにもう道は覚えたようで、後を付けてくることは無くなった。


 それはそれでいいことなのに、どういうわけか以前よりも気軽に話しかけて来なくなった。それだけに昨日の誘いとキスは驚いた。


 少なくとも、俺に対しては刺々しい性格ではなくなってきているのかもしれない。その方が俺も接しやすいし、嫌うことは無い。


「おっす、高洲!」


「おはよう、蟹沢かにさわ。で、朝から何の騒ぎ?」


「男の俺らには無関係だが、隣クラスからイケメンが襲撃してきたんだよ。それで自称美少女たちが囲んでる最中だ。俺らは空気、いや背景だけどな」


「それを言うなら俺もだけどな」


 俺は今まで同じクラスの男子たちをモブ化させて済ませてきた。それはぼっちが基本だったからに他ならないわけだが。


 しかし味方が浅海だけで、しかも男の娘だけというのは、体育祭やら何やらで困ることになる。そんなこともあり、鮫浜ファンでもなければさよりに好きという感情を抱えていないであろう、男たちの名字だけでも覚えて呼ぶことにした。


 自称鮫浜ファンの野郎どもとは一生分かり合えないが、同じクラスの一部まともな男たちは話せば分かると思ったからだ。


「てか、女子の輪が開放されてイケメンがこっちに来るんだが? 高洲、任せた!」


「は? 何で俺に! イケメンにどうしろと!」


「おっ! リーダーじゃん? 来るのを待ってたんだけど、中々来ないから女子の相手してた。おはようっす!」


 コイツはファミレスバイトの浮間か? まさか昨日の今日で本当に来るとは。浅海はイケメンでも普段は男の娘なだけに、浮間クラスの本物のイケメン男子を朝から見ると目がやられそうだ。


「噂通りだな。A組は美少女ばかりだな~普通だけど。思ってたよりは……って、お!」


「ん?」


「リーダー、あの子は何て名前?」


「てか、学校でリーダーはやめてくれ。高洲でいいから」


「あぁ、だな。で?」


「あいつは池谷さよりだ」


「へぇ? 周りの女子とレベルがまるで違うな。転校生か?」


「まあな」


「なるほど。で、高洲の近くにいるちっさい子は?」


「彼女は……っと、もうすぐホームルームだ。戻らなくていいのか?」


「おお、やべえ。もう一人の子は後で教えてくれ。じゃあな、高洲」


 何しに来たんだか。もしかしてさよりと鮫浜の名前を知りたかったとか? だとしても、自分で言うのも悲しいけど、二人はイケメンだからといって騒ぎもしないし、下手をすると声も出さないかもしれない。


 鮫浜はイケメン騒動に全く無関係のごとく読書しているし、さよりは一瞬目が合っただけですぐに逸らされたし、イケメンどころか俺にすらまともに反応を返さない。


 俺たちは本当に友達なのか疑いたくなるレベルだ。

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