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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
5章:日常、再び

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339.彼女さん、意思を貫く


「――ねぇ、あなた。お家に来て?」

「あ、あなたって、おま……」

「さより!」

「あなた呼びはマジで早すぎると思うぞ。で、家に?」

「すでに話は通してあるの。だからいいわよね?」

「い、いいけど……」


 本気は確かに本気なわけだが、俺の本気度とさよりの本気度には、大いなる差が生じている。


 そういう所があって恐れていたのだが。


「――そ、そういうわけでして……」

「高洲湊さん、他へ置いた軽い心の行方はどうされるのです?」

「え? お、置いた?」

「分かりませんか? さよりさんへは本気を置いたのでしょう? ではこれまでに関わった者たちへは、どうされるおつもりかと聞いているんです」

「ご、ごめんなさい! それはきちんとするつもりで……」


 さよりと部屋でキスしてすぐに、隣の池谷家にお邪魔しているわけだが……相変わらず綺麗で、厳しい母親、いさきさんに怒られている。


 これまで散々な思いをさせて来たのは自覚しているだけに、まともに顔を見られない。


『クスッ……いいタイミングで帰って来た感じ?』


 顔を上げられず、ひたすら足の痺れを逃す努力をし続けるしかなかった。

 そんな時を見計らうようにして、久しぶり過ぎる彼女が、顔を覗かせて来た。


「ひ、姫!?」

「お久しぶりです! 湊くん……あ、違う」

「んん?」

「湊お兄様! だよね、さよりお姉さま?」

「そ、そうね。その通りだわ! だけれど、湊はお兄様と呼ぶに値していなくってよ? この人には、他にもたくさん候補がいるのですもの。あなただって例外ではないわ」

「湊くんは変わってないんだね。ふーん? ちなみに、姫は湊くんのことは眼中に無いよ」

「あ、あら? そうなの?」

「だって、これからはいつも一緒にいられる……そうでしょ?」


 眼中にないと言われた時点で、姫には他にいい人が出来たと一安心したのも束の間。


 危なっかしい妹の目つきと雰囲気は、留学前と大して変わっていないようだ。


「コホン……さよりさんを泣かせた輩は今どちらへ?」

「えーあー……」


 涙を拭ったとはいえ、涙の痕はすぐにバレた。

 母親のいさきさんにとって、さよりの微妙な変化やら何やらはすぐに分かるようだ。


 さよりを泣かせたのは浅海なわけだが、間接的には俺になる。

 

「ご、ごめんなさい!!」

「え? 湊? 湊から泣かせられたわけでは――」

「(そこは空気読め)」


 余計なことを言いそうなさよりの口を、遠慮なく手で塞いだつもりだった。


「……湊さん。本気になられたのはいいことですけれど、さよりさんを手懐けようとするその行為は、親として見過ごせませんよ?」

「うわー……引くんだけど」

「へっ?」

 

 手の平で口を塞いだはずが、何故か指先をさよりの口へと突っ込みまくっていた。


 頭でもなでなでしていればまだ良かったものを、何で口の中に自分の指を入れちゃったのか。


 当のさよりは、放心状態である。


 甘嚙みをされていたとはいえ、決してこんなことをさせるつもりは全然無かったが、母親と妹に見られた以上、言い訳不可避だ。


「ひゃぅぅ……」

「ご、ごめんな」

「コーヒーの味がしたの……」

「あ、うん」


 間違った方向に行くつもりは無いので、まずはスーパー土下座をするしか。


「あぁ、湊さん」

「は、はい!」

「土下座はどうでも良いので、今夜は池谷家と高洲家でお食事を致します。既にあなたのお母様には伝えております」

「え、も、もう?」

「今あなたがした行為は今回限り、見逃してあげます。よろしいですね?」

「わ、分かりました」


 さよりに本気になっただけで、家族ぐるみの付き合いが加速とか、ある意味で鮫浜よりも行動が早い。


「それじゃあ、俺はとりあえず家に戻っ……ん?」

「どこに行くというの?」

「いや、だから自分の家に」

「このままいて欲しいの」

「着替えとか、色々をだな……」

「……どうしても?」


 さっきまで放心状態だったさよりが、今は俺の腕にがっちりとくっついて、離れる気配が無い。


 どこにも逃げるつもりは無く、すぐ隣の自分の家に戻るだけなんだが……

 こんなにも甘えたがりだっただろうか。


 偽とか仮の彼女の時は、肩を抱いただけで赤面してそのまま熱でぶっ倒れていた奴だったのに、瞬間接着剤のごとく、くっついたら意地でも離さない姿勢になっている。


「お、おい、いさきさんと姫もいるんだぞ?」

「嫌なの! 湊は目を離した隙に、他に行ってしまうじゃない!」

「いや、もう夜になるしどこに行くって……」


 そうは言ったが、鮫浜の例もあるし嵐花の例もある。

 レベルの違う彼女たちの行動力は、尋常じゃないし恐怖に近い。


「もう湊をわたくしから逃したくは無いの……好きって言ってくれたもの。離れたくない……」

「さより……」


 ここまで依存する奴だったのか。

 ほとんどは俺のせいなわけだが、今日に限ってはどうしようもないかもしれない。


「ど、どうしましょう?」

「姫! あなたが高洲さんのお家に行き、着替えなどを頼まれなさい」

「はい、お母様! そういうわけなので、湊くんは姉を離さないよーに! 離したら、後で何かするからね?」

「分かった、分かりましたから! ってか、何かって何だよ……」

「さぁね。それじゃあ、すぐ戻ります」


 鮫浜の問題とか沖水とか色々あるが、さよりをいつものさよりにする努力をするのが最優先だ。

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