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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第二章:美少女たちの恋活祭り

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33.池谷さよりと恋のわがまま 前編


 第一印象がどちらも最悪な奴同士だったのに、何故俺もコイツも一緒にプールに行くのか。本物のイケメン……ただし、背中に限る……という俺を真正面から見れば舌打ちばかりしてきた自称お嬢様な女が、何故俺をまともに見ながら嬉しそうにしているのか、全くもって理解不能だ。


 当初はその残念な個所と禁句ワードの発言を拾うことによって、暴力性豊かな言葉で威圧してきた奴だった。ところが最近は、偽お嬢様にも関わらずデフォルトがお嬢様風口調で、甘えを見せる時だけはただの女子っぽくなって来ているような気がしている。


「……だもん」とか可愛いすぎるにも程がある。


 もっとも学園では同じクラスであっても女子と男子に関係なく、お嬢様風口調をデフォルトにしているようだ。自己紹介では自称なあなたたちとは違うのよオーラを見せつけすぎたせいで、気安く話しかけられない雰囲気を出してしまったのは失敗だった。


 それもあって女子の友達は未だに鮫浜だけである。クラスのモブ男子はどちらかというと身近な鮫浜に好意を持っているらしく、見た目が本物の美少女すぎるさよりには近付けないようだ。


 暴力性の口調とお嬢様風口調を普段から聞きなれている俺は、一つの結論に行きついた。それは妊娠発言で出たアニメのことだ。コイツの知識はそのほとんどがアニメから来ているだけに、もしかしたらコイツはアニメ好きなただの女子ではないのだろうかと思えた。


 社畜の親父さんに直に挨拶されて気付いたのは、どこかの社長ではないことは確かで、単に娘溺愛親父なだけなのだろうと感じたことだ。だがこいつにしてみれば、小さい頃からチヤホヤされて育ってきたことイコール自分はお嬢様なのだと思い込んでしまっているせいで、今の池谷さよりを作り出したのだと言える。


「お前ってもしかして――」


「さよりとお呼びになって頂けないかしら? わたくしなんて初めから湊とお呼びしているというのに、あなたには学習能力という物が備わっていないのかしらね? いえ、背中に全てを凝縮させているのだとすれば、それも致し方ないというものだわ」


「では、さよりさん。あなたこそ、その知識の源はアニメが全てなのではないかね?」


「……な、何のことかしらね。あなたのいやらしい声でアニメとか言われると、まるで中の人のように思えて寒気がしてくるのだけれど」


 大当たりだったようだ。中の人は自分のことを中の人とはあまり言わないが、恐らく何かの影響を小さい頃に受けたのは間違いない。


 学園に転校してくる前は、同年代の男の子と手を繋ぐといったことすらして来なかったのだとすれば、俺にあれだけの暴言やら何やらを吐くまでにはならない。そういう意味ではお嬢様かもしれないな。


 大事にされすぎな残念なお嬢様といったところか。


「まぁいいけど、好きでもない男とプールになんか行ってさらには、水着姿を見せるなんてお前……いや、さよりって――」


「それ以上言うと、わたくしの護衛があなたを仕留めることになるわよ? その覚悟はおありなのかしら? あるというのであれば、止めはしないけれど」


「いえいえ、申し訳ございませんね。さよりさまの護衛というのは、その辺の背景と同化しているのでございましょう? 私めには自販機とか、ガードレールとかにしか見えませんがそれら全てがあなた様の護衛と申されるのであれば、私めなんぞとプールに行かなくてもよいのでは?」


 はいはい、妄想お嬢様ですね、分かります。見渡す限りの環境をどんなに見つめても、気配すら感じさせない護衛なんぞはどこにも見当たらない。これで本当にいたとすれば、さよりはとんでもなく国賓クラスのお嬢様認定をせざるを得ない。


「……い、いて欲しいもん」


「はい? 今なんて?」


「湊に一緒にいて欲しいから誘ったのに、どうして意地悪言うの? 嫌いなの?」


 反則技発動が来た。恐らくこれがさよりの素だろう。


 これを出していれば、クラスのモブ男子はおろか、隣クラスの名前付きなイケメンはイチコロすぎると思われる。まして見た目は一見すると清楚すぎるお嬢様だし、スタイルもいいし……B以上なら俺はこの場で抱きしめていたに違いない。


「嫌いだったら声すらかけないと思うが? そういうさよりは俺のことが嫌いすぎるんじゃなかったのか? 俺じゃなくて、背中しか好きじゃないんだろ」


 今まさにプールのある場所へ行くために、電車を乗り継いで徒歩で向かっているわけだが、さよりはずっと俺の背中を見つめながら会話をしている。電車の中でもそうだったが、獲物か何かを狙うような眼差しの美少女が、俺からわざわざ距離を取って離れた所から背中を凝視していた。


 いくら美少女でも怪しすぎる雰囲気が出ていたので、周りの乗客はまさに空気となっていた。


 そして最寄りの駅から歩いている今も隣を歩いて会話しているわけではない。お互いの顔はおろか、全身は見えちゃいない。会話だけ聞いていれば友達以上に思えなくも無いが、さよりはかなり残念な女子である。


 そして俺もそれに慣れすぎたためにたまにまともにさよりを眺めると、どこの美少女ですかと疑いたくなるくらいに石化、いや、目を奪われるのは墓場まで内緒だ。


 ちなみに鮫浜は真隣を歩くようになったが、やはり少し離れた所から俺を見る。もしくは、俺が気づかない所で密かに見ていることが多い。怖いとかではないけど、なかなか歪んだ天使なのだと思うしかない。ただし、鮫浜が話しかけてくる時はものすごく積極的に近づいてくるため、そういう意味では緊張の連続だ。


「せ、背中だけじゃない。でも、湊の背中を見ていると落ち着くんだもん。嫌いじゃない……だからわたしを見てよ」


「んー、そういうセリフをお友達の俺に言うのもどうかと思うし、勘違いさせてもおかしくない所だが安心してくれ! 勘違いしない可能性は100以上だ。それは水着になったさよりも同じだ。ふっふっふっ……」


「あら、いいのかしら? そんな強気すぎる発言をしてしまって。わたくしの全身をまともに見れば、あなたのような雑魚生物は一生、目を奪われてしまうかもしれなくてよ?」


「ソダネー」


「む、ムカつく野郎だ。と、とにかく、湊はわたしを見るの! いいわね?」


「ワカッタヨー」


 気が動転しすぎてんのはさよりだけだろう。3つの口調が発動中という時点で明らかに動揺している。


 せいぜい石化するかどうかを試させてもらうとしますか。

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