317.さよりさんのキモチSS 1
一体なんだというの?
わたしはただ、湊に土下座をさせようとしていただけだというのに……まさか、浅海さんが――
事前に打ち合わせをしていた内容と違い過ぎるわ。
「俺は池谷さんと付き合う。湊には落胆した。任せられないんだ」
「――っ!?」なんて、思わず言葉すら発せられなかったわ。
確かに湊にはいい加減にして欲しいという気持ちはあったけれど、こんな予定にもないことを言ってくるなんて、何を考えているの?
だって、浅海さんにはあゆがいるというのに。
肝心のあゆは、未だに湊、湊……湊。
年の離れた鮫浜あゆ……彼女は友達ではあるけれど、恋をしたことが無い本物の令嬢。
もちろん、わたしもそうなのだけれど。
「好きなのかよ? 浅海のこと」
「す、すすす……んんっ! あなたのようにハッキリさせない人じゃないことは確かだわ。そういう意味では好きよ」
わたしも逃げたことを言ってしまったけれど、湊からは相変わらず『好き』という、たった二文字の言葉、気持ちを聞くことが出来ていない。
学園にいた時はあんなにも言ってくれていたのに、どうして?
このまま素直に浅海さんとお付き合いをして、お出かけして……あゆの気持ちが浅海さんに来なかったら、本当にそのまま付き合うの――?
「さよりと呼んでいいわ。今さらのことでもあるし、あなたの脳は弱いのですもの」
「そうだな、さより。じゃあな」
湊は『また』とは言ってくれなかった。
だからわたしは、『またね』と言って車に乗り込んだ。
そのことについて、どうせ深く考えないのでしょうけれど。
浅海さんは何もかもを見透かしているかのように、わたしを見て微笑んでいる。
湊に厳しく当たっているけれど、友達以上の感情を押し殺している様に見えた。
同性であってもあの優しさだけが取り柄の湊に、浅海さんは砕け済みなのね。
まずは湊、そして彼の近くで、わたしも見極めなければならないわね。




