312.さよりさんと浅海くん、潜入する
「あ、あら? ど、どうやって引っ掛ければいいの?」
「……ったく、池谷さんは相変わらず何も出来ないんだな。それとも、それも湊に頼るための技?」
浅海はさよりを伴って、南中女子に潜入をしようとしていた。
浅海はあゆへの決意を固めて以降、本物のイケメンに戻っていたが、俺の為ならと再び男の娘となったらしい。
「技? 何のことかしら?」
「天然なのかただのバカなのか、湊が放って置けないってわけか」
「聞き捨てならないことを言ったのだと思うけれど、聞かなかったことにしてあげるわ!」
案外いいコンビと化している二人らしく、足を引っ張るさよりに突っ込みを入れることで、怪しまれずに動くことが出来ているようだ。
南中付属は栢森からかなり離れていて、車でなければたどり着くことが出来ない。
その点でいえば八十島にしても、さよりにしても庶民ではない為、移動に関しては問題が無かった。
「どうしてそこまで一途でいられるのか、俺は分からないな」
「愚問ね。庶民であろうとそうでなかろうと、あの男は本当に情けなくて意気地が無いの。そういう男をどうにかするのも、わたくしにとっては楽しみでもあるのだわ! あなたこそ、どうして今になってあゆなのかしらね」
「……」
さよりの言葉には何も言えない浅海だった。
そんなこんなで、人けの無い裏道から南中付属に忍び込むことに成功した二人は、調子に乗ってその場で立ち上がり、ぶつくさ言い始めてしまう。
「ふー……窮屈過ぎたわ! 二度とごめんだわ……どうして他校に来てまで、全く全く……」
「しっ……!」
『そこの二人……そんな所で何を……というより、女装?』
「――え? わ、わたくしは本物の美少女ですわ!」
「……俺も本物の美少女だけど、君は誰?」
『沖水あみ……ですけど、そっちこそ誰?』
「え!? お、沖水ですって?」
「あぁ、やはり……」
潜入した矢先、さよりと浅海の前にいたのは、合宿から戻って来たばかりのあみだった。
沖水と聞いて驚く二人と、二人を知らないあみ。
二人とはどうなっていくのか、今の俺には知る由も無かった。




