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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第二章:美少女たちの恋活祭り

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31.復活のF。ただし、イケボに限る?


 ずっと想い続けていた入江先輩。彼女のことは夢の中で想い続けていた人だったんだと、自分の中で決着をつけた。鮫浜に何らかの力で意識を落とされたわけだが、それが何かの怪しいもので眠らされたとかよりも、本当はもっと嫌な思いをしてもおかしくなかった所で止めてくれただけに、鮫浜には感謝しか生まれなかった。


 そして彼女の気持ちが何となく分かってきた気がして、教室に行ったら自分から声をかけてその真相を確かめたい。きっと以前よりは苦手意識も薄れているはずだから。


 教室に入るまではそう思っていたのだが……。


「あゆ、おはよう」


「……」


「おーい? あゆちゃん?」


「……」


 返事がない。ただの可愛いお人形さんのようだ。俺の夢の中の記憶ではいい感じになった気がしていただけに、素直に笑顔と返事を返してくれるものだとばかり思っていた。


 俺の意外な積極性に、クラスの連中は何やらひそひそ話を開始していた。というかいい加減慣れてくれませんか? 


「おはよ。高洲君、何か用?」


「おっ、起きてた。あゆちゃ――」


「鮫浜と呼ぶ。ここ、学校。いい?」


「あっ……ご、ごめん。鮫浜」


「分かればいい。勘違いは誤解を生む。もっと仲良くならないと、キミが良くても周りが付いてこない。分かる?」


「う、うん。鮫浜の夢を見ていて、何だか思いきり勘違いしたかもしれない。ごめん。でも、俺はもっと鮫浜と話がしたいし、仲良くなりたい。いいかな?」


「……いいよ。でも、わたしから話しかけるから。用も無いのに話しかけないで」


「わ、分かった」


「ほら、席に戻る」


「お、おー」


 あれ? あれは真面目に俺の夢? 確かかなり濃厚すぎるキスまでしたはずなのに。そんでもって、彼女の気持ちも聞けたはずなのに。

 もしや、全て初期化された? でもたぶんまだ、まだまだ俺自身の好きな気持ちが定まっていないのを彼女は知っている。

 だから初期の鮫浜に戻っていたとしても、俺は鮫浜を嫌いにはならない。またこれから少しずつ、彼女の心を開いて行けたらいい。そうしたら今度はきっと。


「クスッ……まだ、だよ。少しずつ、徐々に私しか考えられなくなるまで……その度に、湊くんを突き放してあげる……私だけを考えるようになるその時まで」


 休み時間になった。廊下側からひょっこりと綺麗系なお姉さまが、俺を見つけて手招きをしているではないですか。もちろん、行きますとも。


「えーと岬先輩?」


「当たり! さんごちゃんでいいのにな~ってか、聞いたよ? 大変だったんだね。まさかマナがねぇ」


「いや、あんまり覚えてないので。で、俺に何か?」


「あぁ、そうそう! バイトの話だ! 前にテラスで言ったんだけど、それは覚えてる?」


「放送系でしたっけ? 俺の声の有効活用的な」


「それそれ! それもそうなんだけど、それじゃなくてキミってファミレスでホールしてたよね?」


「いや、でもとある出来事で改装中ですよ。そこが何か?」


 とある出来事。それはもちろん、奴が原因である。残念すぎる美少女……いや、アレのことはもう美少女といちいち言わなくてもいいだろう。残念なさよりの奴で十分だ。


「うん、復活です。戻るんでしょ? クビになったわけじゃないし」


「でも……」


「あぁ、新しいお店にマナはいないよ。安心して? そこは私が入るというか、知り合いというかね」


「え? じゃあ店長も別人ですか?」


「うん。女性店長だよ。嬉しい?」


「ど、どうでしょう……はは」


 生まれ変わりのファミレスか。平日にやることが無くなって、退屈はしていたのは事実だ。それでも以前は気楽と言えば気楽だっただけに、どうするべきか。


「そうそう、新たなFはイケボ優先採用だからね。だから高洲君は安心して?」

「はっ? イケボ優先? 普通のファミレスじゃないんですか?」

「んーまぁ、料理は普通だけど、店長がイケボ好きだから。見た目よりもイケボ! あぁ、高洲君は見た目もイケるよ。男だらけのお店じゃないから安心していいよ。どう?」

「えと、お願いします。やっぱ、ファミレスくらいしか出来ないし、そこでの出会いってバカに出来ないんで」

「おけおけ! じゃあ、後でまたね! 高洲君!」

「はい、ども」


 今度は背中でがっかりされずにイケボが活躍出来るのか。そうならいいが。って、何か視線を感じる。


「――おい」

「あ、あら? 偶然ね。何の用かしら? 湊の分際で」

「何の用も無い。じゃあな」

「ま、待ちなさい!」

「いや、授業始まるから」

「ふふん、次は自習よ! 残念だったわね!」


 あれ? コイツ自分で残念って言ったぞ? 自分で言うのは認識しないのか。まぁ、自分で言っといてキレたらただの危ない奴だけどな。


「何だよ? 俺に何の用だ?」

「聞いたわ! ファミレスが復活するらしいじゃない。今度こそ、わたくしも活躍を……」

「あ、お前クビだぞ? 聞いてなかったのか? それに新しいファミレスはさよりの声では役に立たないぞ? お前の声は美声でもないし。見た目だけだろうしな」

「は? き、聞いていないわ! あなたまさか、その卑猥すぎる声を使って女性客を取り込むつもりね?」

「ほぅ? お前、俺の声を卑猥だとかいやらしいとかほざいてるけど、まさかお前……俺の声で足腰がガタガタになってるとかか? もう一度抱っこしてやろうか?」

「あらあら、どこの俺様かしらね。そ、そんなに人を陥れたいのかしら? 湊のくせに!」


 コイツ、いい気になりすぎじゃないのか? しかし、さよりに関して言えば全くドキドキしないな。見た目は確かに美少女なんだけどな。あまりに残念すぎるから、俺も女として意識しなくなったのかもしれん。


「と、ところで、その……あなた、暇人よね?」

「あ? もうすぐ暇じゃなくなるが、それがどうかしたか?」

「お、お父様からタダ券を……じゃなくて、ご招待券を頂いたの。み、湊、あなた……わたくしと流れすぎるプールに行かないかし――」

「断る!」

「な、何故かしら?」

「俺は水着フェチではない。水着だけ見て萌えるほどおかしなことにはなってないぞ!」

「水着? わ、わたくしが着て差し上げるのよ? それの何が不満なのかしら」

「お前が水着を着た所で見るところは何もないからな。俺には水着だけを見て、そこからB以上の妄想に膨らませるような想像力は持ち合わせていない!」

「バ――馬鹿野郎! 湊の分際で!」


 話にならん。こんな残念な偽お嬢様の相手をしてるだけで生きている時間が無駄とさえ思える。ってことで、無視して教室に戻ったはいいが、しつこすぎるお嬢様は背中に張り付いてきやがる。


「いや、お前俺の他称友達だろ? 彼氏でも何でもないし好きでもないだろうが。俺だけを誘ってプールとか、お前は俺を何だと思ってんだか」

「あ、あなたにはわたくしをもらう責任があるのよ? わたくしの身体をめちゃくちゃにしたことを忘れたのかしら?」


 ざわっ! ちょっとさよりさん? ここは教室よ? というか、鮫浜もいるのにそんなこと言うのかコイツは。コイツにとって抱っこという体に触れただけの行為ですら、そういうお子ちゃま発言が生み出されるのか? 冗談じゃないぞ。


 思わず鮫浜の方を見てしまったが、彼女は自習時間だからなのか教室にはいなかった。助かったのか?


「――さよちゃん、邪魔」

「え、あ、あゆ? ごめんなさい」

「クスッ……さよちゃん。高洲君に奪われたの?」

「え? え、えと、その……抱っこをされて色々触られたの。それは責任を取ってもらうレベルだわ。そうよね?」

「フフッ、奪うって言うのはね、こういうことだよ?」

「えっ?」


 おや? 鮫浜が俺に近づいて来てますよ? もしや公開ビンタか? っておいおいおい! 


「チュッ――ん……んっ、はぁ――チュ……はぁっ……」

「――っ!」

「なっ! あ、あゆ? あなた、何をしているの!」

「(息が出来ん)タスケテー」

「奪うってこういうこと。理解した?」

「や、そ、そんな……そんなの、無理」


 クラスの中は騒然としているようだ。そりゃそうだろ。鮫浜が俺にこんな公開キスをしてるんだ。あり得んぞ。これも悪夢の続きか? なんて俺が思うよりも、周りの声は鮫浜の存在を大きくしているようだった。


 「鮫浜が高洲の魂を吸ってるぞ。なんてうらやま……いや、やはり彼女の怒りに触れたからか?」とか、「鮫浜さん、大胆! だけど、高洲ごときに口づけの無駄遣いすぎるでしょ」などとお前ら、まともな反応な奴らはクラスにはいないのかね? 


 そして俺はまたしても意識を落とした。マジで鮫浜のキスは闇に堕とす効果でもあるのか? 今回のキスは好きとかじゃなくて、俺に新たな恐怖を生みつけただけだった。悪魔というか、鮫浜の小悪魔が始動したらしい。

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