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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
3章:彼氏彼女じゃないわけで

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302/345

302.生か死か?と言われても。


 一時はどうなるかと思っていたが、あゆも涙を流して落ち着きを取り戻したのか、さっきまでの闇はどこかへいなくなっていた。


 鮫浜マンションを早々に出た俺たちは、デートのやり直しをする為に、代わり映えの無い街に出ることにした。


 ここでもあゆが主導権を握り、俺の手を握ったまま先導する。


 ――かと思えば、振り向きざますぐに笑顔を見せながら、答えを求めて来る。


「湊くん。さっきのラーメン、お腹に入らなかったよね?」

「味も何も分からなかった……(あんなことをしといてよく言う)」

「くすっ……じゃあ、何食べたい? 色んなお詫びに、食べさせてあげる」


 色んなお詫び……って、それも彼女らしい言葉だ。


 俺の手は彼女に掴まれたままなので、恐らく何を言っても、行き先は決まっているのだろう。

 

「何でも」

「……本当に?」

「あゆが行きたい所があるなら、それでいいよ」

「ん、それじゃあ――」


 嬉しそうに話す彼女の姿も、紛れも無くあゆそのものだ。


 そんなあゆの言葉を待っていると、突然目の前が真っ暗になった。


 もしかして闇世界へご案内されたか? などと一瞬思ってしまったが、全然違ったようだ。


「――っつう……な、何だ……!?」


 気付いた時には、どこかの雑居ビルの壁に体を叩きつけられていて、全身にダメージを負っていた。


 かすり傷程度だが、手の甲がひりひりするのでどこかにこすって、擦りむいて赤くなっている。


 どう見てもどこかの野郎に不意打ちを喰らって、吹き飛ばされたらしい。


 繁華街だけあってそこそこ注目を浴びているが、俺ではなく彼女とソイツを見た途端に、そそくさといなくなっている。


 この辺は鮫浜支配の街だけあって、関わらないという判断が生まれるに違いない。


 うーん、痛い。


 鍛えるのをサボっていたツケで、手を地面に付けたまま起き上がれずにいる。


「よぉ……高洲ぅ。生きてるかぁ?」


 つくづくしつこい野郎だと感心してしまうが、よりにもよってあゆといる時に遭遇するとは。


「……おかげさまで。と言った方がいいのか?」

「悪ぃな。こんな時間にこんなところで、一緒にいて欲しくない相手といたもんだから、手が出ちまった」

「とっくにフラれて逃げ帰ったんじゃなかったのか、鮫島」

「けっ、誰のことだよ、それは。で、何でだ?」

「何でと言われても困るんだが……」

「俺があゆの許婚と知っていながら、何でしつこく近づきやがる! 手まで握ってムカつくぞ、くそが!」


 単なるひがみですね、分かります。


 それにあゆの運命の相手は、こんな野郎ではなく本物のイケメンだ。


 初めて近づいて来た時は、土下座が得意技の馴れ馴れしい野郎だったのに、本性が出てからはただの暴走野郎とかまさに偽物。


『鮫島さん、湊くんは何もしていない。何度か言ったはずです……私は関係ないと』


 あゆを放置していた鮫島に、若干イライラを見せながらあゆが近付き、声をかけて来た。

 

 この話し方は、俺やさよりに見せる雰囲気ではなく、あくまで世間体的などうでもいい相手に伝える言い方に聞こえる。


 彼女は俺と知り合う前から、鮫島に言い寄られていたのかもしれない。


「鮫浜が関係なくても、俺は関係してるんでね。あなたに近づく奴は、生きるか死ぬかを選ばせてやることにしている。それが許婚としての役目ってもんだ」


「そんなの頼んでない」


「頼まれなくても俺の判断でやってる。それなのに、何で高洲にこだわってんのか知りませんけどね」

「ここまで見せても分からないあなたに、言ったところで通じるとでも?」

「あぁ、そりゃそうですね」


 これは鮫浜と鮫島の闘争に発展か?


 しかし情けないことに、叩きつけられた痛みがじわりじわりと襲って来ているせいで、体を起こすことも難しそうだ。


「湊くん、ごめんね。私、キミとご飯に行く前に……鮫島と飛んで来るね」

「へ?」


 マンションの部屋でもそんな意味不明なことを言っていたが、飛ぶって何のことなのか。


 鮫島はそんな言葉の意味を知るよりも先に、俺を介抱しないあゆに寄って、肩を抱きながら立ち去ろうとしている。


「まぁ、そういうことだ。高洲はそこで寝とけ! しばらくしたら、残念な奴がお前を見つけるだろうしな」

「ふざけんな……く、くそ……」

「素人が鮫浜に近づくと、こういう目に遭うってことだぜ? まぁ、本当に病院送りになるわけだし、ウソがバレなくて良かったんじゃね?」


 ううむ、我ながら喧嘩に勝てないな。


 相手の方が強いとはいえ、不意打ちは卑怯すぎるだろう。


 鮫島の言う通り、真面目に病院送りっぽいので、とりあえずこのまま大人しく目を閉じることにする。


 闇天使に近づくと生死を分けるとか、シャレにならない。


 しばらく落ちかけるようにして、壁際で寝転んでいると聞き慣れた声が聞こえて来た。


「……そ、そんなところでも眠れるなんて、あなたは真性なのね」


 反論する気力が無いので、言わせておくことにする。


「ふふん、え、選ばせてあげるわ! ここで生きるも死ぬも……わたくし次第ということになるわね!」


 お前は鮫島か!


 何でこんなどうでもいい場所で、そんな選択を迫られねばならんのか。


「……んもう! な、何とか言ったらどうなの?」


 いや、言えないくらい口の中が鉄の味でアレなんだが、とことん残念な奴が俺を見つけてくれたみたいだ。

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