291.ハニー・トラップ ②
何だろう、この状況は。
何故こうなった……
俺は姫を褒めまくっただけのはずなのに。
「――てっ……」
「……許しませんよ? だから、今のはそういう意味です」
「そ、そういうことを言ってるんじゃ――……んんんっ?!」
「ここには二人だけしかいませんから……ね?」
俺を振り留学を決め、さよりを応援することを決めた姫だったのに、褒めまくったことが逆効果となってしまったのか、姫は俺の首に腕を回して近付いて来た。
そしてそのまま、驚くほど柔らかな唇の感触が俺を襲い、今に至っている。
しかも甘嚙み付きである。
すっかり油断をしていたが、姫はずっと諦めずに俺に接して来ていた。
さよりのことといさきさんに言われたことを最後に、姫の俺への想いは消えたとばかり思っていたのに、そうじゃなかったらしい。
「待った! 待っ――」
「待ちませんよ」
俺の言葉を遮り、塞ぐように姫が深すぎるキスをして来る。
「しばらくキスしていない感じがしますけど、そうですよね?」
(そう言えばそうかもしれないが、しかし……)
「拒まないんですね」
「どういうつもりか知らないけど、拒んだところで……」
「んん……ふぁっ」
「むーむーむー……く、苦し……」
拒むことすらも拒むかのように、姫はここぞとばかりに連続したキスをして来る。
消えていなかった想いの火を、再び燃え上がらせてしまったということか。
「……抵抗しないんですね、湊さん」
ここで突き放したところで、状況が変わるとも思えないが、何よりも油断したことで力が抜けてしまった。
あゆからのキスがそうだったなと、今になって思い出す。
そして油断はコレだけじゃなかった。
「……湊さん、わたしにしてください」
「な、何を」
「決まってます……」
姫からして来たことを、俺からしろという、これは姫からの催促。
流されるままにしていいのか?
しかし今の姫は、何かしらの理由でここにいるみたいだし、寂しさを感じさせている。
恋愛としてではなく、慰めとしての”キス”ならいい……のかな。
「湊さん……」
俺の腕の中にすっぽりとおさまる姫の細い身体。
透き通るような白い肌、まるで誘うことを決めていたかのような、甘い香り。
こんな綺麗な子から、逃げ出すなんてことは無い……よな。
『あぁ、やはりソレが狙いで来たってやつ?』
「「え?」」
姫に誘われるままに、吸い込まれそうな唇に近づけようとした時だった。
「ただの女タラシかと思っていたけど、ふぅん……?」
「何故この部屋に、あなたが……」
「お前、俺にどうしてそこまで」




