289.栢森ヶ丘の日常SS 栢森ヶ丘サイド②
「沖水と池谷が?」
「そ、そうですけれど、それが何ですの?」
「……行くと伝えた。伝えたと思うけど、問題でも?」
「どうせ上手く行かなかったんだろうし、あたしは何も言わねえよ」
南中付属に行っていたさよりとあゆだったが、不甲斐ないままで栢森に戻って来ていた。
「んで? みなとには会えなかったのか?」
「いるかどうかも怪しかったけれど、問題はそこじゃないわ!」
「私に責任は無い」
嵐花は様子がおかしい二人から話を聞いてみることにした。
「あん? 校門で止められて校内にすら入れなかったぁ? あっはははは! あんたら、それでも教養あるご令嬢かい? 姉妹にも無理があるが、偽名が通用しなかったとか、そんなことがあんのか」
あゆは苦虫を踏み潰したような表情になっていて、さよりは腕組みをしながら、地団駄を踏んでいる。
「だってだって、まさかの出来事が――」
「……そういうことだから、私は私のやり方で行くから。さよりは栢森に頼れば?」
「あゆはどうするの?」
「さぁ……」
「んもうー!!」
名乗りたくなかった偽名を名乗りながら、結局上手く行かなかったことで、あゆはすっかりと腹を立ててしまったらしい。
「そんで、池谷は諦めていないわけか」
「当然だわ! そういう栢森さんは、責任を感じていないのかしら?」
「あたしは狙いがあって行かせただけだし、あそこでみなとがどうするかは、あいつ自身に任せているだけだぜ?」
「わたくしはどうしてもあの学校の中に行く必要が出て来て、だから……栢森さんに一緒に行って欲しいですわ!」
「あたしは別にそんなことしなくても入れるけどな。池谷と一緒となると、面倒なことになるし……そもそもあの学校にあたしがいなくても――っと」
嵐花の言葉には何かの含みがあったものの、中々食い下がろうとしないさよりに、押され気味である。
「……分かったよ。沖水は一人でも何とか出来そうだが、池谷は厳しいだろうし、あたしが一緒に行ってやる」
「ほ、本当ですの!? ふふふっ! 恩に着ますわ!!」
「……着なくていいから、あいつを諦め――」
「え?」
「いいや、何でもねえぞ」
「ふふっ……今度こそ、潜入してみせるわ。そしてあの子に会わなければ……」
さよりに協力することになった嵐花たちとは離れ、一人で思い悩みながら歩いているあゆは、意外な奴に声をかけられた。
「あゆさん。浮かない顔をしているなんて、珍しいね」
「その姿! ……そう、戻ったんだ?」
「俺はもう現実を見ることに決めたんだ。だからあゆさんも、もういいんじゃないかな?」
「あなたに言われるまでも無いこと。もう一度、私はやり直したい……やり直してそこからだから」
「本当に、妬けるね。だからといって、俺が湊を嫌いになることなんて無いけど……でもさ、俺はずっと想っているんだ。それだけは気に留めてもらえないですか?」
「……気には留めている。これは私だけの問題。あなたはそのままで待ってくれていればいい」
「待ちますよ、変わらずに」




