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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第9章:恋敵だらけの学校生活

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254.冷却期間と冷蔵女子


 さよりがおかしい。

 いや、おかしいのは元からだが、人の顔を見るなり顔を真っ赤にさせ、そのまま保健室へ直行することが増えた。


 以前にも似たことがあったので、そのことについて浅海に相談してみた。


「池谷さんが?」

「そ、そうなんだよ。俺の顔を見るとすぐに顔を紅潮させて、活動停止状態になるんだよ……」

「何かした?」

「したというより、された……だな」

「何を? って、二人の今の関係性ですごいことって言ったら、キスかな?」

「そ、そうなんだよ、うん」


 鮫浜と別れ、栢森に転校をして来てからというもの、これといってさよりとの間に、大した接触は無かった。


 姫との間には多少のイレギュラーなことがあったが、それは忘れるとして……問題はさよりだ。


「偽彼女として付き合ってた時も、キスはしてなかったんでしょ?」

「うん。肩を抱いたくらいかな……それだけでも保健室だったけど……」

「じゃあアレだね、興奮状態が収まらない状態。それがずっと続いているんだね。彼女の場合、学園の時に不意に奪われた以外は、湊としかしてないだろ?」

「多分な」

「あんなわがままな彼女だけど、純粋すぎるんだろうね。湊しか知らないのに、自分でしてしまった行為を今になって思い出して、顔も見られなくなった」

「いつ直るんだ?」

「冷却期間が必要だね。それこそ、喧嘩してなくても会わないようにするとか、話をしないとか」

「そ、それしかないか。浅海、ありがとな!」

「じゃあお礼にキスしてくれる?」

「ヤメテ」


 浅海の発言はシャレにならない。


 それはともかく、さよりが冷静になるには、しばらく距離を取るしか無さそうだ。


 そうなると教室でも、なるべく顔を見ないようにすればいいということになる。


 どうするべきかをしばらく保健室前で悩んでいると、不意に声をかけられた。


「湊くん」

「……ん?」

「こんにちは、保健室に何か用でした?」

「あぁ、えと、池谷が具合悪くしたから連れて来ただけなんだ」

「ふぅん……? じゃあ湊くん、朝と帰りはどうするの?」


 沖水はこの前の送迎車乗り合いに反省をしたらしく、あれ以来朝に会うことは無くなっていた。


 さよりとは友達なはずで、それこそ仲直りをしているはずだし、そもそも中身が鮫浜だから当たり前なのだが、本人たちが隠したがっている以上は俺からは何も言わないでいる。


「湊くん、お昼はいつも一人?」

「大体そうかな」

「そうなんだ。じゃあ、お昼はわたしと食べよ?」

「沖水と? 優雨も一緒でも構わないけど……」

「わたしと二人は、嫌……?」

「そ、そうじゃないけど、緊張するっていうか、うるさくても優雨がいれば気が楽になるっていうかね」

「そういう立ち位置なんだ? じゃあ声をかけておくね。じゃあまたね、湊くん」

「うん、また」


 外見もそうだけど、仕草も態度も学園の時とはまるで違うし、全てを変えて来たのは驚いた。


 果たして鮫浜……現沖水を、その辺の女子と同じように考えていいのか、さっぱり分からない。


 そんなことを思い悩んでも仕方が無い、そう思っていたら、あっという間に昼休み時間になった。


「みなとぉ! たまにはあたしと昼を過ごすか?」

「嵐花のお誘いは嬉しいっすけど、今日は先約がありまして、また今度!」

「ちぇっ……何だ、そうかよ。池谷……じゃなさそうだが。誰だ?」

「す、すんません! 急ぐんで!」


 機嫌のいい嵐花なら許してくれる、そう思いつつ後で謝ることにして、急いで学食へ向かった。


「ふん……気になることを言いやがって……どんな女か見てみるか」


 優雨をあえて呼んでもらうことにしたとはいえ、俺としては久しぶりに元カノとご飯を食べることになる。


 そう思っただけで、何となく緊張しながら急いでいた。


 食堂に着くと、予定通りに口うるさい優雨が俺を見つけて、すぐに声をかけて来た。


「おーーーい! 湊くーーーん!! こっちこっち!」

「叫ばなくても分かってるっての……って、え?」

「……高洲、どうも」

「驚いただろ~? 蒼ちゃんも沖水ちゃんと友達になったっていうから、呼んでみたのだ!」

「あ、あぁ……」


 沖水の友達ということにも意外で驚いたが、誘いに乗ったのか強引に引っ張られて来たのか、そこが気になる。


 しかも肝心の沖水の姿が見えていないだけに、どうすればいいものか。


「沖水さんは……?」

「うん、そこにいるよ?」

「へ? あっ!?」

「……ふふっ、湊くん」

「や、やぁ……」

「うん」


 優雨とみちるに気を取られていたこともあったが、まさかすぐ傍にいたなんて思ってもみなかった。


「――うっ? ひ、ひえぇぇえぇ!?」

「湊くん、驚きすぎ。どう? 気持ちいい?」

「……え? 何だ、冷たすぎる缶コーヒーか。気持ちいいというか何というかね」


 これも沖水の得意技と言っていいが、何かしらの驚かしをするのが好きな彼女だ。


 俺と沖水のやり取りに、優雨とみちるはポカンとしていた。


「……何だ? どうした?」

「どうかしました? 二人とも」

「沖水ちゃん、すごい!! 湊くんを早くも手懐けているなんて! ど、どうやったの?」

「……経験の差、そういうことなんだ?」


 手懐けとか、それは違うと思うが……沖水を見てみると、何とも嬉しそうな微笑を見せていた。


「そんなわけで、ボクと蒼ちゃんは空気を読むことにしたのだ!」

「何?」

「高洲、夫婦水入らず」

「夫婦じゃないからな? みちるもそんな、空気なんて読まなくても……」

「湊くん、嫌……ですか?」

「じゃないです……」


 みちるを連れて来た時点で、そんな予感はしていた。


 いきなり二人きりとか、聞いていないんですが?


 そんな俺の心の叫びに関係なく、優雨とみちるは、食堂からそそくさといなくなってしまった。


「……食べよ?」

「で、ですね……は、はは」

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