251.恋するあゆの気持ちSS④
転校して来てから出来た友達は、椿優雨だけ。
元々わたしから話しかけることが無いとはいえ、転校生ってこんなものなのだろうか。
だけど見る感じでは、このクラスは一人の男に数人の女子が集まっていて、他の女子は興味がなく話しかけてもいない。
その男はどうやら優雨の兄らしく、湊くんに似た不思議な雰囲気を感じる。
彼を取り巻く女子の中には、闇を抱えている女子もいるっぽいけど、わたしとはタイプが違うので話したくない。
それなのに、兄と共に紹介された時はお互いに気まずかった。
「優雨ちゃん、話って何?」
「それそれ、それなんだよー! 自慢にもならないけど、兄を紹介するよ!」
「……どうぞ」
「ってことで、コレが兄!」
「ご紹介に預かった、兄こと椿秋晴とは俺! そういう君は沖水あゆさん! 君はツイているよ。この俺の雑知識によって、日常は大きく変わるであろうからね! 遠慮しないでいい。好きなだけ話しかけてくれたら、誠心誠意お答えしよう!!」
「はぁ、どうも……」
湊くんとは全然違う……こんな面倒くさそうな男は、関わりたくない。
それなのに常に2人の女子が、この男の傍に立っているのはどうしてなのか。
「沖水さんですよねー! すごい~! 転校生さんなのに、もう馴染んでいるなんてさすがです。どうか素敵な毎日を過ごしてくださいね!」
「あ、ありがとうございます」
「おぉ、愛しのみのりん! 沖水さん、彼女から3つのSを頂けるなんて、何てうらやま!」
「……そうなんですか? S?」
「みのりんは3Sを多用するけど、初対面の人に使うことは珍しく、それでいて……」
ああ、面倒くさい男だ。面倒な男には、面倒そうな女が取り巻く運命なのかもしれない。
すごいとか、さすがとか……心にもないことを使う辺りが闇っぽいけど、わたしのソレとは何かが違うだけに、気付いた彼女も対応しづらいみたいだ。
「では、また話をしましょうぞ!」
「あ、はい……」
もう一人の女子は口も聞かなかったけど、興味は無いからいい。
「沖水ちゃんごめんね~! アレがボクの恥ずかしい兄なのさ」
「ううん、兄とかいればいつでも話が出来るから、いいなぁ」
「むぅ、そうか。沖水ちゃんはいないのかー! それならやはり、湊くんだよね!」
何でそこで湊くんが出て来るんだろう。この子は、よほど湊くんが気に入っているんだな。
「そんなわけで、湊くんに近しい女子を紹介しよう! 彼女とも友達になって、湊くんのことを共有するのだ~!」
「へぇ……? 近しい女子?」
「連れて来るね!」
「はい」
そう言って優雨が連れて来た女子は、見覚えがあった。
芝居じみたセリフで、湊くんの嫁とか何とかを言い放った、長身の女子。
「――! あなたは……どこかで?」
「いいえ、沖水と言います。初めまして……」
「え? あれれ? 何だか空気が変わった?」
ここで鮫浜と言われるのは避けたいし、思い出されても困る。
それよりも湊くんとは、結局どういう関係なのかを聞き出すことに時間を使おう。




