241.男の娘、本気出す? 1
「あははっ! 全く、湊もおかしなことに巻き込まれ体質だよね」
「そうならざるを得ないのが隣に住んでるから仕方ないんだけどな~」
「突き放さないし、嫌いでもない……優しいからこその結果なんだろうけど、本当に湊は放って置けないよ……」
「浅海?」
「あのさ……」
「うん?」
クラスも違えば立場的なものも違うせいか、浅海とは全く会わなくなっていたが、一応護衛役ということで、話がしたい時に浅海は顔を見せてくれるわけだが……。
歯切れが悪い時の浅海は、大抵嫌なことを命令された時か、それ以外の企み……もしくは本人の悩みによるものが大きい。
「友達の湊に頼みがあるんだ。聞いてくれるかな?」
「む? 何をそんな改まるんだよ。ダチだろ? 遠慮するなよ!」
……そうは言ったものの、学校が変わっても超絶美少女姿の浅海に呼び出されて、しかも自分のクラスの廊下で立ち話をしているだけで、変な所から汗が出まくりだったりする。
さよりは浅海の姿を知っているだけに絡んで来ないが、何も知らない野郎どもはそうはいかない。
「おいおいおい~! 高洲は女をとっかえひっかえかよ!」「何人目の女だよ、くそ!」「振られてもネクストが控えているとか、リア充爆発しろ」などなど。
女ではないんだが……しかし同性のはずなのに、その辺の女子よりも華奢で綺麗な顔立ち、声だけ聞いていればむさい野郎とは、比べものにならない男だ。
「う……おっ!? ちょちょちょ! こ、ここで抱きしめちゃあかーん!」
「(昼休み、オレともっと深い話をして欲しいんだ。だから、D組に来て)」
浅海が抱きついて来る時は、大体がコッソリ耳打ち。
しかし誰もが見ている(ほぼ野郎)時にしなくてもと言いたくなるが、よほど内緒にしておきたいということなのだろう。
「……わ、分かった」
「ん、ありがと。じゃ、待ってるから!」
「お、おー」
抱きついて来たかと思えば、すぐに離れる所も潔い。
しかしD組とか、そういえば自分のクラスが何組なのかも気にしたことが無かった。
廊下から教室に入るとすぐに、首を左右に動かし、呆れ顔で近付くさよりが声をかけて来た。
「あなた、つくづく……」
「何だよ?」
「……浅海さんも相変わらずだけれど、あなたはもう少し危機感を持つべきだわ!」
「何の危機だよ」
「な、何って……あのその、ごにょにょ……」
「知っての通り、見た目はああだが男だからな? そしてダチだ。いい加減慣れろ!」
「そ、そうなのだけれど……何だかアッチに行きそうな気がするのよ」
「どっちだよ!」
さよりの言いたいことは身をもってすでに体験済みであり、そこまでして来ないという自信がないのも確かだ。
ソレをしてくる時点で、ダチではなくなるからだ。
「……さよりさんが心配しなくても、二重契約なんかしないぞ。心配すんなよ」
――と言いながら、無意識にさよりの頭をなでなでしたのも後の祭り。
「あっやばっ……」
「きゃぅぅぅぅぅぅん!! な、ななななな!?」
「悪ぃ、何の意識もしてなかった。そんな興奮することじゃ……って、聞こえてないですか、そうですか」
顔を真っ赤にしながら、さよりはどこかの世界へ妄想トリップしてしまった。
こうなるともはや何も手の施しようがないので、放置して自分の席へ戻るしかない。
「よぉ、色男! あいつをあんな姿にさせているのも、みなとのせいだってな?」
「違いますって! 嵐花の前でも男の姿の方が少ないんですよね?」
「あたしが言っているのは池谷……まぁ、八十島でもいいけどよ。その前に八十島はあたしの前にも姿を見せないからなぁ。鮫浜の時に培った、隠密的な行動が染み込んでいるんだろうけどよ……」
鮫浜についている時は確かにそうだった気がする。ここぞな時にしか、姿を見せて来なかった。
「んで?」
「へ? な、何ですか?」
「人の目に晒されながら会いに来たってことは、とうとうアレか?」
「言っている意味が不明なんすけど……アレって?」
「決まってるだろう? 愛の告白――むぐっ!? な、なにしやが……」
「い、いくら嵐花でもそれは言わせませんよ!! あ、すみません」
浅海、さより、嵐花……立て続けに、注目を浴びまくっていたことで、さすがに担任の先生に注意を受けた。
「あたしより八十島とか、お前まさか……いや、いいや。さくらの授業に集中しとけ!」
「すみません……」
とにかく昼休みは、俺も隠密的な動きで浅海に会いに行くしかなさそうだ……。




