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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第1部第一章:天使と悪魔と美少女

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24.姫ちゃんの差し入れとほんの出来心?


 明日で汐見しおみ君の運命が決まると思うと、俺は思わず目から汗が出てしまいそうになっていた。それはともかく、未だに何の連絡も無しに両親だけが旅行に行ったきりという現状に、いい加減飽きてきた。ご飯のレパートリーというと、今まではファミレスからのまかない残り物で済ませていたし、コンビニ飯で何とかしていた。一部怪しげなお肉の展開もあったが、アレは池谷いけがやが全て平らげたので問題なし。そういや、ファミレスが改装工事に入ってからは教室でもさよりと話すことが無くなっていたのだが、あいつの日常はどういう感じなんだろうなどと思ってしまったのは間違いだった。


 ピーンポーン。滅多に来客が無い家のチャイムが鳴ったことに気づいた俺は、何となくの嫌な予感を感じながら渋々玄関の扉を開けた。そこに立っていたのは会う機会の無くなってしまった池谷姫ちゃんだった。


「ひ、姫ちゃん? な、何かな」

「高洲。これを食べろ! お前にやる」

「それは何かな? 何だか美味しそうな匂いが漂っているけど」

「食べるなら家の中にしろ。ここで食べるな」

「ここでは食べないよ。けど、どうして俺に持ってきてくれたの? というか、久しぶりだね」

「高洲は嫁だから。だから会えないのはおかしい。今夜の為に料理の腕を上げてきた。嬉しいか?」

 嫁設定生きていたのか。確かにそういう関係なら全く会わないのはおかしい。最初から冷えた関係は寂しいしな。料理の腕を俺の為に上げて来たとか、何だこの子……可愛すぎる。こんな玄関でお礼を言ってそのまま家に帰すとか、それはあんまりだよな。まぁ、すぐ隣だし数秒で帰れるけど。ほんの出来心だったとしか言えないが、俺は姫ちゃんを家の中に入れたくなった。拒むことも無く、「分かった」なんて言いながら素直に家に入ってくれた。


「何か飲む? ジュースとか炭酸とか、コーヒーも出せるよ」

「高洲のキス」

「いやいやいやっ! それ飲み物じゃないからね? そりゃあ流し込めるのが無いわけでもない……ごにょごにょ」

「――?」

「ナンデモナイヨ。それはそうと、家の人にはきちんと言ってきた?」

「ん。母に伝えた。高洲に嫁いでくるって言ってきた」

「や、それはあかんやつ。もちろん冗談だよね? そうだと言って、姫ちゃん!」

「うん、冗談。でも半分くらいは本当。高洲は今一人。だから、かわいそうって母も知ってる。あたしが世話をするって言ったら、いいって言ってた」

「そ、そうなんだ。イイハナシダナー……じゃなくてね、姫ちゃんは何で俺なの? ファミレスでもそうだったけど、どうして俺を?」

 年下で中学生の子なのに、ここまで深いことを聞くつもりは無かった。それでも俺は気になった。キスなんかは単なるお礼だということくらいは分かる。だけど、いくら隣近所だからでしかもホールで優しく教えていたからと言って、ここまで好意を示されるのは何でなんだろう。ずっと非モテだっただけに、素直に信じることが出来ない俺だった。


「優しい。それにいい声。高洲の声はあたしに響いた」

「それはだって、優しくもなるよ。姫ちゃんは女の子だからね。それに職業体験に来てくれてるのに嫌な思いはさせたくなかったんだよ」

「高洲、あたしと結婚する。いい?」

「その前に姫ちゃん。どうして普通に話が出来るのに、そんな話し方をするのかな? 俺は知ってるよ。姫ちゃんが他の友達と話していたこと。どうしてそんな――」

 姫ちゃんは普通の女の子だ。その根拠はファミレスの休憩室で、他の子と会話しているのを聞いてしまったからだ。それなのに、明らかに俺に対して話す言葉は作っている。それが何故なのか分からなかった。


 これは俺の推測なのだが、他の子は同級生だからいつもの口調になっていたけど、俺は年上でいつも会えるわけじゃない。だから大人ぶった言い方なら、近付けるとでも考えたのかもしれない。


「嫌いですか? わたしのこと」

「嫌いなわけないよ。俺は姫ちゃんの告白を受けることが出来なかったけど、好きだよ。許されるなら付き合いたいって思ってる。でも、今は無理だよ」

「何故ですか?」

「姫ちゃんはまだ中学生だから。たった一つの年の差だけど、俺は心配させたくないんだ。姫ちゃんのお母さんやお父さんをね。だから付き合うなら、姫ちゃんが学園……いや、高校に上がったらそうなりたい。だからだよ」

「そう、ですか。そんなことですか。なら、好きなままでいいですよね? それと、話し方はわたしなりの気持ちです。言いたくないけどさよりの変な口調でも、高洲さんは突き放してないですよね? 優しい人だなって思いました。あんな姉でも相手をしてやってるのって、優しすぎますよ」

「さよりは見た目が美少女でも、中身がああだからね。あれはあれで放っておけない。好きじゃないけどね。姫ちゃんは可愛いよ。さよりよりも美少女になれる! でも今はただの隣の高洲ってことでいいかな」

 付き合いたいが、やはり厳しいと思う。ただでさえ、隣人には闇もアホの子もいるというのに迂闊に手は出したらあかん。闇の動向もやばいし気になる。アホの子が姉だという事実も何とかしないとダメだろうな。


「高洲さん。さよりに負けてないですけど、どうですか?」

「いっ? そ、それは見せたらダメな所! てか、下から眺めてくるような上目遣いは危険すぎるよ? 男は勘違いするんだよ? 姫ちゃんのうるうるな瞳を見つつ、ふくらみのある所まで見えてしまうよ」

「見ていいし、触れてもいいです」

 なんちゅう大胆な妹ちゃんなんだ! キスどころか、体に触れただけで妊娠すると思っているさよりとはまるで違いすぎるじゃないか。いい意味でさよりは反面教師になっているということなのか。


「――姫ちゃん」

「……んっ――」

 ほんの出来心だったんです。許してくださいと闇の方角に向かって、俺は心の中で土下座をしまくった。

「え、えーと、今はこれくらいで勘弁してね。俺なんかのキスでごめん。イケメンでもないのに」

「そんなことない。好きなのでそういうの気にしてない」

「ありがとう」

「うん」

 本音を言えば妹になってくれ! なんて叫びたい。だがキスをしてしまったし、もはや時すでに遅し。そんな葛藤はすでに無駄である。時間にしたら大して経っていないし、そもそもせっかく持ってきてくれた料理をまだ口にもしていない。これは駄目だ。


「あ、料理覚めちゃったかな。ごめんね、せっかく……ところで、以前にさよりが持ってきた料理も、もしかして姫ちゃんが?」

「アレは失敗作。だけど、それを無理やりタッパーに詰め込んでたから驚いた。食べた?」

「美味かったよ。そうじゃないかなとは思ってたしね。ありがとう、姫ちゃん」

「いつでも作るから」

 あれ? これはどんなラブ展開? いや、でも付き合えんしな。残念だ。


「湊! いるんでしょ! 玄関を開けろや! 妹を返しなさい」

 残念って二文字を心の中で思うだけでも駄目なの? バッドなタイミングで玄関の扉を叩いているんだが? チャイムが鳴った音も聞こえなかったし、とうとうチャイムの押し方も分からなくなったのか?


「高洲……湊さん。また来ていい?」

「歓迎するよ。姫ちゃんならね」

 おいおい、湊くんよ。お前はイケメンではないぞ。イケボであって、そんなキザすぎるセリフは……イケボだからいいのか! 


「じゃあ、また」

「またね、姫ちゃん」

 さよりにああだこうだと言われるのは面倒なので、裏の扉から外へ出してあげた。さよりを気にすることなく、姫ちゃんは自分の家に戻って行った。それなのに、今度はさよりが俺の許可なく、家に上がり込んできた。どういうつもりだコイツ。一回家に上げたことがあるから遠慮も無くなったのか?


「姫はどこなのかしら? 隠し立てすると許さないわ!」

「は? 来てねえよ(さっきまでいたけど)」

「嘘おっしゃい! そこのタッパーはあの子が作っていた料理が入っていたのよ? それが空っぽということは、あの子の前で食べたってことでもあるじゃない! 姫を返しなさい!」

「何も入ってないタッパーが、どうしてあの子の物だって分かるんだよ? 何か証拠でもあんのか?」

「うるさい、うるさーい! 湊のくせに生意気すぎるわ! あなたと無駄なやり取りしていても仕方がなさすぎるわ。悪いけれど、姫を探させていただくわ!」

「お好きにどうぞ。どこを探したって見つからないけどな」

「ふんっ! そんな減らず口は今にきけなくなるわ。あなたの家を隅々まで探すわ! あなたはここで待つことね。姫を連れて来た時のあなたの顔が目に浮かぶわ」

「好きにしろ」

 全く、どこにいてもやかましい奴め。今さっき返したばかりで俺の家に姫ちゃんが残ってたら、逆に怖いっての! そして俺には遠慮のかけらもしなくなりやがったな。前はもっと少しは遠慮がちだったし、俺の家に入るだけで子供が……とかほざいてたくせにな。出てくるわけがない姫ちゃんをせいぜい探すがいい。

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