22.綺麗な少女との禁断の出会い。その名は……
「高洲~帰んねえの? 今日から2クールでアニメ始まんぞ。早く帰って見ないと手遅れることになる」
「俺はいいよ。やっぱりアニメよりも現実で見たいし。出来れば透き通るような肌と、どこかの世界のツアーに連れて行ってくれる高音ボイスな美少女を希望」
「いやいや、そんな高レベルな女子はウチの中学にはいなくね? 夢を見るのは二次元に限る!」
「分かんねえぞ? 俺らが知らないだけでしぶとく放課後を堪能していれば、ばったりうっかりと廊下でぶつかるかもしれないだろ。俺はそれに懸けるんだ! だから、お前は先に帰っていいよ。後で感想ヨロ」
「だからお前の夢語りはイラネー。せっかくいい声してんのに、そういう妄想ばっかり言いふらしてるからモテねえんだぞ? 早く何とかしないと高校上がっても、非モテまっしぐらになんぞ? いいのか、それで」
「いいじゃないか、美少女は正義だ! 綺麗すぎる少女は夢を与えてくれるんだ。だからまだ見ぬ少女を俺は探す」
俺、高洲湊は中学の頃から、綺麗すぎる少女に夢を持ち、いつか出会って素敵な恋と希望と愛を手に入れまくると、誰かれ構わずに言いふらしていたイタイ少年だった。いいじゃないか! 言うのは自由だ。
それが非モテへの第一歩でもあったわけだが、それを言うきっかけとなったのは、とあるアニメのヒロインの中の人が美少女だったからである。中の人も美少女で、アニメヒロインも美少女ってそれは反則以外の何物でもない。
そうは言ってもどちらにしても会えない美少女であり、結局はアニメにハマってハマりまくって、自己満足という自己完結をするしかなかった。アニメにハマり、アニメダチが出来てしまい、ますます非モテ街道へ前進しまくりでもあった。
さすがにそのままの状態で高校生になるつもりはない。そう思って、隈なく歩いたはずの学校内を、それでもしつこくさまよい続けていたある日の時のことだった。
何やら数人の女子たちが突き当たった廊下の方で、誰かに何かを問い詰めているという光景に出くわした。正直言って自ら死地に飛び込みたくない。どうみてもいじめのようにも見えるのだが、そこにいたのは、どこからどう見ても、今まで見たことのない綺麗すぎる少女だった。
こういう場面で男子が止めに行っていいものだろうかと迷っていたが、ここで助ければ俺にはハッピーエンドが待っているはずだ! いや、終わらないけど。ということで、俺は迷うことなく禁断の扉を開いた。
「キミら、よってたかって何してるの? アレかな、俺と同じ仲間なのかな。綺麗な少女に引き寄せられたんだね、分かる、分かるよ!」
「はぁ? 誰だよお前。雑魚男子はあっちいけ」
「ウチらに喧嘩売ったら、無関係男子でもこの先、非モテの人生歩ませるけどいいの?」
などと、恐ろしいフラグを立てようとしている女子たち。お前らに非モテの苦しみが分かるのか? それをさらに延長させて、大人になるまで継続させるつもりか? そんなのは断る! だが、綺麗すぎる少女は俺が守る!
「いや、てか、そこのキミ! こっちだっ!」
「あっ……」
おいおい、どこの英雄なの? 俺のキャラ違くね? そんな感じで俺と俺の中の奴とで、心をせめぎあっていたのだが、綺麗すぎる少女の細すぎる手首をがっちりと掴んでその場から走っていた。どうしちゃったのかね? 俺はこんな積極的な男子でもないしイケメンでもないよ。
「はぁ……はぁ、はぁ~」
走り出しといて息切れを起こす俺。情けない。手首を掴まれたままの少女は息なんか切らせていないのに駄目駄目じゃないか。
「もう大丈夫。どこまで行くの? キミ」
「え? お、おぉ……ここはどこだろう」
「外だね。それもどこかの学園っぽいけど、どうするの?」
とにかく救いたくて、中学の校舎から飛び出して走りまくった結果、見たことも無い大きすぎる学園に来ていた。これは高校だろうか。何かの縁でもあるのかな。
「繋いだ手、離していい?」
「ご、ごめん」
「どうして俺を助けたの?」
おや? 綺麗すぎる少女は俺が一人称なのかい? それはそれで萌える。
「キ、キミが俺にとっての最高の美少女だったから。だから、あんな場面でも飛び出さずにはいられなかった。それとそうしなきゃいけないって思った」
「美少女……か。望んでなくても、それが最高と思う人がいるんだな。何か気に入ったよ。俺はアサミ。君は?」
「俺は高洲湊。よ、良かったら、友達になってくれませんか? 君をいつでも近くで見たい」
アニメに感化されまくりである。初対面でそんなこと言うとか、俺はアホなの? しかも友達希望しといて、愛の告白とかあり得ねえ。
「いいぜ! 俺も湊が気に入ったよ。俺のこともアサミって呼んでいいよ。今日から友達だ。これから湊と一緒に色々なことをしたいし、遊びにも行きたいな」
あら? これって告白が成功した系? いやいや、そうじゃないだろう。友達って言ってたぞ。一緒にあんなことやそんなことをしてくれるとも言ってた。もちろん、お友達という意味だ。それにしても、さっきから寒気がいや、鳥肌が立ちまくりだ。何でだろうな。
こんなにも綺麗すぎる少女を目の前にしているのに。こんな見たことも無いスペシャルレアすぎる少女は出会ったことが無いというのに何故だ。
もしやそういうことか? 出会ったことが無いから俺の体はどう反応していいのか困っているのか。
「と、ところでアサミは、その俺言葉が普通なのかな? 君みたいな美少女はもっとこう……」
「美少女はわたしとか、わたくしとかで話せって?」
「そうかな、うん」
「湊には悪いけど、これは変えられないな。俺は俺だし。とりあえず友情の証に抱きしめようか」
「だ、抱きしめ? い、いいの? 俺、仮にも男だよ? 君のような美少女に抱きついたら、そのまま押し倒すかもしれないよ?」
「いいよ。望むところだ」
おおおお! 非モテ脱出ですね、分かります。ふっふっふ、あの女子たちの目論見は外れたようだな。今日から俺はモテモテ男だ。その一人目がまさかの綺麗すぎる少女ですよ。
「アサミ!」
「おう!」
俺は思いきりアサミに抱きついた。何ともいい香りが俺の全身を包み込んでくる。これが美少女の香りか。華奢だし、何もかもが細いし最高すぎる! 友達から彼女にステップアップするのも夢じゃないぞ。
しかし何かの違和感に気づき、俺は気になって正直に疑問をぶつけてしまった。
「あれっ? アサミはブラジャーを着けていないのかな? 無防備すぎると思うんだけど」
「着けるわけないだろ? 女じゃあるまいし」
「はひ? 今なんと?」
「女じゃあるまいし。ん? あぁ、ごめん。言ってなかったかな。俺は男だよ。こんな格好してるけどさ。まぁ、髪も伸ばすだけ伸ばしてたらこんな長くなってしまったんだけど。やっぱ、短くして男らしくした方がいいかな?」
「駄目です! アサミはそのままがいい。俺が認めるよ。アサミはそのままでも好きだ」
「お、マジで? じゃあ、そのままここの学園に通おうかな」
「ここの学園に通う? それなら俺も通うよ。せっかく出会えたんだ。そこで同じクラスになったら、アサミの近くにいたい」
これは禁断の扉かな? こ、後悔は無い。男が男に惚れるというのもありだろう。ただし、ソッチの話じゃない。俺にとっても初めてまともな友達なんだ。アニメダチも悪くは無いけど、色んな話が出来る友達がいい。
そんなこともあり、今ではお察しの通り浅海よりも俺の方が彼の美しさに夢中である。ただし、ソッチには進まないようにしている。浅海本人もソッチ側ではないのだ。
学園に上がると同時に、浅海はその美貌とスタイルと男らしさがプラスされて自称美少女たちに守られるようになった。俺はそこに近づくことが出来なくなったのだが、俺唯一の武器と盾が略。そう言えば、そもそも何故そんな姿でいたかというと、浅海はこう言った。
「俺も美少女が好きなんだ。自分でなれるんだし、いつでも鏡で見られるだろ?」
「うおう! なんというナルシスト」
「でも、今は違うよ。湊に見て欲しいし、湊に夢中になって欲しいんだ。友達として好きだからね」
ほ、惚れ……てはいけない。耐えろ俺。耐えて、本物の美少女……もちろん、女子の美少女と出会って、彼女にしたいんだ。そうは言っても、浅海以上の美少女がいて、浅海以上のいい男……いや、女がいるかどうかだな。
キャラクター紹介 八十島浅海 ※男の娘
身長体重全て非公表。髪がとても長い。目鼻立ちがハッキリしていてとても美少女。一人称は「俺」
湊との出会いは中学時。その時から男の娘だった。ただしその理由は……。
母親がいる時や、プライベート時は本物のイケメン男子に戻る。友達は湊だけであり、湊のことがかなり好き。ただし、その気は無い。あくまでも友達としての好意である。




